ニューヨークを代表するミュージアム、メトロポリタン美術館が今年で創立150周年を迎えました。メットで毎年人気になっている特別展の一つが、春から秋にかけて開催されるファッション展です。今年はコロナのため、開催が遅れてしまいましたが、150年間のファッションの変遷とその普遍性をテーマにした、記念の年にふさわしい待望の2020年のファッション展、About Time – Fashion and Duration がいよいよはじまりました。コスチュームインスティチュートのコレクションから選ばれた、ブラックカラーをベースにした、過去と現在、異なる時代のファッションを対比した60ペアものドレスの展示が素晴らしく、そして何よりも、鏡や時計を駆使した時間をテーマにした幻想的なメトロポリタン美術館のファッション展ならではの豪華なディスプレイに感動します。
今年で、150周年を迎えたメットの2020年の注目のファッション展、About Time – Fashion and Duration が、いよいよ10月29日からはじまり、2021年2月7日まで開催されます。例年は、コスチュームインスティチュートによるメインのファッション展は、メットガーラが開催される5月初旬から秋にかけて開催され、今年は、もともとは、5月7日からの開催が予定されていましたが、コロナのため、メットガーラは中止になり、ファッション展も約半年遅れでの開催となります。
会場となっているのは、昨年のキャンプをテーマとしたファッション展、Camp:Notes on Fashion 同様、2階南側の Iris And B. Gerald Cantor Exhibition Hall (ギャラリー999) です。まだお昼頃ですが、ポスターには、今日の特別展チケットは完売しました、というお知らせが!
ファッション展は、毎年人気で、ギャラリーは人でいっぱいになりますが、今年は、ウィズコロナということで、会場内の人数を制限するため時間指定のチケット制になっています。特別展のチケットの指定時間にやって来ましたが、そこには長い列ができ、会場へとずっと続いています。ちなみに、以前までは、時間指定チケットが必要なかった、メット150周年記念展 の特別展の方も、現在では時間指定チケットが必要になっています。ちょうどその列も、同じ廊下の右手にあります。特別展入場待ちの列ができ、多くの人が集まるからか、空調が強くこのエリアだけ結構寒いので羽織るものを持っていくと便利です。
メトロポリタン美術館のファッション展のチケットの予約は、オンライン でチケットを購入する時に合わせて特別展の時間予約もできるようになっています。ファッション展などの特別展の入場料は一般の入場料に込みなので上乗せ料金はありません。
ニューヨーク州在住者など、Pay What You Wish で入場する人は、当日、カウンターで特別展の時間指定チケットを入手します。週末などは、開館前から長蛇の列が出来ています。特別展のチケットは限定数で早々に完売となってしまうので、ファッション展狙いの人はオンラインで時間指定チケットを予約して訪れるのが確実です。
指定時間前後になったら、会場へと続く列に並び、ゆっくりと進んで行きます。会場前のスタッフに特別展チケットを提示し、いざギャラリーに。どこか別世界にワープして行く感じで、ワクワクする幻想的な入口です。
ギャラリーに着くと、そこには、黒いドレスがズラリと並んでいて壮観です。厳粛な感じで、黒いドレスが並ぶ展示は、パンデミックが世界を席巻している今年2020年の現状にマッチした雰囲気と言えるかもしれません。展示は、ペア毎に展示番号、作家、種類が記されていますが、全作品の詳しい紹介は、こちら で見ることができるようになっています。
今年は、ウィズコロナのため、狭い通路での展示はなく、時間をテーマとした、広々とした二つの大きなギャラリーからなる構成です。一つ目のギャラリーは、お部屋が丸ごと時計のデザインになっていて、中央では振り子が規則正しく揺れて時を刻んでいます。このギャラリーでは、メットが設立された1870年から20世紀中頃にかけての歴史あるドレスとそのペアのドレスが対比されて展示されています。今年は、会場内の人数制限を行っているため、ゆったりと見て回ることができるようになっています。
手前の作品が主となり、歴史順に、関連性のある作品と共にペアで展示されています。100年以上前のファッションでも古さを感じさせない素晴らしい作品が多く、流行の移り変わりという変遷はありますが、美しさの普遍性も同時に感じることができます。イギリスの著名女性作家、ヴァージニア・ウルフ (Virginia Woolf) さんの著作から時間に関する詩的な表現が引用されナレーションがされています。
体にフィットしたプリンセスライン(Princess Line) と呼ばれるスリムなドレスは、1877年のもので、この頃流行したデザインだそうです。そんなデザインを現代的に主張しつつも控えめに表現した Alexander McQueen の1995–96年のタイトなスカートが一緒に飾られています。スカートの後ろの部分には、プリンセスラインのドレス同様、控えめではありますが、飾りがついています。
テキスタイル業界の経済危機とスリムなプリンセスラインへの反発から復活したのが、ボリュームのある、バッスルスタイル (Bustle Style) です。1885年のバッスルシェイプのウォーキングドレスが、Yohji Yamamoto のバッスルシェイプに似合いそうなコートと一緒に展示されています。
左側手前の1895年のレインコートと共に、2020年の JW Anderson のコート。部分部分は異なっていますが、とても似た雰囲気の仕上がりです。100年以上の時を経てもデザインの根底は引き継がれているのがわかります。
肩口とウエストの対比が印象的なブルックリンのドレスメーカー、MRS. ARNOLD の1895年のディナードレスに合わせて、そんなイメージをベースに、非対称にした COMME DES GARÇONS の2004年のアンサンブルが展示されています。
2017年のメットのファッション展は、コムデギャルソンの川久保玲さんがテーマとなっていました。
第二次世界大戦後、1948年のクリスチャンディオールの新時代の到来が感じられる豪華さと繊細さを合わせ持った Diamant Noir イブニングドレスと、そんなディオールの影響が感じられるアメリカ人ファッションデザイナー、Norma Kamali の1977年のドレスです。
花をモチーフとした素敵な素材の豪華ドレスのペアは、ジバンシィ (HUBERT DE GIVENCHY) の1957年のイブニングドレスと、現在のプラダのクリエイティブディレクターである RAF SIMONS が、ディオールのクリエイティブディレクター時代にデザインしたドレスです。
About Time – Fashion and Duration 二つ目のギャラリーに入ってくると、目の前にパーと広がる、キラキラした空間に感動します。一つ目の時計のお部屋のギャラリーはクラシカルな雰囲気で光のない世界だったのですが、二つ目のギャラリーはそれとは対照的に、全体が鏡張りで、派手な幻想的な世界です。こちらも時を意識したデザインのギャラリーで、円を描くように曲線上に進んで行きます。こちらのギャラリーでも、二つのドレスがペアで展示されていて、20世紀後半以降の作品が、主になり、それに合わせて、ペアの作品が選ばれています。
ギャラリーは四方八方、壁も天井も鏡の面白い世界観になっています。見上げてみると不思議な光景が広がっています。
シャネルの創業者でデザイナーの Gabrielle Bonheur “Coco” Chanel の1963年のスーツと、1982年から2000年までシャネルのクリエイティブディレクターとして活躍したファッションデザイナー、Karl Lagerfeld の1994年のスーツ。
ジップをデザインの中心に据えた Rudi Gernreich の1968年のイブニングドレスと合わせて、Azzedine Alaïa の同じくジップが主役の2003年のドレス。
ダリの作品に出て来そうな Issey Miyake の1994年のプリーツを駆使したシューレアリスム的な、その名も「空飛ぶ円盤」というドレス。プリーツで知られる20世紀前半に活躍したスペイン人ファッションデザイナー、Mariano Fortuny の1930年のデルフォスドレスと並んで。
Viktor & Rolf の2005年のリボン尽くしのアンサンブルと合わせて、クラシカルなリボン柄の Madeleine Vionnet の1939年のイブニングドレス。
21世紀らしい3Dプリンターで制作された面白い形のドレスと一緒に、20世紀アメリカで活躍したファッションデザイナー、Charles James の1951年のこちらも個性的なシルエットのボールガウン。
一番最後は、とても幻想的な演出で登場。過去のドレスのレースをリサイクルして制作したという、今らしい美しいドレス、Viktor & Rolf の今年2020年の作品です。ふんわりと舞うように幻想的に飾られています。テーマは「サステナビリティ」。ファッションをはじめ様々なエリアで、今共通の問題となっているのが消費の加速による環境問題。環境を意識した、長期的にサステナブルな商品の提案などが求められるようになってきています。デザイン性や消費者の要望を満たすだけでなく、素材を再利用するなど、これまでとは違った角度からのアプローチにもクリエイティビティを発揮する時代になって来ていると思います。
現在、ファッション業界では、SNSをはじめとしたデジタル化による消費速度の加速もあり、お客さんが求める変化のペースに追いつけない状態になっているそうです。今回の展示では、そんな時代のこれからの指針として、ファッションの賞味期限、流行の変遷のスピード、今後の新潮流などファッションにおける時間と時代性をテーマとした、とても面白い特別展になっていておすすめです。
こちらは、コスチュームインスティチュートの Andrew Bolton さんによる、今回の展示の紹介映像です。
特別展会場を出てくると、ファッション展のギフトショップがあり、今回の特別展のカタログをはじめ、ファッション展のお土産が色々と揃っています。今年ならではのマスクも登場しています。
昨年、2019年は、キャンプ、2018年は、カトリックのファッション展と、メトロポリタン美術館のファッション展では、毎年、テーマやギャラリーデザインの趣向を凝らした素晴らしい展示を見せてくれます。
メトロポリタン美術館 ファッション展 キャンプって何?カラフル、キラキラな楽しいファッションショー Camp: Notes on Fashion
メトロポリタン美術館の代表作が大集合した、150周年記念特別展もおすすめです。
メトロポリタン美術館の基本情報は、こちら!是非訪れてみて下さい。