ニューヨークのグッゲンハイム美術館では、ジャン=ミシェル・バスキア (Jean-Michel Basquiat) の知られざる一面がテーマとなった特別展が開催されています。80年代に、ニューヨークで活躍したバスキアは、最近、注目度が急上昇中ということもあり、大変人気の展示となっており、たくさんの人が個性的な作品に魅入っていました。
グッゲンハイム美術館は、ニューヨークのアッパーイーストサイド、セントラルパーク横の5番街沿いにあり、今月、フランクロイドライト世界遺産建築 の一つとして登録されたばかりの話題のミュージアムです。
グッゲンハイム美術館では、現在、メインの螺旋状のギャラリーでは、6人のアーティストたちがそれぞれのテーマでアートをキュレートした面白い特別展、Artistic License が行われていますが、合わせて最上部のギャラリーでは、バスキアの特別展が開催されています。このギャラリーは人数制限があり、大変人気のアーティストということもあり、大行列ができています。バスキアのギャラリーのある最上部付近から螺旋状に入場待ちの行列が伸びていました。
2019年6月21日からはじまったのが、Basquiat’s “Defacement”: The Untold Story と題された、警察による暴力行為 (Police Brutality) という社会問題をテーマにしたバスキアの作品を中心とした特別展です。
1983年、ニューヨークで起こったアフリカ系アメリカ人グラフィティアーティストが、警官による逮捕時の暴力的な扱いがきっかけで死亡するという悲しい事件があったことに対して、当時の多くのアーティストたちが、作品を通じて社会に訴えかけました。今回の特別展は、そんな悲しい事件とその背景にある警察による暴力的行為(Police Brutality) をテーマに、バスキアを中心に、80年代にニューヨークで活躍した、キース・ヘリングらが描いた作品の数々が展示されています。
警察による暴力行為 (Police Brutality) というと、2014年に、ニューヨークのスタテンアイランドで起こった Eric Garner 事件が記憶に新しいですが、バスキアのこちらの作品は、そんな暴力行為がより頻繁に繰り返されていた時代、1983年に起こった Michael Stewart 事件を描いています。題名は、The Death of Michael Stewart ですが、Defacement とも呼ばれている作品で、今回の特別展のタイトルとなっています。
当時の事件は、グラフィティアーティストだった Michael Stewart が、1983年9月15日、L線の First Ave 駅にグラフィティを描いていたところ、逮捕されたのですが、その逮捕の時の警察による暴行により、植物人間状態となり、9月28日に亡くなってしまったというショッキングなものです。現在では、ウォールアートは、その価値が認識され、依頼や許可を受けて描かれることが多くなりましたが、当時は、ほとんどのグラフィティアートは、公共の場所や私的な空間に、無断で描くことが多く、違法行為でした。バスキアも元グラフィティアーティストだっただけに、自分だったかもしれないということもあり、強烈な感情を抱いたと思われます。こちらの作品は、バスキアが、キース・ヘリングのスタジオで描いたもので、後に、ヘリングが、ベッドルームに飾っていたものだそうです。
バスキアは、グラフィティアーティストとしての自身の体験からだと思われますが、1983年以前から警察をモチーフとした作品をよく描いていました。そんな作品の数々も合わせて、展示されています。
1981年に描かれた La Hara と Irony of a Negro Policeman などの作品が印象的です。この2作が一番の人気写真撮影スポットとなっていました。
ジャン=ミシェル・バスキア (Jean-Michel Basquiat) は、80年代のニューヨークで、急速に有名になり、大活躍したアーティストですが、若干27歳で亡くなってしまいます。もともとは、SAMO という名前で知られるグラフィティアーティストで、ニューヨークの街中に、違法に描いたウォールアートで、その存在を知らしめていました。
グラフィティアーティストらしい作風で、文字が登場することが多く、またよく見られるトレードマークの王冠も印象的です。
代表作には、2017年に、$110.5 million で落札された、ガイコツ (Skull) を描いた作品などがあります。現在では、グラフィティアーティストの作品など、ストリートアートの作品が市場では物凄い額で取引されていますが、バスキアは、キース・ヘリングらと並び、ストリートアートの価値を高めたアーティストともいえます。また、現在、急速に存在感を増して来ている、アフリカ系アメリカ人アーティストの先駆けとなったアーティストでもあります。
バスキアの作品と合わせて、80年代にニューヨークで活躍したアーティストたちが、Michael Stewart 事件を受け、描いた作品の数々も展示されています。こちらは、キース・ヘリング (Keith Haring) の1985年の作品、Michael Stewart — USA for America です。ヘリングもグラフィティアーティスト出身の有名アーティストです。
昨年、ペニンシュラニューヨークでは、ウォーホル、バスキア、ヘリングら80年代にニューヨークで活躍したアーティストの特別展が開催されていました。
その他、様々なアーティストの同テーマの作品が、事件に関する報道の様子などと一緒に展示されています。
先日、現在開催中の ホイットニーバイエニアル に参加しているアーティストたちが、声を上げたことにより、ホイットニー美術館の取締役だった催涙ガスを製造している企業のオーナーが辞任することとなったばかりですが、現在では、様々な社会問題や主張をテーマとするアーティストも増えてきており、ビジュアルアートは、多くの人に影響を与える媒体の一つとして認識されつつあります。今回の特別展では、今から30年程前に活躍したバスキアの社会派アーティストとしての知られざる一面を見ることができます。
Basquiat’s “Defacement”: The Untold Story は、2019年11月6日までの開催です。
バスキアの特別展は、今春、ニューヨークのイーストビレッジに誕生した新美術館、Brant Foundation でも開催されていましたが、最近再び注目が集まっているアーティストです。
先日世界遺産に登録されたばかりのグッゲンハイム美術館は、建物も美しく必見の美術館です。
現在開催中のグッゲンハイム美術館の特別展から、コレクションの有名作品など、こちらで紹介しています。
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