(Islands – Bedloe’s Island 1912)
ニューヨークの自由の女神 には色々と歴史やトリビアがありますが、今日はそのうちのひとつ、意外と知られていない自由の女神のトーチにまつわるお話しです。現在、自由の女神でアクセスできるのは、最高でも冠の部分までです。でも昔は、あの自由の女神が手に持ちかざしているトーチにも入場することができたというのは意外と知られていません。
自由の女神のトーチへの入場が禁止になったきっかけはひとつの爆破事件でした。
ニューヨークの歴史的な大事件としては、2001年9月11日に起こったワールドトレードセンターのテロ事件が記憶に新しいですが、実は今から100年前にも、みんなを恐怖に陥れた大事件がありました。自由の女神はニューヨーク湾に囲まれて立っていますが、その自由の女神の後方に、トップ写真にも写っている爆弾の貯蔵庫とされていた島、Black Tom Island がありました。そして、ちょうど今日から100年前にあたる1916年7月30日に、その Black Tom Island で大爆発事件が起こりました。アメリカの東海岸では、ほとんど地震が起こることはないのですが、なんとその爆発のときには地震の規模のマグニチュードでいうと5.5レベルのすごさだったようで、その衝撃はフィラデルフィアやコネチカット州まで伝わり、ニューヨーク周辺は、自由の女神をはじめ、とても大きなダメージを受けてしまいました。
ちょうど100年前ということで、目に止まったのは、こちらの記事です。
当時、ニューヨークハーバーにあり大爆発が起こったという Black Tom Island は、現在どうなっているのでしょう。実は島は埋め立てられ、ジャージーシティーのリバティーステートパークの一部となっています。
今では緑豊かな公園の一部になっていますが、当時は船のコンテナのターミナルや、それに積み込む爆弾の貯蔵施設がありました。当時、ヨーロッパは第一次世界大戦中で、アメリカは公式には中立を保っていましたが、武器の輸出は自由で、Black Tom Islandがその武器輸出の一大拠点となっていました。アメリカは民間レベルではそれぞれの国と取引があったようですが、中でもイギリス、フランスとは関係が強く、ヨーロッパ周辺ではイギリス海軍がドイツへ向かう船などに睨みをきかせており、結果的には、イギリスやフランスへの武器の主な供給源となっていたようです。そのため、この武器・爆弾の貯蔵施設のあるBlack Tom Islandは、イギリスやフランスの敵国であるドイツのスパイの攻撃のターゲットとなっていました。そんな状況下、起こったのが大爆発事件です。幸いにも死傷者は少なかったようですが、当時の金額で$20 million、現在に換算すると$500 million もの被害があり、自由の女神も大きな損傷を受けることとなりました。被害を被った自由の女神のトーチは、現在では新しいものに取り替えられていますが、この時以来、トーチへの入場は禁止されてしまったそうです。
こちらの映像ではそんな状況が解説されています。
人的被害が少なかったことと、当時の世論、そして大統領、Woodrow Wilson さんがヨーロッパでの戦争に巻き込まれたくないという気持ちが強かったことが影響しているかもしれませんが、偶発事故という結論で、Black Tom Island でビジネスを行っていた民間の管理責任を問い、逮捕することにより、その時は事を収めました。しかし、その後、潜水艦によるアメリカ船への攻撃などドイツの挑発は続き、最終的には翌年、アメリカは第一次世界大戦に参戦することとなりました。
この事件に関しては、最終的には、管理不行き届きを立証できず、また多くの人々の懸命な調査の結果、ドイツのスパイによる犯行だという十分な証拠が集まり、国際法廷での判決の結果、ドイツによる犯行であることが認められ、後に賠償金が支払われたそうです。
このような経緯もあり、大事件であったにも関わらず、あまり歴史的記録に残されていないのかもしれません。この後、アメリカが戦時中、敵国からのスパイを恐れ、証拠なしに関係が疑われる人々を強制収容するという行動に出るようになった原因となった事件でもあるようです。
現在、残念ながら自由の女神のトーチ部分には登れませんが、自由の女神の冠と内部は見学することができます。また当時のトーチは 自由の女神の博物館 に置かれていて、見学することができるようになっています。
自由の女神の観光と楽しみ方は、こちらで詳しく紹介しています。
こちらの ビデオ では、リバティーアイランドに住み込みの管理人さんがまだ住んでいた頃、その管理人さんに案内してもらったというスペシャルツアーの様子が紹介されています。
リバティーステートパークはマンハッタンの絶景を楽しめる場所となっています。