ボルゲーゼ美術館 (Galleria Borghese) は、イタリアの首都ローマにある人気のアートミュージアムです。緑豊かな巨大な公園、ヴィラボルゲーゼ内にあり、美しい庭園に囲まれた、17世紀初頭に建てられた豪華な邸宅美術館です。ルネサンス期からバロック期、ネオクラシカル期にかけてのイタリアの巨匠たちの素晴らしいコレクションを誇り、特に、ベルニーニ (Gian Lorenzo Bernini)、カラヴァッジョ (Caravaggio) の作品群が有名です。彫刻では、ベルニーニ、カノーヴァら、絵画では、カラヴァッジョ、ラファエロ、ティツィアーノらの迫力ある作品と、その他、邸宅自体の壮麗な天井のフレスコ画や、インテリア、周囲の庭園など見どころがいっぱいのミュージアムです。大人気の邸宅美術館ということで、時間指定のチケットによる、2時間毎の完全入替制となっており、訪問前の事前準備が必須となっています。ボルゲーゼ美術館の有名作品、チケット購入方法、行き方など美術館を目一杯楽しむ方法を紹介します。
ボルゲーゼ美術館
ボルゲーゼ美術館のある、イタリアの首都、ローマは、古代ローマ帝国の中心地で多くの遺跡が残されており、西洋史やアートに大きな影響を与えた、カトリックの総本山もある、現代では、映画ローマの休日の舞台などとしても広く知られる、世界有数の観光都市です。そんなローマで、バチカン美術館や、カピトリーノ美術館などと並び、最も人気がある美術館が、ヴィラボルゲーゼにある豪華な邸宅美術館、ボルゲーゼ美術館です。
ボルゲーゼ美術館は、1903年にオープンしたアートミュージアムで、ローマ教皇なども輩出したイタリアの名門ボルゲーゼ家のシピオーネ・ボルゲーゼ (Scipione Borghese) により、17世紀初頭の1613年から1616年に建てられた邸宅が、ギャラリーとなっています。美術館の建物だけでなく、ボルゲーゼ美術館のコレクションも、シピオーネ・ボルゲーゼの収集した豪華アートコレクションが展示されています。シピオーネ・ボルゲーゼは、17世紀初頭にローマ教皇を務めたパウルス5世の甥に当たり、教皇を補佐するカトリックの最高位、枢機卿だった人物です。アートコレクターで、カラヴァッジョやベルニーニをはじめ、ルネサンス期からバロック期の巨匠の絵画を中心とした素晴らしいコレクションを収集し、その後もボルゲーゼ家により、さらにコレクションが拡充され、邸宅もリノベーションされていきました。その後、ボルゲーゼ家が財政難に陥った19世紀には、コレクションの一部が売却され、現在、ルーヴル美術館やメトロポリタン美術館など世界の名だたる美術館にも展示されています。ボルゲーゼ美術館では、アート作品だけでなく、邸宅内の各部屋に描かれた豪華な天井フレスコ画をはじめとしたインテリアも見逃せません。
ボルゲーゼ美術館があるのは、ローマの中心から少し離れた、市内北側に広がる巨大な公園、ヴィラボルゲーゼの中です。ローマの中央駅、テルミニからだと、バス(10分)+徒歩(10分)=計20分程、または、駅から美術館まで徒歩25分程かかります。ローマの地下鉄を利用する場合は、最寄りの地下鉄駅は、Spagna になりますが、駅を降りてからかなり遠く、さらに25分程歩くことになります。ヴィラボルゲーゼは、ローカルにも人気の広大な公園で、周辺には、美しい庭園、ミュージアム、動物園など様々なスポットが点在しているので、ボルゲーゼ美術館と一緒にのんびりと過ごしてみるのもいいと思います。
ボルゲーゼ美術館 Borghese Gallery
Piazzale Scipione Borghese, 5, 00197 Roma RM, Italy (地図)
ヨーロッパの有名観光スポットを訪れる際、驚かされるのが、その白熱した人気ぶりです。例えば、最近訪れたところでは、イタリア、ローマのコロッセオや バチカン、フィレンツェのウフィツィ美術館、ミラノの最後の晩餐、パリのルーヴル美術館、バルセロナの サグラダファミリア など、その日にふらっと行って簡単に入場できるものではありません。大行列必至、もしくは入場不可というケースもあり、事前にきちんと準備をしていけるかどうかで、その印象や体験も大きく変わってきます。
ボルゲーゼ美術館も、実はそんな大変人気な観光スポットの一つであり、必ず事前準備をしてから訪れるのがおすすめです。
ボルゲーゼ美術館は、邸宅美術館なので、特にキャパシティに制限があり、同時に入館できるのは、最大360人までとなっています。そのため、ボルゲーゼ美術館の入場チケットは、時間指定チケットで、鑑賞時間2時間限定の完全入替制となっています。チケットは、電話/email またはオンラインで購入できます。チケット購入は、入館料の他、予約手数料と、オンラインの場合は、ブッキングフィーがかかります。公式サイトのチケット購入ページ から購入するのですが、公式サイトから、美術館チケットなどの販売代行を行っていて、ボルゲーゼ美術館の公式オンライン販売サイトとなっている Gebart にリンクされ、そこで、入館のみのチケット、ガイドツアー付のチケットなどチケットのタイプを選び購入します。以前は、ローマパスで入館することができましたが、現在は残念ながら、ローマパスが利用できなくなっているので、個別にチケットを入手する必要があります。
ボルゲーゼ美術館の休館日は、月曜日です。
ボルゲーゼ美術館の見学時間は1日5つの時間枠に分かれています。9-11 / 11-13 / 13-15 / 15-17 / 17-19 の5つの時間枠から選択します。
通常は、事前予約がおすすめですが、閑散期などは、直前でも空いている場合もあるので、準備なしでもどうしても行ってみたいという人は、直接訪れてみるという手もあります。
ボルゲーゼ美術館の入口は、正面にあり、まず地下の階段を下りていきます。ここで、予約のチケットを交換したり、荷物を預けたりと色々時間がかかるので、指定時間の30分から45分程前の早目の到着がおすすめです。館内には、バッグ類はほとんど持ち込むことができないので、貴重品とカメラのみ取り出し、残りは預けることになります。日本語はありませんが、英語等のオーディオガイド(5€)を借りることもできます。通常、写真撮影はOK(フラッシュ、セルフィースティックは禁止)ですが、特別展の展示状況によっては写真撮影不可となることもあります。地下のフロアには、ミュージアムショップやカフェ、トイレなどがあります。準備ができたら、ギャラリーの入口で待機し、時間ちょうどに、セキュリティチェックがスタートし、入場できます。
ボルゲーゼ美術館では、地下から螺旋階段を上ったグランドフロアとフィーストフロアの2つのフロアが主なギャラリーで、その他、地下のフロアの入口付近にも小さなギャラリーがあります。2時間あれば、普通のペースでゆっくり見て回っても十分全体を見学できます。以下、メインとなる二つのフロアの構成とそれぞれの見どころを紹介していきます。
Ground Floor
ギャラリーに入場し、螺旋階段を上り、まず登場する一つ目のフロアが、1階、グラウンドフロアです。このフロアには、ボルゲーゼコレクションの主役である、ベルニーニ、カラヴァッジョ、カノーヴァなど17世紀前後に活躍したアーティストの作品が展示されています。時計回り、または反対回りでぐるっと一周すると全てのギャラリーを見て回ることができます。
グラウンドフロアで、最も印象的なお部屋の一つが、邸宅の正面玄関を入ってすぐのお部屋で、フロアの中央に位置し、館内で最も広い Salone d’ingresso です。古代ローマをテーマとしたギャラリーで、古代ローマの英雄たちの彫刻が飾られています。
天井を見上げてみると、大迫力の Mariano Rossi によるフレスコ画が描かれていて、「Mariano Rossi の部屋」とも呼ばれています。
ベルニーニ
Salone d’ingresso と並び、グランドフロアで、印象的なギャラリーが、「皇帝たちの間 」(The Room of Emperors) です。こちらも巨大なお部屋で、その中央に位置するのが、バロック期で最も有名な彫刻家、ベルニーニ (Gian Lorenzo Bernini) の1621–22年の作品、Ratto Di Proserpina (Rape of Proserpina) です。ベルニーニは、サンピエトロ大聖堂の一部の建築デザインや、祭壇の大天蓋、聖ペテロの司教座 (Throne of Saint Peter) なども手掛けたアーティストです。
ボルゲーゼ美術館は、ギャラリーの隅々まで見渡す限り、凝った装飾が施されていて感動します。
こちらは、「アポロとダフネの間」にある同じくベルニーニの1622–1625年の作品、アポロとダフネ (Apollo and Daphne) です。こちらもギリシア神話をモチーフとした作品で躍動感があります。
ベルニーニの数ある作品の中で、最も古いものが、ベルニーニが若干20歳の頃の作品、1618–19年の Aeneas, Anchises, and Ascanius です。こちらは、「戦士の間」(The Gradiator Room) にあります。
この他、「太陽の間」(The Room of the Sun) にある ダヴィデ像 (David 1623-24) など数多くのベルニーニの作品が展示されています。
ちなみに、ニューヨークの メトロポリタン美術館 には、かつてボルゲーゼ邸にあったベルニーニも関わったとされる作品があります。ベルニーニ (Gian Lorenzo Bernini) の父親、ピエトロ・ベルニーニ (Pietro Bernini) の作品で、若かった修行中のベルニーニも手伝った作品です。カラヴァッジョのフルーツバスケットの絵画が思い浮かびますが、そんな作品からインスピレーションを受けたのかもしれません。
また、ミケランジェロの若い頃の作品とされるこちらの彫刻も、かつてボルゲーゼ邸にあったものだそうです。フランス政府所有のアッパーイーストサイドの邸宅 で発見され、現在は、メトロポリタン美術館に展示されています。
アントニオ・カノーヴァ
バロック期で最も有名な彫刻家ベルニーニに対し、19世紀のネオクラシカル期に最も有名な彫刻家だったのが、アントニオ・カノーヴァです。こちらは、カノーヴァの1805-1808年の作品、ナポレオンの妹、Pauline Bonaparte を描いた Venus Victrix です。躍動感のあるベルニーニとは対照的な優美な雰囲気の作品です。カノーヴァは、ルーヴル美術館 の Psyche Revived by Cupid’s Kiss などの代表作で知られる19世紀前半に活躍した著名なイタリア人彫刻家です。
カラバッジョ
ベルニーニと並ぶボルゲーゼ美術館の主役の一人、カラヴァッジョの作品が展示されているのは、ギリシア神話のシーレーノスの彫刻が中央に飾られている「シーレーノスの間」(The Room of Silenus) です。カラヴァッジョは、ドラマチックな光と闇の強烈な対比、テネブリズムで知られるバロック初期の代表的なアーティストで、ボルゲーゼ美術館は、最も充実したカラヴァッジョコレクションを誇っています。
カラヴァッジョの代表作の一つ、1593年頃の果物籠を持つ少年 (Boy with a Basket of Fruit)。ミラノ出身のカラヴァッジョが、ローマにやって来たばかりの20歳過ぎの頃に描いた作品です。
こちらは、上の作品と似ていますが、少し雰囲気が変わって1593年頃の作品、Young Sick Bacchus。カラヴァッジョ自身を描いた作品とされています。
1605–06年の作品、Madonna and Child with St. Anne。宗教画ですが、いたずら心が感じられます。カラヴァッジョは、ドラマチックな人生を歩んだアーティストです。17世紀初頭には、一躍ローマで最も著名なアーティストとなりつつも、素行が悪く、多くの犯罪を犯し、殺人を犯してしまったことから、イタリア各地を逃亡しながら、若干38歳で亡くなります。ベルニーニ、ルーベンス、レンブラントをはじめ同時代、後のアーティストたちに大きな影響を与えました。
ちなみに、カラヴァッジョの有名作品の一つ、ゴリアテの首を持つダヴィデ (David with the Head of Goliath) は、現在、日本で開催されている カラヴァッジョ展 に貸し出されているためありません。
ドッソ・ドッシ
16世紀初頭の作品とは思えないのが、こちらのドッソ・ドッシ(Dosso Dossi) の1507年頃の作品、メリッサ(Melissa) です。ドッソ・ドッシは、ルネサンス期のフェラーラ派のアーティストで、ローマ、フィレンツェ、ミラノ、ベネチアとはまた少し違った雰囲気の作品を残しています。
それぞれのギャラリーが異なったテーマで飾り付けられているのも面白いです。こちらは、古代エジプトの像などが展示されている「エジプトの間」(The Room of Egypt)。天井には、アントニーとクレオパトラをテーマとしたストーリーが思い浮かんでくるようなフレスコ画が描かれています。
First Floor
Ground Floor からさらに螺旋階段を上っていくと、2階に当たる、First Floor があります。ちなみに、螺旋階段の途中に、ギャラリー内唯一のトイレがあります。First Floor の展示作品は、ラファエロをはじめとしたハイルネサンス期の作品、ティツィアーノらベネチア派の作品など16世紀の作品が多く展示されています。ボルゲーゼ美術館では、定時に一斉に入場となり、大部分の人は、Ground Floor からスタートするので、逆に、First Floor から見ていくと混雑せずゆったりと鑑賞できます。このフロアは地図のTのお部屋を通り抜けできないので、ぐるりと一周できないコの字型のフロアになっています。
ファーストフロアで、最も印象的なお部屋が、Giovanni Lanfranco の巨大な細長い天井画がある Lanfranco’s Loggia です。この部屋には、Scipione Borghese や17世初頭に教皇だったパウルス5世の胸像、ベルニーニの肖像がなどこの邸宅に関係の深い人物の作品が飾られています。
ラファエロ
螺旋階段を上り、ファーストフロアに到着後、真っ直ぐ進むと16世紀前半の作品が展示されている2部屋があります。
手前のお部屋には、ルネサンス3大巨匠の一人、ラファエロの作品がいくつも展示されています。こちらは、1507年の作品 The Deposition。
レオナルドダヴィンチの作品、Lady with an Ermine が思い浮かびますが、こちらは、ラファエロの1505年頃の作品、Lady with a Unicorn で、女性が可愛らしい小さいユニコーンと一緒に描かれています。
今年は、レオナル・ド・ダヴィンチ没後500年の記念の年ということで、ルーヴル美術館では、現在、史上最大のダヴィンチ展が開催されています。
来年は、ダヴィンチよりかなり年下だったにも関わらず、若干37歳で亡くなってしまったラファエロの没後500年の年に当たり、春には、ローマの Scuderie del Quirinale、秋には、ロンドンのナショナルギャラリー で、大規模な ラファエロ展 の開催が予定されています。
ティツィアーノ
コの字型のフロアの反対側最奥の「プシュケの間」(The Room of Psyche) は、ティツィアーノをはじめ16世紀に活躍したベネチア派の巨匠を中心とした展示となっています。天井には、ギリシア神話のキューピッドとプシュケ (Cupid and Psyche) のストーリーが描かれています。
こちらは、ベネチア派を代表するアーティスト、ティツィアーノ (Titian) の1514年の作品、Sacred and Profane Love。
同じく、ティツィアーノの1565年の作品、Venus Blindfolding Cupid。
ヴェロネーゼ
ティツィアーノの影響が強く感じられるティツィアーノの次世代のベネチア派のアーティスト、ヴェロネーゼの1562年の作品、St John the Baptist。フランス絵画に大きな影響を及ぼしたアーティストです。
ジョヴァンニ・ベリーニ
ティツィアーノの前の世代のベネチア派を代表するアーティストで、ティツィアーノやジョルジョーネの先生だった、ジョヴァンニ・ベリーニ (Giovanni Belini) の1510年の作品、Madonna and Child。
ロレンツォ・ロット
ロレンツォ・ロットの1508年の作品、こちらも聖母子を描いた Madonna and Child and Saints。ベリーニの後の世代で、ティツィアーノと同世代だったロットは、ベネチアでも活躍しましたが、ローマなどその他の都市も点々としており、それぞれの都市の巨匠の影響が感じられます。
The Room of Psyche の手前には、「ヘレネーとパリスの間」(The Room of Helen and Paris) があり、こちらもギリシア神話の世界がテーマとなっています。巨人が登場したりする、今でいうファンタジーのような世界が描かれています。
こんな可愛い子犬を抱いた彫刻作品もあります。
Jacopo Bassano
最後の晩餐は、レオナルドダヴィンチが描いて以来、人気のモチーフとなりましたが、こちらの中央の作品は、Jacopo Bassano の1542年頃に描いた最後の晩餐 (The Last Supper) です。随分と親しみやすい雰囲気で描かれています。
ボルゲーゼ美術館見学後は、地下のミュージアムショップでお土産探しです。お隣のカフェも賑わっていました。
お屋敷の裏手にも噴水や彫刻の数々がある美しい庭園が広がっているので、ボルゲーゼ美術館訪問前後に訪れてみるのもおすすめです。
西洋アート好きの人は、ローマを訪れたら、バチカンやカピトリーニ美術館も見逃せないスポットです。