ニューヨークのメトロポリタン美術館では、毎年話題となる人気のファッション展が、今年もスタートしています。今年は、昨年とは打って変わり、派手やかで、コミカル、または不思議感も醸し出した、独特の面白いファッションスタイルが集まる「キャンプ Camp: Notes on Fashion」 というテーマの特別展です。ギャラリーもピンク一色になり、色とりどりのキラキラ感溢れる、楽しい雰囲気のファッション展には、たくさんの人がやって来ています。
メトロポリタン美術館のファッション展は、毎年、MET のコスチュームインスティテュート (The Costume Institute) により企画される人気のイベントです。5月初旬に開催されるメットガラ (Met Gala) を皮切りにスタートし、夏の終わりの、今年は9月8日まで開催されます。昨年のMETファッション展は、カトリックをテーマとした特別展 で、メトロポリタン美術館とクロイスターズの二つの美術館に渡って、中世ヨーロッパの常設展にファッションを組み合わせた、厳かな雰囲気の中での素晴らしい展示となっていました。
そんな昨年のテーマから180度転換した今年の派手やかなファッション展のタイトルは、Camp: Notes on Fashion です。今年は、LGBT運動が盛り上がるきっかけとなった、ストーンウォール事件 (Stonewall Riot) から50年目を迎え、ニューヨークでは、プライド月間の現在、今年は、メモリアルイベントとしてワールドプライド2019 (World Pride 2019) が開催されています。
そんな記念の年に合わせ、メトロポリタン美術館のファッション展のテーマは、LGBTとも関係の深いキャンプファッションがテーマとなっていて、今年もたくさんの人がやって来ています。
今年のファッション展、Camp: Notes on Fashion は、キャンプという言葉がよく知られるようになった Susan Sontag さんの 1964年の有名な エッセイ にちなんで名付けられています。エッセイでは、キャンプを、なんと58もの特徴を挙げ、説明しており、簡単な言葉で表現することが難しい概念と言えます。今回の展示では、一括りに説明するのが難しいキャンプという概念を、その歴史的ルーツと共に、ドレス、靴、帽子など数多くのファッショングッズの展示により、ビジュアル的に理解できるように楽しく紹介されています。
Beau Ideal キャンプのルーツ
会場となっているのは、メトロポリタン美術館2階の特別展ギャラリー、Gallery 999 です。今回の展示は、大きく二つに分かれており、最初のコーナーでは、遠く遥か昔のローマ皇帝やフランス王にまで遡るキャンプの歴史的なルーツが紹介されています。
キャンプ様式の様々な特徴を体現するファッションが、メトロポリタン美術館の収蔵作品と合わせて展示されています。
水兵さんファッションの隣には、水兵さんを描いた作品が一緒に展示されています。
ティファニーグラスランプやドガのデッサンなどがエレガントな雰囲気の展示コーナーもあります。
絶対王政時代、ドレスも段々と誇張された形になっていきました。奥に見えるのは、17世紀初頭前後にイタリアで活躍したバロックアーティスト、明暗法が印象的なカラバッジョ (Caravaggio) の作品です。
ふんわりした、とても可愛らしいデザインのドレスも色々あります。
アンディ・ウォーホルの代表作の一つ、キャンベルスープの有名なアートをドレスにしたこんな作品もあります。昨年から今年にかけて、ホイットニー美術館で アンディウォーホル展 が開催されましたが、他の様々な場所でもウォーホルがとても人気になっていました。
手前は1938年のフェラガモの厚底サンダル、奥は2017年のグッチの厚底スニーカーです。日本で流行したことのある厚底サンダルもキャンプが起源だったのかもしれません。
一つ目のギャラリーの最後のセクションでは、二つのドレスが対比的に並べられた面白い展示となっています。まるでランプのようなおしゃれなデザインのスカートです。
たくさんのチョウが舞うとても華やかなドレスです。ドレスに動物というと、ダリのロブスターをモチーフにした Schiaparelli のドレス が思い浮かびますが、動物のデザインって不思議と目を引かれてしまいます。
このドレス、何かがいつもと違います。上下が逆転しているドレス?!遊び心がある、楽しいドレスも色々です。
こちらもトリックアートのような楽しいドレス。
右側の貝殻から出てきたかのようなドレスは、Cardi B が、今年のグラミー賞で着ていたものです。ダリなどシューレアリスム的な影響も感じられます。
キャンプの歴史的な背景については、こちらの映像でも紹介されています。
Camp Eye
そして、最後に登場するのが、Camp Eye と名付けられた巨大なギャラリーです。キャンプにまつわる1980年代以降の数多くの衣服やアクセサリーが、会場いっぱいに展示されています。
本当に千差万別、様々なスタイルの衣服が揃っています。アカデミー賞やグラミー賞などの表彰イベントや、プライドパレード、ハロウィンパレード、コミコン など様々なタイプのイベントファッションが混在した感じです。
中性的ですが、ダンディーな衣服があったり、
マクドナルドとバドワイザーを彷彿とさせる Cultural Slumming な感じのハイブランドのドレスもあります。
ギャラリーの中央には、個性的なデザインの帽子やユーモラスなアクセサリーなどが色々と展示されています。
ポップなスーパーヒーローのような出で立ち。コスプレもある種キャンプの一派と言えるのかもしれません。
Met GALA で司会を務めたキャンプファッションの代表格、Lady Gaga が、かつて着たお肉のドレスが印象に残っていますが、こんな食べ物系ドレスもありました。何より目立ち、みんなに注目されることが大切なセレブの衣装が、段々と派手やかになっていくのも納得できます。そういえば、日本のアニメの世界も意外とキャンプがいっぱい。例えば、ワンピースの世界も、実は、キャンプと言えるのかもしれません。
今年の冬のニューヨークファッションショーに初登場し、話題となった Tomo Koizumi さんのゴージャスなドレスもあります。キャンプが注目される今年ならではの絶妙なタイミングでお披露目された豪華ドレスです。
Second Childhood、童心を取り戻したかのような可愛らしいデザイン。
こちらは、今注目のビニール袋を使ったドレスです。海洋汚染など環境問題について訴えかけたい時にピッタリなメッセージ性のあるデザインドレスです。
ニコちゃんマーク。とてもたくさんの衣服やアクセサリーを見てきましたが、「キャンプ」をできるだけ簡単に表現すると、「遊び心が感じられるようなチャームポイントがあり、ターゲットとする人々の注目を集めることができるファッション」と言えるかもしれません。現在、コンテンポラリーアートの世界でもそうですが、特定のスタイルが主流となることがなく、様々な美意識、価値観、問題意識が混在し、人々からの注目を求め、競い合っています。そんなコンテンポラリーアートのファッション版とも言えると思います。
コスチュームインスティテュートのヘッドキュレーター、Andrew Bolton さんによる今回の展示の紹介です。2019年のメトロポリタン美術館のファッション展の美しい展示作品と展示会場の様子も見られます。
昨年のメトロポリタン美術館のファッション特別展も素晴らしかったです。
2022年 メトロポリタン美術館のファッション展はこちら。
メトロポリタン美術館 ファッション展 2022 アメリカのクラシック映画の世界へ In America: An Anthology of Fashion
メトロポリタン美術館は世界有数の見どころ盛りだくさんの素晴らしいミュージアムです。ニューヨークへ来たら是非訪れてみてください。