ニューヨークのメトロポリタン美術館では、2018年秋から2020年10月6日まで、オランダの黄金時代と言われる17世紀に描かれた絵画の企画展が開催されています。メトロポリタン美術館の古典ヨーロッパアートと言えば、通常は2階フロアにあるのですが、この特別展の期間中は、レンブラントやフェルメールをはじめオランダのゴールデンエイジと呼ばれる17世紀に活躍したアーティストたちの作品は、本館正面奥の地下のギャラリーにまとめられ展示されています。
メトロポリタン美術館では、17世紀のオランダアートをテーマとした企画展、”In Praise of Painting: Dutch Masterpieces at The Met” が開催されています。場所は、メトロポリタン美術館本館地下の特別展示ギャラリー (Galleries 964-965) です。この展示は、メトロポリタン美術館所蔵の中から選ばれた17世紀オランダ絵画の作品がキュレートされているため、常設展で人気の作品もこちらの方に移ってきている作品が色々あります。最も多くの作品が並んでいるのは、やはり17世紀のオランダを代表する巨匠で、来年没後350年目を迎えるレンブラントです。その他、日本人にも人気のフェルメールの作品もこの地下の方に移動してきているので、このあたりの有名作品を目当てにやってくる人は、是非こちらの企画展まで足を運んでみてください。
オランダの黄金時代とは?
オランダは、日本が鎖国をしていた江戸時代も貿易が続いていた数少ない国で、歴史的に日本とオランダは関係が深い国です。オランダ船が日本に初めて到着したのが、1600年。ヘンリー・ハドソンが、北アメリカを探検し、ニューヨークにニューアムステルダムが築かれたのもこの頃です。オランダが世界をまたにかけて活躍した17世紀は、プロテスタント国家としてスペインから独立し、貿易、科学、軍事など様々な分野で大きな発展を遂げた時期で、オランダの黄金時代と呼ばれています。オランダといえばチューリップのイメージがある人も多いと思いますが、昔そのチューリップの球根が大変な高値になった時もあり、そんなチューリップ・バブルが起こったのもこの時期でした。オランダが経済的にも大きく発展した時代で、アートへの支援者も増え、アーティストたちの同業者組合であるギルドが誕生したりと活況だったようで、レンブラントやフェルメールを代表とする多くのアーティストにより、宗教画や肖像画などの古典ヨーロッパアートの典型的なモチーフから何気ない日常の一コマを描いた風俗画 (Genre Painting) まで幅広い作品が生み出され、現在まで残されています。
レンブラント Rembrandt
レンブラント (Rembrandt) と言えば、まず思い浮かぶのが、肖像画です。数多くの自画像も残していますが、こちらもそんな作品の一つです。
黒い帽子に黒い服、そしてアクセントに白いひだ襟などのネックウェアが、当時の男性の正装だったようで、多くの肖像画がこの姿で描かれています。こちらは、家具職人だった Herman Doomer を描いた作品。王室、貴族、教会以外の人々が財力をつけて来ていた様子が伺えます。
旧約聖書の一場面を描いたダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴 (The Toilet of Bathsheba)。
女性の肖像画もいくつも描いています。花がとても印象的なピンクの花を持つ女性 (Woman with a Pink)。
こちらは、花いっぱいの帽子がアクセントになっている作品、フローラ (Flora)。
フランス・ハルス Frans Hals
ロッテルダムの市長だった Paulus Verschuur を描いた肖像画です。オランダ東インド会社のディレクターでもあったようです。
レンブラントが高貴で、厳粛、憂いのある雰囲気なのに対して、フランス・ハルス (Frans Hals) は、暖かみが感じられます。
どこか愛嬌を感じさせる描き方が印象的なアーティストです。楽しそうな雰囲気の漂う作品、”Young Man and Woman in an In”。
ヨハネス・フェルメール Johannes Vermeer
メトロポリタン美術館所蔵のフェルメールの5作品のうち4作品が展示されています。ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) は、デルフトで活躍したアーティストで、デルフトのアートの同業者組合の長を務めていたりと同業者の中では認められた存在だったようですが、その存在が世間に広く認識され、価値が高まりはじめたのは、実は、19世紀中頃からです。現在では、レンブラントと並び、17世紀オランダ絵画を代表するアーティストとして知られています。
フェルメールの作品は、こちらで紹介しています。
ピーテル・デ・ホーホ Pieter de Hooch
フェルメールの作品?と一瞬思ってしまうような似た雰囲気の作品ですが、こちらは、フェルメールと同時代に同じ都市、デルフトで活躍していたアーティスト、ピーテル・デ・ホーホ (Pieter de Hooch) の “Leisure Time in an Elegant Setting” と題された作品です。フェルメール好きの人は、よく見比べてみると面白いです。
こちらもフェルメールの作品でよく見かける構図の作品、”The Visit”。ピーテル・デ・ホーホは、フェルメールに影響を与えたアーティストとして知られていますが、これらの作品からそのことがよくわかります。
ニコラース・マース Nicolaes Maes
風俗画アーティスト、ニコラース・マース (Nicolaes Maes) の作品もあります。こちらもフェルメールの作品で見かけるような構図の作品、”The Lacemaker”。
こちらは、リンゴの皮むきをする女性、”Young Woman Peeling Apples”。当時、流行していたモチーフだったのだと思います。
アブラハム・ブルーマールト Abraham Bloemaert
古典ヨーロッパの定番モチーフである宗教画です。こちらは、モーゼが神から授かった石板を割っている様子の作品、”Moses Striking the Rock”。色鮮やかで、厳粛と言うよりは、少しエンターテイメント的な要素が感じられます。
ピーテル・クラース Pieter Claesz
静物画も色々と描かれています。美しい花の作品も多いですが、ドクロが強烈な印象を与える、こんな作品 “Still Life with a Skull and a Writing Quill” もあります。
ヤン・ファン・ホーイェン Jan van Goyen
様々な風景画もあります。こちらは、当時の代表的な風景画家、ヤン・ファン・ホーイェン (Jan van Goyen) の “Castle by a River”。
ヤーコプ・ファン・ロイスダール Jacob van Ruisdael
17世紀オランダを代表する風景画家、ヤーコプ・ファン・ロイスダール (Jacob van Ruisdael) の描いた小麦畑 “Wheat Fields”。イギリスのターナーをはじめ、その後の風景画に大きな影響を与えたアーティストです。
ヤン・ステーン Jan Steen
たくさんの人が登場し、楽しく過ごす賑やかな雰囲の作品を描いたのが、ヤン・ステーン (Jan Steen)。 こちらの作品は、Jan Steen の “Merry Company on a Terrace”。Frans Hals 同様、愛嬌のある画風です。
ヘラルト・デ・ライレッセ Gerard de Lairesse
写実的なオランダ絵画とは、少し違ったフランス風の作品、”Apollo and Aurora”。
レンブラントが描いた “Gerard de Lairesse” の肖像画も展示されています。
ベネチア派絵画の巨匠 Tintoretto
オランダ絵画のお隣には、小さなギャラリーがあり、ベネチア派絵画の巨匠 ティントレット (Tintoretto) が特集されています。
ティントレット (Tintoretto) と言えば、ベニスのドゥカーレ宮殿に飾られている代表作、”天国 (Il Paradiso)” がよく知られていますが、こちらは、Tintoretto が自身を描いた肖像画です。この他、Tintoretto による数多くの肖像画が展示されています。
“The Finding of Moses”
ちなみに、ルーヴル美術館のモナリザと同じ部屋に巨匠 ティントレット (Tintoretto) の作品が展示されているのですが、それがこちらの “The Coronation of the Virgin” です。
メトロポリタン美術館中央奥の地下のギャラリーは、こんな風に現在、ルーヴル美術館のような雰囲気になっています。
なお、メトロポリタン美術館の古典ヨーロッパギャラリーのある2階は、現在 リノベーション のために閉鎖されているお部屋もあります。オランダのお隣、ベルギーからオランダ南部にかけてのフレミッシュのアーティストであるルーベンス (Peter Paul Rubens) とヴァンダイク (Anthony van Dyck) の作品は、地下ではなく、本館2階の ギャラリー628 に展示されています。
素晴らしい作品がいっぱいのメトロポリタン美術館のみどころをこちらで紹介しています。
オランダ黄金時代のアートに興味がある人は、アムステルダム国立美術館もおすすめです。