まるでテーマパークのような立派な門構えで出迎えてくれる、この場所は、ブルックリンのグリーンウッドです。小さな庶民的な街にある地下鉄の駅を降り、このグリーンウッドの方角にやってくると、この貫録のあるゴシック・リバイバル様式の門が突然目の前に現れます。この日は、ニューヨークの冬にしては珍しく暖かかったので、ブルックリンで評判の観光名所のひとつにもなっているというこのグリーンウッドにはじめて訪れてみました。実はここ、グリーンウッドセメトリー (Green-Wood Cemetery) という場所で、いわゆる墓地なのです。でも日本とは全然違う墓地の雰囲気です。広大な敷地の中、個性的なお墓の並ぶ、開放的な雰囲気で、ローカルも含め、旅行者まで、たくさんの人が気軽に訪れるちょっとした憩いの場所となっています。
このグリーンウッドセメトリーは、1838年にできた、ニューヨークの歴史あるお墓で、2006年には、アメリカの National Historic Landmark にも指定されています。DeWitt Clinton という、ニューヨーク市の市長や、州知事、上院議員などを務め、大統領選にも出馬し、惜しくも James Madison に敗れてしまった、著名な政治家のお墓がここに移されたこともあり、当時、19世紀のアメリカでは、ナイアガラの滝についで、人気の旅行スポットだったんだそうです。墓地がナイアガラの滝に次ぐ、人気の観光スポットだったなんて、驚いてしまいます。
園内では、トロリーツアーが行われるほどの、とても広い敷地です。この日は、天気も良かったので、歩いて周ってみました。そうしたら、数時間程の滞在で、たったの1/4くらいしか周ることができませんでした。本当に広いのです。園内は普通車でも周ることができ、多くの人たちが車で訪れていました。
園内は、適当に歩き周っていると迷子になってしまうので、門の脇にある案内所で地図を手に入れるか、アプリを頼りに進む必要があります。
グリーンウッドセメタリーの中には、きれいなチャペルもあります。このチャペルのデザインは、グランドセントラル駅をデザインした会社が行ったそうです。
中は美しいシャンデリアと、幻想的なステンドグラスで飾られた空間。
実はこのグリーンウッドの丘から、遠くに自由の女神も見えるのです。
敷地内ところどころに池があり、ちょっとした憩いの公園のようです。
鳥たちがいたり
亀もいます。
ここは、美術館か、ヨーロッパの街角か、と思うような、美しい銅像。でも、これらもみんなお墓なんです。
このグリーンウッドセメトリーは、ニューヨークで活躍した人のお墓も多く、ニューヨークの有名なおもちゃ屋さん、FAOシュワルツの創業者さんのお墓など、ビジネスマンだったり、作曲家だったり、芸術家だったり、あらゆる方面で活躍した人たちが眠っている場所です。
18-19世紀のハイクラスのニューヨーカーは、生きている間は、セントラルパーク沿いの5番街に暮らし、最後は、このグリーンウッドセメトリーで眠る、というのが夢だったんだそうです。
メトロポリタン美術館 に美しいステンドガラスの作品が飾られていますが、その作品を作ったティファニー家のお墓もあります。
近年、すっかり有名になったアーティスト、バスキア (Jean-Michel Basquiat) のお墓もあります。2019年には、バスキアの作品が数多く揃った、バスキア特別展 がニューヨークで開催されました。
バスキアのお墓は、あまり目立つお墓ではなく、ずらりと並んだお墓の一部なので、意外と見つけにくいです。
モールス信号を発明したモールスさんの一家のお墓が高い丘の上に立っています。
おうちですか?ってききたくなるような、お墓も並んでいます。
この他、ピラミッドのようなお墓があったり、フリーメイソンのGマークが彫ってあったりと、自由な感じで、特に宗派は問わないようです。
グリーンウッドセメタリーの 地図 には、著名な人のお墓が紹介されていますが、その中でも、漫画調のイラストで一際目についたのがこちら、”Boss” ボスこと、William Tweedさんです。
“Boss”は、19世紀のニューヨークで絶大な政治力を誇った人物です。でもその裏では汚職を行っており、あまりにも度が過ぎる横暴に、ニューヨークタイムズなどの暴露キャンペーンにより、最終的には有罪となり、牢獄の中でその人生を閉じたそうです。
ブルックリンブリッジや、ニューヨークパブリックライブラリー (NYPL) など当時のニューヨークの大規模事業には必ず絡んでいたようで、シティホールの裏の豪華なコートハウスも彼の主導だったようです。ビデオにあるように、昔のニューヨークでは、実は、こんな歴史があったようです。
昔のニューヨークで起こった大規模事業に絡むコスト、利益誘導、汚職問題のような事例は、今も昔もたくさんあります。今で言えば、例えば、オリンピック開催のコスト問題などでしょうか、公共事業がある限り大なり小なり存在し続けることは避けられないことかもしれませんが、度が過ぎるとボスのようになってしまうこともありますね。
お墓は華やかな飾りつけがされています。小さいアメリカ国旗も立てられて。
クリスマスの飾りもされていたりして、ほのぼのします。お墓もセンスのいい美しいものが色々。
このグリーンウッドでは、春は桜が咲き、秋は紅葉が綺麗なようで、実は四季の自然を楽しめる場所でもあります。
このグリーンウッドの墓地は、実は近年、墓地としては敷地が無くなってきているようで、収益が得られないため、現在は、観光に力を入れていて、様々なイベントやツアーが開催されています。例えば、ハローウィンの季節にはハロウィンイベントも開催されるそうですよ。
こちらの記事やビデオでは、グリーンウッドセメタリーの歴史やトリビアが解説されていて、よく雰囲気が伝わってきます。
Green-Wood Cemetery
500 25th St, Brooklyn, NY 11232 MAP
グリーンウッドセメタリーは、170本以上もの桜が植えられている桜の名所で、春には美しい光景が広がります。