NYモルガンライブラリー ホルバイン特別展 肖像画 死の舞踏など版画で有名なイギリス王ヘンリー8世の宮廷画家

ニューヨークのミッドタウンにある、モルガンライブラリー (Morgan Library) では、現在、肖像画や版画作品などで有名な16世紀の巨匠、ハンス・ホルバインの特別展が開催されています。ハンス・ホルバインは、父親もアーティストで同名のため、Hans Holbein the Younger と呼ばれています。ドイツに生まれ、ルネサンス後期の16世紀前半に、イングランド王ヘンリー8世の宮廷アーティストとして活躍し、作品が世界の著名美術館に飾られている、古典西洋美術の巨匠です。今回の展示では、有名な肖像画の数々はもちろん、デッサン、版画、装飾デザイン、ジュエリーなど幅広い媒体の作品が展示されています。

モルガンライブラリー (Morgan Library) は、ニューヨークのミッドタウンにある歴史あるミュージアムです。近年、拡張リノベーションされ、広々としたロビーには、人々がくつろぐカフェやバースペースがあり、大きなミュージアムショップも併設されています。通常は、午後5時で閉館なのですが、金曜日は、午後7時までオープンし賑わっています。

モルガンライブラリー (Morgan Library) は、20世紀初頭前後のアメリカで、金融王と呼ばれていた銀行家、J. P. Morgan 邸が、ミュージアムとなったもので、J.P. Morgan の書斎や素晴らしい図書館、歴史的な本、デッサン、イラスト、考古学的な遺品など膨大なコレクションの中の一部を見学し、当時の雰囲気を垣間見ることができます。

モルガンライブラリーでは、常設展に加え、様々なテーマの特別展が期間限定で開催されます。
現在は、3つの特別展が開催されていますが、中でも注目を集めているのが、ルネサンス期にスイスやイギリスで活躍した古典西洋美術の巨匠、ハンス・ホルバイン (Has Holbein the Younger) をテーマとした特別展、Holbein: Capturing Character です。LAのゲッティセンター との共同開催で、ゲッティセンターでは、昨秋から年初にかけて展示が行われ、その後、ニューヨークへやってきました。ニューヨークのモルガンライブラリーでは、2月中旬から展示がはじまり、5月15日まで開催されます。

ハンス・ホルバインは、特に肖像画で知られている、イングランド王ヘンリー8世の宮廷画家として活躍したアーティストで、その作品は、世界の有名美術館に飾られています。ヘンリー8世といえば、6人もの妻がいたり、ローマ教皇と対立しイギリス国教会を設立したり、物議を醸したイングランド王です。ニューヨークで現在上演されている、ブロードウェイミュージカルの SIX にも登場し、最近、脚光を浴びています。

ホルバインといえば、最も有名なのが、肖像画です。モデルも美しく描かれていますが、目に止まるのが、服や帽子、こちらの作品では花など、一緒に描かれているモデルを引き立てる細部の脇役の数々が素晴らしいです。

ホルバインが晩年、ロンドンで、Simon George of Cornwall を描いたこちらの肖像画は、1535-40年頃、今から500年以上前の作品ですが、時代を感じさせません。フランクフルトのシュテーデル美術館所蔵の作品です。この時代の肖像画は、現在でも主流の長方形に加え、円形 (ラウンデル roundel) の作品も多かったようで、今回の展示では、ラウンデルの肖像画も多く飾られています。

ホルバインは、当時の文化人、人文主義者とも親交が深く、トーマス・モア、エラスムスらの肖像画も描いています。
トーマス・モアの肖像画は、フリックコレクション所蔵のものが今回の特別展にやって来ています。ユートピアなどの著者として知られる、トーマス・モアは、ヘンリー8世からの信頼も厚い臣下でしたが、王の離婚問題に端を発するカトリック離反政策に反し、処刑されてしまった人物です。

こちらは、ロッテルダムのエラスムスと呼ばれるオランダ出身の人文主義者、エラスムスの肖像画です。
15世紀前半といえば、マルティン・ルターによる宗教改革が起こり、絶大な権力を誇ったカトリックと新興のプロテスタントが対立しはじめた時代です。エラスムスは、カトリックの立場から両者の平和的な歩み寄りを説いた人物でした。晩年は、当時のヨーロッパの文化の中心地の一つであったスイスのバーゼルで暮らしていました。

ホルバインは、16世紀初頭前後に、ドイツのアウグスブルクでアーティスト一家に生まれ、若い頃にスイスのバーゼルに移りました。そんなバーゼルで、エラスムスは、若きホルバインのパトロンになったこともあり、エラスムスの肖像画がいくつも残されています。

エラスムスは、ホルバインをトーマス・モアやヘンリー8世らに紹介し、イギリスへ移るきっかけとなりました。その後、バーゼルに戻った時期もありましたが、1543年に45歳で亡くなるまで、大部分をイングランドで過ごします。
イギリスでは、イングランド王ヘンリー8世の宮廷画家となり、ヘンリー8世をはじめ王室、側近、有力者など様々な肖像画を描きました。

リスや鳥が登場する可愛らしい肖像画もあります。 こちらは、ロンドンのナショナルギャラリー所蔵、イングランドの貴族、Lovell 家の Anne Lovell を描いたものとされています。

セントルイス美術館所蔵、ヘンリー8世の重臣の妻、Mary, Lady Guildford を描いた1527年の作品。服や背景には、素晴らしい装飾が施されています。

肖像画の他に、ホルバインのラウンデルの装飾デザインも色々と展示されています。

とても細やかなデザインです。周囲には、当時のジュエリーも合わせて展示されています。

ペストなど感染症の度重なる流行を経て、当時、ヨーロッパで人気となっていたのが、死の舞踏 (dance of death) と呼ばれる寓話やイラストです。出版者の Johann Froben と組み、発行されたホルバインの死の寓話の木版画は大人気だったようです。

死は、王様も教皇も農民まで様々な職業の人に平等に訪れるといったテーマで、死を意味する骸骨が、様々な人の元へやって来ているイラストがずらりと並んでいます。

以下、今回の展示には、やって来ていませんが、世界の著名美術館で見たホルバインの作品をいくつか紹介します。
こちらは、ロンドンのナショナルギャラリー所蔵、ホルバインの最もよく知られた作品の一つ、大使たち (The Ambassadors)。ヘンリー8世下のイングランドにフランスからやって来た外交官が描かれた作品で、二人の人物の間に描かれた数々の装飾品と間延びした感じの頭蓋骨が印象的な作品です。

ナショナルギャラリーには、エラスムスの大きな肖像画もあります。

スペインのマドリードにある、Thyssen-Bornemisza Museum には、ヘンリー8世の肖像画が飾られています。

ワシントンDCのナショナルギャラリーには、ヘンリー8世の一人息子、10歳で王位に着き、15歳で亡くなってしまった、エドワード6世の幼少期の肖像画があります。ヘンリー8世の重臣で、ロイヤルポストの基礎をつくった、Sir Brian Tuke の肖像画も飾られています。

ワシントンDCのナショナルギャラリーには、ロスチャイルド家のメンバーではないかといわれている明るい爽やかな感じの肖像画も飾られています。

モルガンライブラリーでは、現在、ホルバインの特別展の他、2階のギャラリーでは、フォークミュージックの著名歌手、Woody Guthrie の展示、Woody Guthrie: People Are the Song も開催中です。

モルガンライブラリーの常設展など基本情報は、こちらで紹介しています。美しいおすすめのミュージアムです。

モルガンライブラリー NYの感動的に美しい豪華なミュージアム

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