モネの最大のコレクションを誇ることで知られる、パリのマルモッタンモネ美術館では、”Private Collections: from Impressionism to Fauvism” と題された特別展が2019年2月9日まで開催されています。モネの作品をはじめ、カイユボット、ルノワール、マティスなどプライベートコレクション所有の印象派からポスト印象派、フォーヴィスム (fauvism) にかけての著名なアーティストのあまり一般公開されることがない、レアな作品も大集合した見応えのある特別展となっています。入口には、ヴュイヤールのピンクが印象的な作品が飾られています。
印象派
西洋美術の大きな分岐点となったのが、それまでの厳格なアカデミックアートから離れ、風景やありふれた日常の一コマなどを、色彩豊かに自由に描いた、19世紀後半の70年代から80年代にかけて登場したのが印象派です。そんな印象派グループの代表的存在が、マルモッタンモネ美術館の目玉である、クロード・モネ (Claude Monet) です。やはり今回の特別展でも数多く展示されているのが、モネの作品です。こちらは、ノルマンディーの海から聳える岩、Port-Coton Needles を描いた1886年の作品、Pyramids at Port-Coton, Rough Sea。和やかなモチーフの作品の多いモネにしては珍しい、荒々しい雰囲気の作品です。
こちらは、パリの日常がよく伝わってくる、ギュスターヴ・カイユボット (Gustave Caillebotte) の1876年の作品です。カイユボットは、自身もアーティストですが、他のアーティストのパトロンとしても知られており、印象派ムーブメントを影で支えた人物でもありました。マルモッタンモネ美術館の常設展でも、カイユボットの作品が展示されています。
女性、特にバレリーナを多く描いた、エドガー・ドガ (Edger Degas) の1883年の作品です。
モネと並ぶ印象派の代表的存在の一人である、ピエール・オーギュスト・ルノワール (Pierre-Auguste Renoir) の作品。モネが風景を中心に描いたのに対して、ルノワールは、人物、特に女性の作品を数多く残しています。
印象派グループの中で、最年長だったのは、実はフランス出身のアーティストではなく、デンマーク系で、現在のUSバージン諸島のセントトーマスの出身者である、カミーユ・ピサロ (Camille Pissarro) でした。主に風景画を描いたアーティストで、ギュスターヴ・クールベ (Gustave Courbet)、コロー (Jean-Baptiste-Camille Corot)、ミレー (Jean-François Millet) らに影響を受け、印象派、ポスト印象派のアーティスト達にも影響を与え、時代の橋渡し的な存在だったようです。
こちらは、特別展ではありませんが、印象派のメンバーの一人、イギリス出身でフランスで活躍した、アルフレッド・シスレー (Alfred Sisley) の作品もいくつかお屋敷のリビングルームに飾られています。
この他、常設展では、数多くのモネやベルト・モリゾの作品、エドゥアール・マネ (Édouard Manet) の作品などが展示されています。
フランス語だと思いますが、特別展の解説をしてくれるツアーも行われていました。
ポスト印象派
そして、1880年代後半以降、新時代を切り開いた印象派のムーブメントをさらに発展させ、より自由に個性豊かなスタイルを追求したポスト印象派のアーティスト達です。モチーフは、風景や日常の光景など印象派と同じですが、よりアーティストの表現したいテーマや感情など主観的な描き方が特徴となって行きます。
点描のスタイルを確立した、ジョルジュ・スーラ (Georges Seurat) の1885年の作品。スーラの代表作、グランド・ジャット島の日曜日の午後は、シカゴ美術館 にあります。メトロポリタン美術館 には、習作があります。
リトグラフのポスターで有名なのが、日本の浮世絵にも影響を受けたアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック (Henri de Toulouse-Lautrec)。こちらは、1886-1887年にかけて描かれた作品、The Laundress。2005年に、$22.4 million で落札された作品です。
ベルギー出身のアーティスト、Théo van Rysselberghe の作品。スーラの影響から点描作品を多く描いています。
オランダ出身で、まだ無名だった、フィンセント・ファン・ゴッホ (Vincent van Gogh) が、最も多くの作品を残しているのが晩年です。南仏で一時期ゴーギャンと一緒に暮らしたり、自身の耳を掻き切ったり、病院に入ったりと精神的、肉体的に病んでいた時期だと思われますが、こちらは、1889年、サン=レミの療養所で描いた水彩画の作品 Les lauriers-roses (Le jardin de l’hôpital à Saint Rémy) です。生涯に売れた作品は、たった1点のみだったそうですが、今では誰もが知る有名アーティストです。
タヒチなど南の島のエキゾチックなモチーフで知られるゴーギャン (Paul Gauguin) の1901年の作品。現実とは異なり、アーティスト自身の主観で描いた作品も多く残しています。
ゴッホやゴーギャンと友人で、影響を与え合った Émile Bernard の作品です。
こちらは、パブロ・ピカソ (Pablo Picasso) の初期、青の時代に突入する直前の作品です。ピカソが、初めてパリを訪れた当時行われていたロートレックの展覧会に感化されたピカソの様子が感じられる作品です。
昨年の秋から今年の年初まで、オルセー美術館では、ピカソの初期の頃、青の時代とバラ色の時代を中心にした特別展が開催されていました。2019年2月3日から5月26日までは、スイスのバーゼルにある Fondation Beyeler に場所を移し、開催されます。
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スーラと共に、点描アーティストとして知られるのが、シニャック (Paul Signac) です。スーラ、モネに影響を受け、その大胆な色使いは、その後、マティスやドランのファーヴィスムへと繋がって行きます。
ナビ派の代表的アーティスト、エドゥアール・ヴュイヤール (Édouard Vuillard) の1903年の作品です。室内の様子を丁寧に描いた作品を多く残しています。
同じくナビ派を代表する、ピエール・ボナール(Pierre Bonnard) の1905年の作品。ヴュイヤールとボナールは親しく、作風も似ていて、一緒に展示されていることが多いペアです。
印象派とは違った流れの象徴主義の作品もありました。こちらは、 Odilon Redon の神秘的な雰囲気の作品で、モロー (Gustave Moreau) 的な作品です。
マティス (Henri Mattise) の1920-1921年の大人しい作品。フォーヴィスムの代表的アーティストとして知られるマティスですが、今回の特別展では、フォーヴィスムの作品はありませんでした。
フォーヴィスム
強烈な色使いを特徴とするファーヴィスムが登場したのが、1904年。その後、1908年までの間には、数多くの作品が登場しました。
こちらは、マティスと並んで、強烈な色使いが印象的なフォーヴィスムを代表するアーティスト、ドラン (André Derain) の1905年の作品。
オランダ出身のアーティスト、Kees Van Dongen の1905年の作品。
フォーヴィスムの代表的なアーティストの一人、Maurice De Vlaminck の1905年の作品。
マティスの影響を受け、1907年に、Raoul Dufy が、描いたフォーヴィスムの作品。
昨年の9月13日から開催されている “COLLECTIONS PRIVÉES” は、残り2週間程、2月10日までの開催となっています。印象派好きの人におすすめの特別展です。
お屋敷ミュージアム、マルモッタンモネ美術館の常設展の様子はこちらです。圧巻な数のモネのコレクションが素晴らしいです。
印象派の登場から20世紀初頭までは、数多くのアーティストが、様々なムーブメントの中、影響を与え合う混沌とした状態でしたが、その時々のトレンドに乗ったり、作り出しながら、独自の作風を築き、突出した存在となったのが、20世紀の2大巨匠、ピカソとマティスです。
マティス、ピカソ、ファーヴィスムなど1905年以降の作品は、ポンピドゥー・センターで数多く展示されています。
パリ旅行は本当に見どころが盛りだくさんでした。