サンフランシスコの美しいフランス風の建築の美術館 リージョンオブオナー (Legion of Honor) は、サンフランシスコ北西部のリンカーンパークにある、ヨーロッパ宗教画などの古典から印象派までの作品を見ることができるミュージアムです。美術館となっているのは、18世紀後半に建てられたフランスの宮殿、Palais de la Légion d’Honneur を模して造られた建物で、すっかりヨーロッパな雰囲気です。ミュージアムは高台にあり、そのお向かいには、美しい噴水やパブリックアートなどがあり、とても気持ちのいいロケーションです。
リージョンオブオナー (Legion of Honor) の美術館正面には、ロダンの有名な作品、考える人が出迎えてくれます。そしてその周りを囲むように広場には、コンテンポラリーアートも飾られています。この建物が完成したのは、1924年。第一次世界大戦におけるカリフォルニア州出身の戦没者たちのメモリアルとして、18世紀後半にパリに建てられた宮殿、Palais de la Légion d’Honneur のレプリカとして建設されました。Palais de la Légion d’Honneur は、アメリカ第3代大統領トーマス・ジェファソンが、アメリカ独立後、アメリカの代表としてフランスに赴任していた時に、建てられたもので、ジェファソンのお気に入りの建物だったようで、後に、ジェファソン邸となる モンティチェッロ のドームも、この建物をもとにデザインされたそうです。
Legion of Honor は、サンフランシスコ美術館 (Fine Arts Museums of San Francisco) の一つで、ヨーロッパ美術に特化した美術館です。アメリカ美術を中心に、その他様々な地域のアート作品を展示しているのが、サンフランシスコ美術館のもう一つのミュージアムに、デヤング美術館 があります。当日中であれば、共通チケットで両方の美術館に訪れることができます。ただし、場所が少し離れていて、歩いて行ける距離ではないので、Uber、Lyft または、Muni のバスなどで移動する必要があります。
ミュージアムは、1階と地下の2フロアからなりますが、メインのギャラリーは 1階です。ギャラリーは、入口から左右に分かれますが、左手奥からスタートし右手奥の方へと進んでいくと作品を歴史順に見ることができます。
リージョンオブオナーのフロアプランは、こちら(PDF)です。
入口から入ってすぐの正面には、教会のようなドームになった広いお部屋があります。この日は、オルガンの演奏会が行われていて、とても美しい音色を館内に響かせていてとてもいい雰囲気でした。
ロダンの The Three Shades をはじめ、見応えのあるロダンの作品群が展示されています。
ロダンの白い彫刻が並んだ部屋には、合わせて、外でも見かけた、Julian Schnabel さんのコンテンポラリーアート作品も飾られていました。
西洋美術の発展の一番の原動力となったのが、キリスト教、特に、ローマ教皇を中心に強力な権力を誇ったカトリックです。
多くの人々がカトリックを信仰していたことに加えて、アートを推進するアートの大きなスポンサーとなっていたのが教会だったこともあり、中世までのアートの、ほとんどの作品のテーマは、聖書や福音書などキリストにまつわるストーリーをビジュアル化したものです。
左手奥のギャラリーでは、当時のアートのメッカだった、イタリアなどのカトリック国を中心とした、ヨーロッパ中世の宗教美術の作品が展示されています。
ギリシアのクレタ島出身で、イタリアでアートを学び、16世紀後半から17世紀初頭にかけてスペインで活躍したエル・グレコの作品、St. Francis と St. John the Baptist。テーマは、宗教画ですが、それまでのスタイルと異なり、一目見たらグレコだと分かる個性的な作品になっています。
1600年から1750年頃にかけての絶対王政、カトリック宗教改革の時代に、フランスやイタリアなどで隆盛だったのが、バロック、ロココアートです。躍動観のある動きを感じさせる華美な作品が多く、光の描写など柔らかな感じを受けます。
こちらは、18世紀のフランス人アーティスト、François Boucher と Giovanni Paolo Panini が描いた古代ローマの遺跡をテーマとした作品。
同じく、18世紀に活躍したフランスのフラゴナール (Fragonard) の作品。
18世紀絶対王政時代のフランス王のルイ15世の部屋。
17世紀前半のバロック期、毛織物工業で栄えた現在のベルギーの一部であるフランダースや、オランダのギャラリーもあります。ピーテル・パウル・ルーベンス (Peter Paul Rubens) は、当時のアートの中心、イタリアでルネサンス期の作品から学び、フランダースで活躍したフレミッシュの代表的なアーティストの一人です。
同じく、17世紀前半に活躍した アンソニー・ヴァン・ダイク (Anthony van Dyck)。この時代、カトリックの他、ヨーロッパ各国の王家や貴族が力をつけて来た時代で、宗教画に合わせて、王家や貴族など人物を描いた作品が増えてきます。ヴァン・ダイクは、数多くのイギリスの王家や貴族を描いたことで知られています。
17世紀中頃、アートの盛んだったフランダースの影響を受けつつ、オランダで活躍したアーティストが、レンブラント (Rembrandt) です。数年前に、ニューヨークの モルガンライブラリーのレンブラント特別展 が開催されていましたが、現在でも個展が開催されることのある有名アーティストです。
18世紀に世界の覇権を握ったイギリスのアートセクションもあります。
そして、19世紀に移り、アーティストが自由に題材を選び、風景画や一般市民を描いた作品が中心となっていきます。アメリカの誕生、フランス革命、啓蒙思想などを通じ、それまで栄華を誇った王家や宗教に対して、相対的に一般市民が力をつけてきたという歴史的な背景があると思います。
19世紀に活躍したフランス人アーティスト、ウィリアム・アドルフ・ブグロー (William-Adolphe Bouguereau) の作品、The Broken Pitcher。
クールベ (Gustave Courbet) の荒波を描いた作品、The Wave。
ジャン=レオン・ジェローム (Jean-Léon Gerome) によるハマムの様子を描いた The Bath。世界中での交易が増え、ヨーロッパの人々の未知なる世界の文化への憧れが高まって来た時代の作品です。
印象派の代表的なアーティストである ピエール=オーギュスト・ルノワール (Pierre-Auguste Renoir) の作品 Madame Clémentine Valensi Stora です。ルノアールにしては、写実的な作品で、中東風な空気が感じられる素敵な作品です。
Charles Auguste Emile Durand が娘と愛犬を描いた作品。
エドゥアール・マネ (Édouard Manet) の At the Milliner’s。
写真が発明されたのが、19世紀前半。次第に、写真が普及していくにつれ、写真のような役目を果たしていた写実的な作品が少なくなってきますが、現実とは異なる、アーティストならではの世界観を大切にする印象派の時代へと移り変わって行きます。
ゴッホ (Vincent van Gogh) のセザンヌスタイルの珍しい静物画。
点描で有名なジョルジュ・スーラ (Georges Seurat) が描くエッフェル塔です。久しぶりに、パリに行ってみたくなります。
母子を描いたこちらの作品はルノアール (Pierre-Auguste Renoir) 。だいぶルノアールらしい雰囲気の作品になってきています。
シスレー(Alfred Sisley) の Banks of the Loing もとても印象派らしい作品です。
右手前最奥の最後の印象派のギャラリーには、モネの名画も並んでいます。
中でも、一番存在感があるのが、モネの美しい名画、Water Lilies。時間があまりない場合は、右手前奥にある印象派エリアを中心に鑑賞するといいと思います。
この他、左手前最奥の部屋では、ヨーロッパとは少し離れますが、現在、“The Future of the Past: Mummies and Medicine” と題されたエジプト展が開催されています。
アートを通じて、ヨーロッパの歴史も学べる構成となっています。
地下には、スケッチなどいくつかのギャラリーとミュージアムショップ、
そして、カフェがあります。
1時間半から2時間程で、全体を見て回ることができます。少し不便なロケーションですが、ヨーロッパアート好きにおすすめの美術館です。パリに旅行に行きたくなってしまう雰囲気かも。
Legion of Honor
100 34th Ave, San Francisco, CA 94121 地図
ヨーロッパアート好きには、ニューヨークでは、メトロポリタン美術館2階のヨーロッパ美術セクション、ロサンゼルスでは、ゲッティセンターもおすすめです。
姉妹ミュージアムのデヤング美術館は、こちらです。
サンフランシスコの見どころはまだまだたくさんあります。