アッパーウエストサイドにある歴史博物館、ニューヨーク・ヒストリカル・ソサエティ (New-York Hisotorical Society) では、ロスト・ニューヨーク (Lost New York) と題された、失われてしまったニューヨークの建築や景観をテーマとした面白い特別展が開催されています。ニューヨークは、長い歴史を誇るアメリカ一の大都市と言うことで、時代や流行に応じて、様々な組織やプロジェクトが立ち上がり、建物が建てられたり、壊されたり、刷新されたり、変化の激しい場所ですが、そんなニューヨークにかつて存在したけれど、今は見ることができない歴史的なスポットが絵画やイラスト、写真、ポスターなど様々な媒体で紹介されている、ニューヨーク好き、歴史好きにおすすめの展示となっています。
アメリカ自然史博物館の南側に位置する、ニューヨーク歴史協会 (New-York Historical Society) は、1804年に設立された「ニューヨークで最も古いミュージアム」で、ニューヨークやアメリカの歴史をテーマとした様々な展示が行われています。
ニューヨークヒストリカルソサエティで、現在、期間限定で開催されている特別展の一つが、Lost New York です。会場となっているのは、1階の南側のギャラリーで、今週末9月29日が最終日となります。
ギャラリーでは、失われてしまったニューヨークの様々なスポットが、絵画、イラスト、写真、ポスターなどで紹介されています。
ニューヨークで、最も有名な失われてしまった素晴らしい建築と言えば、ペンステーションです。ペンステーションは、グランドセントラルと並ぶ、ニューヨークの主要ターミナルの一つで、新しい モイニハン トレインホール が完成するなど少し改善はしていますが、まだまだ失われた駅にはかないません。実は、1910年にオープンしたもともとのペンステーションは、ニューヨークの著名建築ファーム、McKim, Mead & White によりデザインされた、ボザール様式の豪華な素晴らしい建物でしたが、鉄道の衰退と共に、1963年に取り壊されてしまいます。現在のオフィスビルを中心とする建物は、1960年代に再建されたものです。この出来事をきっかけに、保護活動が活発化し、その後の歴史的な建築の保全のための大きな転機になりました。
そんなかつての壮麗なペンステーションが描かれたイラストなども展示されています。
現在、すっかりオフィス街のオアシスとなっている、ブライアントパーク周辺にも色々と面白い歴史があります。
ニューヨークは、19世紀前半には、急激な人口増加でたくさんの人が暮らすようになり、火事やコレラなど疫病の流行もあり、水道インフラの改善が必須となっていました。そんな中、1837年から1842年にかけて建設されたのが、ウエストチェスターのクロトンリバー からマンハッタンまで水を引く、クロトン水道橋 (Croton Aqueduct) で、その貯水池、クロトン貯水池 (Croton Distributing Reservoir) があったのが、現在、ニューヨークパブリックライブラリー がある場所です。
その後19世紀末頃まで使用された、クロトン貯水池(クロトン・リザーバー)のイラストも展示されています。
ちなみに、クロトン水道橋の名残りは、ハイブリッジ などで、現在も残されています。
クロトン・リザーバーに隣接する場所では、かつてワールドフェアが開催されたことがあります。世界で最初の万博、Great Exhibition と呼ばれる 1851年のロンドン万国博覧会に続き、1853年には、ニューヨークでワールドフェア (Exhibition of the Industry of All Nations) が開催され、その舞台となったのが、現在のニューヨークのブライアントパークです。
クリスタルパレス (New York Crystal Palace) と呼ばれる、メインパビリオンが建設され、隣接して Latting Observatory と呼ばれる当時ニューヨークで最も高かった 96m の木製の展望タワーも建てられました。
今回の展示では、クリスタルパレスと Latting Observatory のイラストが展示されています。
Latting Observatory は、1856年に焼失してしまいましたが、そんな展望スポットからの想像上の光景を描いた、Richard Haasさんの巨大な作品が展示されています。Latting Observatory は、エッフェル塔 のアイデアとデザインにも影響を与えたとされています。
エンターテイメントの街、ニューヨークには、現在でもたくさんの劇場がありますが、失われてしまった劇場も数多くあります。そんな失われてしまった有名な劇場の一つが、20世紀初頭 1905年に建設された New York Hippodrome です。人気のゾウのショーなどで大成功を収めた劇場でしたが、1920年代から次第に衰退し、1939年に取り壊されてしまいました。ブライアントパークの北側、6 アヴェニュー沿いの 43ストリート と 44ストリートの間にあった劇場で、現在は、Hippodrome Building と呼ばれるオフィスビルが立っています。
ニューヨークの金融街にある フェデラルホールは、アメリカ独立後、最初の議会が行われ、初代大統領となった、ジョージ・ワシントンの就任式が行われた場所として知られていますが、実は、当時は、現在とは違ったジョージアン様式の建物で、後にワシントンDCのデザインなどを手掛けた Pierre Charles L’Enfant によりデザインされたものでした。現在のグリークリバイバル様式の建物は、フェデラルホールが税関として使用されていた 1842年に完成したものです。
19世紀後半、1870年代頃から、マンハッタンでは、マンハッタン・レールウェイ・カンパニー (Manhattan Railway Company) により、2nd Ave、3rd Ave、6th Ave、9th Ave の4本の高架鉄道路線がありました。9th Ave の路線跡は、ニューヨークの人気の公園、ハイライン になっています。
マンハッタンの高架鉄道の様子の作品が Manhattan Railway Company の路線図などと共に展示されています。
この他、街の光景を描いている興味深い作品などもあります。こちらは、19世紀前半のダウンタウンのBoweryの様子ですが、街中を豚が歩いていて長閑な光景が広がっています。
マンハッタン周辺のイーストリバーやハドソンリバーは、遊泳禁止ですが、かつては、川に飛び込んで水遊びをしたり、水辺にバスハウスが立っていたりしたようで、そんな様子も紹介されています。
ニューヨークの人気メジャーリーグ野球チームの本拠地となっている、ヤンキースタジアムは、2006年に建設がはじまり2009年にオープンした新しい球場です。それ以前は、隣接した場所にあった、1923年に完成した歴史ある球場が使用されていました。そんな古いヤンキースタジアムの写真やイラストが展示されています。
色々面白いデザインのレトロなポスターも展示されています。
ニューヨークヒストリカルソサエティは、受付の天井部分に、キース・へリングの壁画が描かれていますが、特別展でもキース・へリングが登場しています。
キース・へリングは、アートを誰にでもアクセスしやすいものにしようと、1986年から SOHOにポップストアをオープンしていましたが、そんなお店もレントの高騰により、2005年に閉鎖されてしまいました。
Lost New York は、今度の日曜日9月29日が最終日となるので、是非見てみたいという人は急ぎましょう。
Lost New York ではありませんが、こちらの鐘は、2020年12月に火事ですっかり焼け落ちてしまった Middle Collegiate Church のもので、2024年10月27日まで展示されています。1729年にアムステルダムで鋳造された鐘で、ニューヨークでアメリカ独立宣言を祝い鳴らされたという歴史もあり、フィラデルフィアのリバティベル にならって「ニューヨークのリバティベル」と呼ばれています。
この他、フランス人宝石デザイナーの特別展、Enchanting Imagination: The Objets d’Art of André Chervin and Carvin French Jewelers なども行われていて、幻想的な美しい作品が並んでいます。
また、ニューヨークやその周辺の歴史、景観、文化などを伝えるイラスト、絵画などが大集合した特別展、From Paul Revere to Edward Hopper も面白い特別展です。
1920年代から60年代にかけて、政治家ではなく、NYCの公務員でありながら、ニューヨークの都市開発に大きな功績を残した ロバート・モーゼス (Robert Moses) に関する伝記的な作品、The Power Broker の50周年を記念した展示、Robert Caro’s The Power Broker at 50 も行われています。ニューヨークの現代史に興味がある人には面白いと思います。
普段、映像作品が上映されている劇場では、9月の金曜日の午後6時からコメディショーが開催されています。金曜日の夕方5時からは、Pay What You Wish で入館できるので合わせて訪れてみるのもおすすめです。
ニューヨークヒストリカルソサエティでは、ピカソ、トーマス・コールらの作品、ティファニーランプなど常設展も色々見どころがあります。
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