マウリッツハイス美術館 (Mauritshuis) は、オランダのデン・ハーグ (The Hague) にある17世紀に建てられた豪華な歴史あるお屋敷を利用した、とても雰囲気のいい美しい邸宅美術館です。フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」をはじめ、フェルメールやレンブラントの作品など、オランダやフランドル地方の絵画の傑作が集まるオランダ有数の人気ミュージアムです。マウリッツハイス美術館を訪れる前に知っておくとより楽しめる、見どころ、有名作品などを紹介します。
マウリッツハイス
マウリッツハイス (Mauritshuis) は、オランダ、デン・ハーグ (The Hague) にある洗練された雰囲気の美術館です。デン・ハーグ (The Hague) は、オランダの国会や首相官邸、王宮などがあり、実質上の首都的な役割を担う、オランダの行政都市で、雰囲気が良くとても美しい街です。マウリッツハイスは、17世紀中頃に建てられた、オランダ領ブラジル総督だったナッサウ=ジーゲン侯のヨハン・マウリッツ (John Maurice, Prince of Nassau-Siegen) のお屋敷を利用し、1822年にオープンした美しい邸宅美術館で、世界的に知られる、フェルメールの有名作品「真珠の耳飾りの少女」をはじめ、オランダ絵画の数多くの傑作が美しい邸宅のギャラリーに展示されています。アート好き、美しいお屋敷好きにとてもおすすめな、デン・ハーグ1番の人気観光スポットです。
マウリッツハイス美術館の行き方
デン・ハーグ (The Hague) は、電車で、アムステルダムから1時間弱、オランダ第二の都市であるロッテルダムからは30分程で訪れることができます。マウリッツハイス美術館は、現在でもデン・ハーグの中心である旧市街にあり、デン・ハーグの中央駅から歩いて10分程で到着します。
マウリッツハイス美術館 Mauritshuise
Plein 29, 2511 CS Den Haag, Netherlands Map
マウリッツハイス周辺は、Binnenhof、Hofkapel など歴史的な建物が立ち並び、宮廷の池という名前の人口湖、Hofvijver があったりと歴史が感じられる美しいエリアとなっています。
マウリッツハイス美術館のチケット
オランダのデン・ハーグは、アムステルダム程混み合うことはなく、デン・ハーグで一番人気の観光スポットである、マウリッツハイスでも簡単にチケットが取れ、前日でもチケットが完全に売り切れることは多くありません。ただし、朝一番などの人気の時間帯は、売り切れてしまうことも多いので、事前に自分のスケジュールに合わせて、時間指定オンラインチケット を購入してから訪れるのがおすすめです。ミュージアムカードなどのパスを利用の場合でも予約が可能で、ギャラリー入場時にスキャンして進みます。開館時間は、午前10時から午後6時までで、月曜のみ午後1時から6時までと開館時間が短くなります。
マウリッツハイスの入口になっているのは、お屋敷の地下の入り口です。チケットの指定時間に階段を下って入口に向かいます。地下には、チケットカウンター、トイレやロッカー、ミュージアムショップなどがあります。ロッカーは、1ユーロコインではなく、珍しく50セントコインを使用して開閉をするので準備をしておくとスムーズです。
マウリッツハイスは、2フロアに渡る、16のギャラリーからなる小規模な美術館です。フェルメールやレンブラントの作品など最上階に有名な作品が集まっています。本館の他、別館もあり、期間限定の特別展が開催されています。90分前後で全体を見て回ることができます。
作品数が多くて圧倒されてしまう巨大美術館とは違い、邸宅にやって来た感じで優雅にアート鑑賞とお屋敷ツアーが楽しめます。
マウリッツハイスの建物は、オランダ領ブラジルの総督だった、ヨハン・マウリッツの邸宅として、Jacob van Campen によるオランダ古典主義建築のデザインで1644年頃に建てられました。ヨハン・マウリッツは、砂糖や奴隷貿易などで財を成し、当時は、ブラジルの影響を強く受けたインテリアデザインの内装でした。ところが、1704年に火事でお屋敷の内装が焼け落ちてしまいます。
現在マウリッツハイスで見られる内装は、修復後のもので、18世紀前半に当時の流行だった、フランスのルイ14世スタイルで再建されたものを引き継いでいます。
デン・ハーグでは、1774年、William V により王立美術館である Prince William V Gallery がオープンしましたが、その後、有名作品の数々は、オランダを支配していたフランスに略奪されていた時期もありました。そんな作品の数々も19世紀初頭には返還され、現在のマウリッツハイスにもやってきます。そこで、1822年、マウリッツハイス美術館の始まりとなります。
マウリッツハイスの豪華なゴールデンルーム
マウリッツハイスの見どころのひとつが、ゴールデンルーム (The Golden Room) などのお屋敷の豪華なお部屋です。
マウリッツハイスでは、豪華なゴールデンルーム (The Golden Room) を筆頭に素晴らしい内装の部屋の数々を見学することができます。ゴールデンルームは、ベネチア出身のアーティスト、ジョヴァンニ・アントニオ・ペッレグリーニ (Giovanni Antonio Pellegrini) の天井画をはじめ洗練されたインテリアの部屋で、19世紀初頭の華やかな雰囲気を感じることができます。
お屋敷内の各部屋は、ギャラリーになっていて、レンブラント、フェルメールを代表とするオランダ絵画、ルーベンス、アンソニー・ヴァン・ダイクをはじめアントワープを中心とするフランドル地方の絵画などオランダ黄金時代、17世紀の作品を中心に15世紀中頃から20世紀までの幅広い作品の展示が行われています。
マウリッツハイス美術館の有名作品
マウリッツハイス (Mauritshuis) は、オランダ黄金時代の絵画、アントワープを中心としたフランダース地方の絵画などの傑作を所蔵しています。中でも見逃せない最も有名な作品を紹介します。
フェルメール 真珠の耳飾りの少女
マウリッツハイスで最も有名な作品が、1665年に描かれた、ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) の代表作『真珠の耳飾りの少女』(Girl with a Pearl Earring) です。
エキゾチックな青色、ラピスラズリ (lapis lazuli) で描かれた、ウルトラマリンのターバンが印象的な作品で、光を用いて少女の姿が生き生きと描かれています。『真珠の耳飾りの少女』は、特定のモデルの人物を描いた肖像画ではなく、トロニー (Tronie) と呼ばれる想像上の人物を描いた作品です。
アメリカ人作家、トレイシー・シュヴァリエの 1999年の絵画と同名のベストセラー小説『真珠の耳飾りの少女』でさらに広く知られるようになり、いつもたくさんの人に囲まれている魅力溢れる人気作です。マウリッツハイス美術館には、フェルメールの作品は、『真珠の耳飾りの少女』だけでなく実は全部で3点作品があります。2階ギャラリーの見どころ詳細で紹介しています。
レンブラント テュルプ博士の解剖学講義
解剖の様子を写実的に描いた、衝撃的なシーンのこちらの作品は、フェルメールと並ぶオランダ絵画の巨匠である、レンブラント・ファン・レイン (Rembrandt van Rijn) の若い時期、1632年の作品『ニコラス・テュルプ博士の解剖学講義』(The Anatomy Lesson of Dr Nicolaes Tulp) です。
ライデンで生まれ育った、レンブラントが、アムステルダムに移った頃に描かれた作品で、レンブラントの名声を高めた出世作です。日本では、オランダの医学と言えば、蘭学でお馴染みですが、そんな当時の最先端の医学の場の雰囲気がよく伝わって来ます。
ファブリティウス ザ・ゴールドフィンチ
こちらは、ファブリティウス (Carel Fabritius) が 1654年に描いた作品『ザ・ゴールドフィンチ』(The Goldfinch) です。ファブリティウスは、アムステルダムでレンブラントの弟子として修業し、その後、デルフトへ移りました。デルフトでは、1654年に火薬の大爆発事故が起こり、ファブリティウスは巻き込まれてしまい、32歳の若さで亡くなってしまいます。少しもの悲しい雰囲気で、独特の筆感で描かれたゴシキヒワの作品は、ファブリティウスの遺作の一つです。
こちらも、アメリカの作家、ドナ・タート (Donna Tartt) による、2013年出版の同名の人気小説『ゴールドフィンチ』でフィーチャーされ、さらに2019年に映画化されたこともあり、アメリカをはじめ世界的によく知られる作品になっています。
パウルス・ポッテル 若い牡牛
マウリッツハイスで、かつて最も人気の作品の一つだったのが、パウルス・ポッテル (Paulus Potter) の雄牛をフィーチャーした 1647年に描かれた巨大な作品『若い牡牛』The Bull です。パウルス・ポッテルは短命で、28歳で亡くなってしまいますが、こちらは 22歳の時に描いたものです。ロマン主義が隆盛だった19世紀に、ロマン主義の先駆けとして注目を集めた作品でした。
牛という日常的な題材を堂々と巨大なキャンバスに描いた、当時としてはとても大胆な作品でした。
現在は、修復作業中で、1階の修復用のギャラリーに飾られています。お隣には、ポッテルの『白い雄牛』の絵画も展示されています。
ヤン・ブリューゲル 人間の堕落のあるエデンの園
こちらは、なんとフランダース地方で活躍した2大巨匠、ヤン・ブリューゲル (Jan Brueghel the Elder) と ルーベンス (Peter Paul Rubens) による 1615年に描かれたコラボ作品『エデンの園と人間の堕落』 (The Garden of Eden with the Fall of Man) です。
マウリッツハイスでは、オランダ絵画に加え、17世紀中頃以降にオランダ絵画が隆盛となる以前のアートの中心地、アントワープなどで活躍していたフランダース地方のアーティストの絵画も展示されています。アントワープでは、それぞれの得意分野を組み合わせ、コラボで作品を完成させるという文化があったようで、風景と動物が得意なヤン・ブリューゲルと、人物が得意なルーベンスが共同で完成させた作品です。ちなみに、ヤン・ブリューゲルは、フランドル派の巨匠、ピーター・ブリューゲルの息子です。
それでは、マウリッツハイス美術館の 1階と2階のギャラリーを準備に見ていきながら、それぞれの見どころや有名作品を紹介します。
マウリッツハイス 1階ギャラリー
マウリッツハイス美術館 1階の最大の見どころの一つが、お屋敷美術館ならではの豪華なインテリアが魅力のゴールデンルームです。上には、天井画やシャンデリア、壁には、壁画や人間の腕を模した照明が並び、マウリッツハイスらしい華やかな雰囲気が楽しめます。
1階の展示の中心となっているのが、北方ルネサンス期以降の宗教画、肖像画、静物画などです。シャンデリアや鏡など、こだわりのクラシックな雰囲気のギャラリーに様々な絵画がセンスよく配置されています。
マウリッツハイス美術館で最も古い作品として有名なのが、ヤン・ファン・エイク (Jan van Eyck) と並ぶ、初期フランドル派の巨匠、ロヒール・ファン・デル・ウェイデン (Rogier van der Weyden) により、1460年頃に描かれた、『キリストの哀悼』(The Lamentation of Christ) です。
ドイツ出身で16世紀前半にイギリスなどヨーロッパ各国で活躍した肖像画で有名なアーティスト、ハンス・ホルバイン (Hans Holbein the Younger) の作品もあります。こちらは、イギリスの政治家を描いた 1533年の肖像画、Portrait of Robert Cheseman (1485-1547) です。
ハンス・ホルバインは、肖像画だけでなく、『死の舞踏』などの版画でも有名なアーティストで、ホルバインの名作が集まる モルガンライブラリーのホルバイン特別展 が開催されたこともあります。
この他、Gerard David、Quentin Matsys、Lucas Cranach the Elder ら16世紀初頭前後に活躍した、初期オランダ絵画の著名アーティストの宗教画なども展示されています。
フランダース地方やオランダの絵画でお馴染みのモチーフとなっているのが、様々なスタイルで描かれた美しい静物画です。
こちらは、食卓やキッチンの様子を描く静物画で有名で、アントワープを拠点に活動していたアーティスト、Clara Peeters の 1615年の作品、Still Life with Cheeses, Almonds and Pretzels です。チーズやアーモンド、プレッツェルなど何気ない食べ物がとても美しく描かれています。
オランダ絵画の静物画で有名なモチーフと言えば、豪華な花です。そんな花の静物画の元祖と言えるアーティストが、アントワープ出身でオランダで活動したアーティスト、Ambrosius Bosschaert the Elder です。こちらは、1618年の作品、Vase of Flowers in a Window。
アントワープ出身で、ヨーロッパ各国で活躍した巨匠、ピーテル・パウル・ルーベンス (Peter Paul Rubens) の作品もいくつかあります。こちらは、1622-1625年頃に描かれた宗教画、’Modello’ for the Ascension of the Virgin‘。ルーベンスは、数多くの教会の祭壇画や各国王室の肖像画などを手掛けていますが、こちらは、アントワープのノートルダム教会の祭壇画の下絵として描かれた作品、聖母被昇天のための下絵です。
そんな豪華な食卓や花などの静物画の伝統を引き継ぎ、17世紀の中頃前後にアントワープで活躍したバロックアーティストが、Jan Davidsz de Heem です。こちらは、1670年に描かれた、さらに洗練された雰囲気の華やかな作品、Vase of Flowers です。
1階には、この他、お屋敷を建てた、ヨハン・マウリッツを特集したギャラリーもあります。オランダ領ブラジルの総督だった、ヨハン・マウリッツの肖像画をはじめ、当時のブラジルの様子を描いた作品などが展示されています。
マウリッツハイス 2階ギャラリー
マウリッツハイスの最大の見どころが、レンブラントやフェルメールをはじめ17世紀、オランダ黄金時代の作品が並ぶ2階ギャラリーです。2階へは、赤い絨毯が美しい木造の豪華な階段を上っていきます。
階段を上ってすぐ、とても美しい中央ギャラリーを見渡します。全ての壁に数多くの作品が飾られていて圧巻です。
2階で最も賑わっているのが、『真珠の耳飾りの少女』をはじめ、フェルメールの3作品やその他、同時代の様々なアーティストによる風俗画 (genre papinting) が飾られているギャラリーです。『真珠の耳飾りの少女』が展示されているこちらのギャラリーは、2階のギャラリー15のお部屋になります。
こちらは、デルフトの景観を描いた、View of Delft。1660年から1661年にかけて描かれた、フェルメールの作品で、珍しい風景画です。とても写実的で、じっと眺めていると中に吸い込まれそうになります。
1653-1654年頃に描かれた、フェルメールの初期の作品がこちらです。神話を描いた、『ディアナとニンフたち』(Diana and her Nymphs)。
マウリッツハイス美術館には、フェルメールの作品が3点ありますが、それぞれ雰囲気が異なっていて面白いです。あまりにも作風が違うので、一目でフェルメールの作品だと認識できない人も多いかもしれません。ぜひ見逃さないようにしましょう。
レンブラントのギャラリーは、若い時代とその後の時代で2つのギャラリー(9 & 10)に渡って展示されています。ギャラリー9では、『テュルプ博士の解剖学講義』などが展示され、ギャラリー10では、1651-1654年頃に描かれた『サウルとダビデ』、二人の黒人を描いた1661年の作品などが展示されています。
レンブラントの作品と並んで、微笑みを浮かべたり、生き生きとした肖像画で有名なフランス・ハルスの作品なども展示されています。マウリッツハイスのフランス・ハルスの有名作品の一部は、現在、アムステルダム国立美術館で開催されているフランス・ハルスの特別展に展示されています。
オランダ絵画の特徴の一つが、たくさんの人が登場する集合肖像画です。多くの人が登場する何気ない日常の光景を生き生きと描いたアーティストが、ヤン・ステーン (Jan Steen) です。
こちらは、1668-1670年頃の作品、『親に倣って子も歌う』(As the Old Sing, So Pipe the Young) です。
同じくヤン・ステーンの 1658-1660年頃の風俗画『牡蠣を食べる少女』(Girl Eating Oysters)。
たくさんの人を描くオランダ絵画の伝統は古く、こんな作品もあります。こちらは、活気溢れる冬の様子を独特の作風で描いたアーティスト、ヘンドリック・アーフェルカンプ (Hendrick Avercamp) の1610年の作品、『氷上の楽しみ』(Ice Scene) です。一目見ると作者が分かる個性的なスタイルのアーティストです。
ゴールデンルームの上階に当たるギャラリー12 は、著名アーティストの作品や面白い作品も多く見応えがあります。ルーベンスやアンソニー・ヴァン・ダイクによる全身肖像画、オランダらしい光景が描かれた風景画、神話や宗教など幻想的な世界が描かれた作品など様々な作品が飾られています。
面白い作品の一つが、こちら。ウィレム・ファン・ハーヒト (Willem van Haecht) の1630年の作品『カンパスペを描くアペレス』(Apelles Painting Campaspe)。アレキサンダー大王の寵姫、カンパスペの肖像画をアーティストのアペレスが描いているというギリシア神話の一場面が描かれています。絵の中には、たくさんの実在する絵や彫刻が飾られたギャラリーが描かれています。
オランダらしい雲が印象的な風景画の巨匠、ヤーコプ・ファン・ロイスダール (Jacob van Ruisdael) の 1670-1675年頃のハーレムを描いた作品、View of Haarlem with Bleaching Grounds をはじめオランダらしい風景画も色々展示されています。
マウリッツハイス美術館のお屋敷の窓から外を眺めると、オランダらしい雲とレンガ造りの美しい建物など歴史的な街並みが広がっています。
ギャラリーの外には、ミュージアムショップやレストランなどがある他、特別展ギャラリーもあるので、時間があれば訪れてみるのもおすすめです。
フェルメールやレンブラントらオランダ黄金時代の絵画に興味がある人は、アムステルダム国立美術館も見逃せないスポットです。