ニューヨークで毎年、楽しみにしているのが春から秋にかけてメトロポリタン美術館で行われる特別イベント、コスチュームインスティチュート (The Costume Institute) の特別展です。今年は日本のファッションデザイナー、コムデギャルソンの川久保玲さんの特別展 “Rei Kawakubo / Comme des Garcons Art of the In-Between” が開催されています。メット (MET) のファッション展で、現在でも活躍中のデザイナーを単独で取り上げるのは、なんと1983年のイブサンローランさん以来だそうで、とても注目されています。メットのファッション展は工夫が凝らされていていつも感動させてくれますが、今回の川久保玲さんの特別展も大変素晴らしいものとなっていました。
メトロポリタン美術館のファッションの特別展は、セレブの集まる豪華パーティー、メットガラ (Met Gala) を機にはじまります。川久保玲さんの特別展がスタートしたばかりの週末のメトロポリタン美術館は、とてもにぎわっていました。真剣に作品を見つめる観客たちが多く、さすがファッションに興味がある人が多い街ニューヨークです。
展示されていたファッションは、どれもこれもファッションというよりはむしろアート作品という感じです。その展示されている空間構成もとてもおもしろく、作品と空間のハーモニーがさらに全体の独創的なアートの雰囲気を高める展示となっていました。
思わず写真撮影に夢中になってしまう人もいっぱい。
今回の特別展ではじめて川久保玲 (Rei Kawakubo) さんの作品をこんなにたくさんじっくりと見ることになりましたが、印象的だったのはどこからインスピレーションを受けたのか想像がつかないユニークなアーティスティックな作品が次から次へと並べられている所です。
現在、ファッションの世界では、ファーストファッションとアート性の高いファッションという2極化が進んでいるように思いますが、ハイエンドブランドがアートなファッションを競う中、長い間に渡り、最もアート性を感じさせる作品を創り続けているのが川久保玲さんで、今求められるタイムリーなアーティストのセレクションだと思います。
1942年生まれの川久保玲さんがコムデギャルソンをスタートしたのは1969年、学生運動が盛んだった60年代という時代の影響もあるのかもしれませんが、一貫して “Status Quo” への反抗と、常に新しいものを生み出したいという強い意志を感じさせます。日本経済が高度経済成長と上り調子だったことも幸いしたのだと思いますが、常に妥協なしに自身の表現したいものを追い求め、作り続けながらも、ビジネス的にも成り立たせ、成功をおさめています。そんな川久保玲さんに、ファッションデザイナーをはじめ、新しいものを創り出す仕事をしている人々が根強いファンとなっていっているようです。
移り変わっていくウエディングドレス。
Birth / Marriage / Death
こちらでは今回の特別展についてキュレーターの Andrew Bolton さんが紹介しています。
川久保玲さんは本人としてはメディアなど公の場に登場することを好まないようで、インタビューなども少なくその人物像はあまり知られていませんが、長期間に渡り、他に影響されることなく独立した企業として、デザインだけでなく、オーナーとして経営全般を行っているようです。今回の展示の空間部分のデザインも川久保さん側が行ったそうですが、普段の店舗などもしっかりとデザインし、細部にこだわり統一したイメージをつくりだすという、最近より重要になっている Integrity と Authenticity を大切にしたブランドマーケティングが印象に残ります。
通常、メットでは現在でも活躍中のデザイナーを扱うことは商業主義的という批判も出るため避けているようですが、ファッション業界全般でも支持の高いアート性の高いデザイナーということで企画されたようです。
こちらのビデオでまとめられていますが、慶応大学の文学部を卒業し、旭化成の広告を扱う部署で働いていたそうで、その後、フリーとなり Commes des Garçons (英語で ”Like the boys”) を立ち上げたそうで、自由に独立して働ける環境、仕事を追い求めていたのだと思います。1981年にフランスのパリで国際舞台に登場し、既存のファッションからかけ離れた斬新なファッションで世界を魅了しています。こちらの2013年の記事によると、当時で、年商$220 million、従業員800人の規模となっていたようです。クリエイティブな層に人気が高いということで、様々なブランドとコラボも積極的に行っていて、まだまだおもしろい作品が生まれてきそうで楽しみです。
川久保玲さんの特別展にちなんだコムデギャルソングッズが並ぶギフトショップも盛況でした。
コムデギャルソンの川久保玲さんの特別展 “Rei Kawakubo / Comme des Garcons Art of the In-Between” はまだスタートしたばかり。2017年9月4日まで開催予定となっています。
メトロポリタン美術館の行き方と常設展の作品の見どころはこちらをどうぞ。