ナショナルポートレートギャラリー (National Portrait Gallery) は、ロンドンにある国立ミュージアムの一つで、イギリス王室をはじめ、イギリスの歴史上、重要な人物の肖像画が一堂に会し、アート好きはもちろん、歴史好きも楽しめる肖像画の美術館です。ナショナルポートレートギャラリーは、トラファルガー広場に面した人気の古典西洋アートの美術館、ナショナルギャラリーの裏手にあり、どちらも入場無料で常設展を見学することができます。また、毎週金曜日は、夜遅くまでオープンしていて、アート鑑賞だけでなく、無料の写生イベント、Drop-in Drawing に参加して実際にデッサンしてみたり、バースペースでドリンクを楽しんだりできるようになっていて、たくさんの人が集まりとてもにぎわっています。
ナショナルポートレートギャラリー ロンドン
ナショナルポートレートギャラリーというと、アメリカの首都であるワシントンDCの美術館もありますが、実はそのモデルとなったのが、ロンドンのナショナルポートレートギャラリー (National Portrait Gallery) です。1856年に設立され、1896年に、トラファルガー広場に面する、ナショナルギャラリーの隣の現在のロケーションに移転され、何度かの拡張工事を経て、今に至っています。
普通ミュージアムでは誰が描いた作品か?で、その作品を描いたアーティストに注目して美術鑑賞したりしますが、ここでは、描いた人よりも描かれた人が誰か?で、描かれている人物が主役となる、珍しいタイプの美術館で、イギリスの歴史上有名な人物の絵画、彫刻などの作品がずらりと並んでいる圧巻の美術館です。
イギリスの有名な人物、または、セレブといえば、欠かせないのが、イギリス王室です。ナショナルポートレートギャラリーには、主に、15世紀後半、ヨーク朝のリチャード3世を倒し、ヘンリー7世が王位についたテューダー朝以降の王家の肖像画が飾られています。また、シェイクスピアや、クロムウェル、ニュートン、ワット、ダーウィン、チャーチルなどイギリスの著名人を描いた作品がたくさん展示されています。教科書や本で見かけたことがある人物の肖像画のまさにオリジナルを見ることができる場所です。
ナショナルポートレートギャラリー 行き方 入場料
ナショナルポートレートギャラリーがあるのは、ロンドンの西側のウエストミンスターの繁華街、コヴェントガーデン (Covent Garden) で、訪れやすい位置にあります。隣にあるトラファルガー広場に面したナショナルギャラリーも見どころいっぱいの美術館なので、一緒に訪れてみるのもおすすめです。
ナショナルポートレートギャラリーの最寄り地下鉄駅は、チャリングクロス駅 (Charing Cross)になります。
または、レスタースクエア駅 (Leicester Square) から徒歩3分、ピカデリーサーカス駅 (Piccadilly Circus)や エンバンクメント駅 (Embankment)から徒歩5分ほどです。
ナショナルポートレートギャラリーの常設展の入場料は無料です。見学所要時間は1時間半程で見て回ることができます。
期間限定の特別展は、別料金となり、特別展によって料金が違いますが大体£18-20くらいです。特別展も含めると、見学時間はさらに30分から1時間程見ておくといいと思います。ロンドンパス を持っていたので、特別展へは無料で入場できました。特別展が開催されていない時期は代わりに美術館のガイドブックがもらえる特典があります。
ナショナルポートレートギャラリー National Portrait Gallery
St. Martin’s Pl, Charing Cross, London WC2H 0HE, UK 地図
ヘンリー7世
ナショナルポートレートギャラリーの見どころとなる人物を紹介していきます。どんな人物か知っていると、ミュージアムで鑑賞する時により楽しめると思います。
ミュージアムで是非見つけてみてください。
こちらは、歴史に残る、イングランドの王様、ヘンリー7世です。
ヘンリー7世 (1457-1509) は、ヨーク朝のリチャード3世を破り、テューダー朝を興したイングランド王です。イギリス史上、戦いにより、王位を奪取した最後の王で、1485年に王位につきました。
ヘンリー8世
ヘンリー7世の息子である、ヘンリー8世 (1491-1547) は、ヘンリー7世死去後、1509年に王位につきました。何度も離婚を繰り返し、なんと6度も結婚していて、カトリックから離れ、イングランド国教会を設立した王として知られています。
エリザベス1世
テューダー朝で、最も有名かつ最後の女王となったのが、エリザベス女王として知られる、エリザベス1世 (1533-1603) です。ヘンリー8世の娘で、幽閉されたりと波乱万丈な幼少期を過ごしながら、ヘンリー8世死後、短命だったエドワード6世、メアリー1世、フィリップ1世の3人の王の後を継いで、1558年に王位につき、その後、50年近くも王位を保ちました。1588年には、当時世界一の強さを誇ったスペインの無敵艦隊を破り、エリザベス女王の時代 (Elizabethan Era) は、イギリスの黄金時代とも言われています。
ナショナルポートレートギャラリーには、たくさんエリザベス女王の肖像画が飾られています。
エリザベス1世は、生涯独身で、子供がいなかったため、テューダー朝は、エリザベス1世で終了し、スコットランドの王家、ジェームズ1世が王位を継ぎ、ステュアート朝がはじまります。
エリザベス女王の肖像画は、数多く残されていて、その人気ぶりが伺えます。イギリスアートの美術館、テートブリテンでも、エリザベス女王の肖像画が展示されています。
Henry Unton
当時は、肖像画と言えば、対象の人物のみを中心に描くスタイルが主流でしたが、一風変わった面白い作品もあります。こちらは、エリザベス女王時代に外交官だった人物、Sir Henry Unton を描いた作品ですが、肖像画に様々な場面が描かれ、物語風になっています。
シェイクスピア
イギリス文学で最も有名な作家と言えば、ハムレット、オセロ、リア王、マクベスの4大悲劇などで知られる、シャイクスピア (1564-1616) です。例えば、ニューヨークのセントラルパークなど、現在でも、世界中の様々な場所で、シェイクスピアの劇が演じられています。そんなシェイクスピアの人物像のイメージのもととなっている作品もあります。
リチャード3世
シェイクスピアの有名作品の一つが、15世紀後半まで続いたヨーク朝の最後の王、リチャード三世を描いた同名の作品で、1593年頃に執筆されました。残忍で悪い人物としてストーリーでは描かれていますが、こちらの肖像画は、そんなシェイクスピアの作品が登場した頃に描かれたリチャード3世です。
リチャード3世の時代には、ロンドン塔で幽閉されていた、皇太子だったエドワード5世やリチャードが消えてしまうという事件も発生しています。本当に起こった真実なのかどうかは実証されていませんが、リチャード3世は、かなりの悪者として伝えられている人物です。
ジョン・ダン
独特の雰囲気を漂わせているこちらの人物は、ジョン・ダン (John Donne 1572-1631) です。詩人で、後に、イングランド国教会の司祭となった人物です。
オリバー・クロムウェル
17世紀中頃のイギリスの大事件といえば、清教徒革命とも呼ばれるイングランドの内戦です。その主役となったのが、左の作品に描かれている、オリバー・クロムウェル (Oliver Cromwell) で、終結後の1629年には、ジェームズ1世の後を継いだチャールズ1世が処刑され、短命でしたが、一時的に、イギリスが共和制となりました。
アンソニー・ヴァン・ダイク
チャールズ1世の宮廷画家だったフランダース地方出身の巨匠、アンソニー・ヴァン・ダイクの自画像も飾られています。その後のイギリスのアートの中心となる肖像画アートの礎を築いたアーティストです。
チャールズ2世
こちらは、チャールズ1世の息子で、クロムウェルの死後、1660年に王政復古が起こり、王位についたチャールズ2世です。
ジョージ2世
18世紀になり、ステュアート朝断絶後、王位が移ったのが、ドイツ北部のハノーヴァー家のジョージ1世です。こちらは、18世紀前半から中頃にかけて王となった、ジョージ1世の息子、ジョージ2世の肖像画です。ジョージ2世の後継となるのが、アメリカ独立時のイギリス王、ジョージ3世です。
当時のファッションが垣間見れる作品が並んでいます。
ナショナルポートレートギャラリーには、イギリス人以外の人物像もあり、例えば、アメリカを独立に導いた、ジョージ・ワシントンの肖像画も飾られています。
議会
イングランドの議会文化は、とても長い歴史を誇りますが、18世紀には、イングランドとスコットランドの合同議会が、そして、19世紀初頭には、アイルランドも加わり、現在のイギリスの議会の起源となっています。こちらは、1820年に、当時王、ジョージ4世が妻のカロラインと離婚するために作った法律を審議している様子が描かれている作品、The Trial of Queen Caroline 1820 です。産業革命を経て、印刷技術も発展し、多くの人の目に触れ、王や法律への嫌悪、カロラインへの同情が集まったことから、法律の審議は、撤回されたそうです。
こちらは、腐敗選挙区をなくすための1832年の選挙法改正後、庶民院の様子を描いた作品、The House of Commons。
こちらは、1840年の奴隷制度反対に関する会議の様子を描いた作品、The Anti-Slavery Society Convention。
議会を描いた作品というと、現代のアーティスト、Banksy の作品、Monkey Parliament が思い浮かびますが、こんな風に見えてくることもあるかもしれません。
ビクトリア女王
19世紀、1827年から1901年までの長期間に渡って君臨したビクトリア女王の時代は、世界中に領土を拡大し、大英帝国の最盛期でした。中央にあるのは、ビクトリア女王と夫のアルバートの像です。
2016年にシンガポールのナショナルギャラリーで見かけた、ビクトリア女王が描かれている懐かしの作品、The Secret of England’s Greatness (Queen Victoria presenting a Bible in the Audience Chamber at Windsor) もありました。Thomas Jones Barker が、1862-1863年頃に描いた作品です。
ナショナルギャラリーシンガポールは、アートはもちろん、屋上からの絶景や美しい建築も楽しめるシンガポールのおすすめ美術館です。
ダーウィン
進化論を唱え、それまでの生命の歴史の常識を覆した、ダーウィン (1809-1882) の肖像画もあります。
ダーウィンは、その功績が讃えられ、ロンドンの自然史博物館にも、彫刻が飾られています。
世界大戦
第一次世界大戦時の様子を描いた作品も何点かありました。こちらは、海軍が描かれた1921年の作品、Naval Officers of World War I。Sir Arthur Stockdale Cope の作品です。
こちらは、陸軍を描いた1922年の作品、General Officers of World War I。アメリカでもお馴染みのサージェント (John Singer Sargent) が描いた作品です。
20世紀中頃は、肖像画もモダニズムスタイルで描かれています。
エリザベス女王
現在のイギリス女王、エリザベス女王として知られる、エリザベス2世の肖像画もあります。大のコーギー好きだそうで、ワンちゃんと一緒に描かれています。
多種多様なコンテンポラリーアートの肖像画も飾られています。シャーロック・ホームズの作者のコナン・ドイル、経済学のジョン・メイナード・ケインズ、第二次世界大戦時のイギリスの首相、ウィンストン・チャーチルなど世界的にもよく知られた人物の肖像画もあります。
特別展
ナショナルポートレートギャラリーは、イギリスの歴史上の著名人の肖像画の美術館ということで、お硬いイメージがありますが、意外とコンテンポラリーアーティストの特別展なども開催したりしています。ナショナルポートレートギャラリーの1階では、随時、期間限定で特別展が開催されていて、今春は、イギリス人フォトグラファー&フォトジャーナリストの Martin Parr の特別展が開催されていました。遅くまでオープンしている金曜日の夜だったこともあり、会場には、たくさんの人がやって来ていて、とても盛り上がっていました。
人と場所をテーマとした面白いアングルの写真が数多く飾られ、とても賑やかな、楽しい雰囲気の展示となっていました。
お隣のナショナルギャラリーも大変おすすめです。
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