ニューヨーク近郊のニュージャージー州パターソン (Paterson) は、巨大な滝、グレート・フォール・オブ・パセーイク・リバー (Great Falls of the Passaic River) があることで知られていますが、その一帯は、アメリカ初の計画産業都市だった歴史があり、綿や絹、機関車、銃器などの工場が立ち並び、様々な産業が栄えました。そんなパターソンの歴史を知ることができるのが、かつての蒸気機関車の工場の跡地がミュージアムになった「パターソン博物館」です。後に初の近代潜水艦となり、アメリカに加え、イギリスや日本からも受注した、ホランド型のプロトタイプである Holland I など貴重な潜水艦などが、明治天皇から贈られた和柄の絹のアートパネルと共に展示されていて、日本の歴史にも関わりがある展示もある興味深いミュージアムです。
ニューヨークから車で30分程のニュージャージー州パターソン (Paterson) にある自然と歴史が楽しめるスポットが、パセーイク川 (Passaic River) の巨大な滝を中心とした パターソングレートフォール国立歴史公園 (Paterson Great Falls Natioanl Historic Park) です。
パターソンの滝周辺には、かつて工場だった趣のあるレンガ造りの建物が数多く残されています。
そんな工場の建物の一つにあるのが、パターソン博物館 (Paterson Museum) です。巨大な滝によるエネルギー資源をもとに、アメリカ初の計画産業都市として発展した、パターソンの歴史を学ぶことができる、パターソン滝と一緒に訪れるのにおすすめのスポットです。
ミュージアムが入っているのは、かつて Rogers Locomotive and Machine Works の工場だった建物で、19世紀前半から20世紀初頭にかけて、数多くの蒸気機関車が製造されていました。ミュージアム前には、歴史的な蒸気機関車が数点飾られています。こちらは、Rogers が吸収された ALCO-Cooke により製造され、パナマ運河建設に使用されたものです。
パターソン博物館は、1925年に設立された歴史あるミュージアムで、パターソン・グレート・フォール周辺、オールド・グレート・フォール歴史地区 (Old Great Falls Historic District) の歴史、産業、文化などが紹介されています。
先住民のレナペ族が暮らしていた植民地時代以前から様々な産業の工場が立ち並び栄えた19世紀、次第に衰退していく20世紀中頃までを中心とした展示が行われています。
アメリカ史で、最初の大きな転機となったのが、18世紀後半のイギリスからの独立です。イギリス植民地の2大都市、ニューヨークとフィラデルフィアをイギリスに占拠され、ジョージ・ワシントンが率いた大陸軍 (Continental Army) が独立戦争で最も長い時間を過ごしたのが、2大都市に隣接するニュージャージー州でした。連敗が続く中、トレントンやプリンストンで勝利をおさめ戦況が変わっていくことになります。
パターソンのグレートフォールは、そんなジョージ・ワシントンが、アレキサンダー・ハミルトンら側近と共に訪れたこともある場所で、独立後、初代大統領となったジョージ・ワシントンのもと初代財務省長官となったアレキサンダー・ハミルトンによりアメリカの産業発展のために築かれた最初の計画産業都市となり、1791年にアメリカ初の官民提携事業となった S.U.M. (Society for Establishing Useful Manufactures) が設立され開発がはじまりました。パターソン (Paterson) は、翌年1792年に、アメリカ建国の父の一人で、ニュージャージー州の知事だった、ウィリアム・パターソン (William Paterson) の名前をとって誕生しました。
博物館の建物は、蒸気機関車の工場跡のため、そんな雰囲気が伝わってくるミニチュアなども展示されています。
パターソン (Paterson) は、様々な産業が興りましたが、中でも有名なのが「絹織物」で、19世紀後半には、アメリカの絹の生産の半分程を占め「シルクシティ」(Silk City) というニックネームで知られていました。
ただし、労働環境は、厳しく、有名な 1913年のシルクストライキ (1913 Paterson silk strike) をはじめ何度もストライキが行われたり、アメリカの労働運動の歴史にもその名を刻んでいます。
パターソンには、拳銃で有名なコルト社を設立した、サミュエル・コルト (Samuel Colt) の最初の工場があったこともあり、コルト・パターソン (Colt Paterson) など珍しいコルトの拳銃コレクションなども展示されています。
飛行機を発明したライト兄弟は、1909年にオハイオでライト社を設立しますが、その後、何度か合併をしながら 1919年には、パターソンを本拠にした Wright Aeronautical Corporation を設立し、航空機のエンジンを製造していました。
後に、アメリカ、イギリス、日本などでも採用され、近代潜水艦の礎を築いた、John Philip Holland の初期の潜水艦も展示されています。John Philip Holland は、アイルランド出身で、アメリカに渡り、パターソンで学校の先生をしていたこともあるエンジニアでした。
こちらは、ニューヨークからパターソンに移った 1878年に完成した最初のプロトタイプ、Holland I。
こちらは、アイルランド独立を目指すグループの出資で作られた、Fenian Ram とも呼ばれる1881年に完成した2号、 Holland II。
その後、4号機の Holland IV まで試作を重ね、1893年には、Holland Torpedo Boat Company が設立されます。1895年にはアメリカ海軍からの受注にこぎつけ、1897年に、6号機の Holland VI となる USS Holland (SS-1) が完成します。1899年には、Holland のデザインの潜水艦を造船する Electric Boat Company が設立され、1901年には、イギリス海軍の最初の近代潜水艦となった HMS Holland 1、1904年には、日本に、初の潜水艦となる Holland Type VII 型の潜水艦をもたらしました。
そんな貢献が称えられ、明治天皇から贈られたとされる、見事な桜の周りをチョウが飛び交う美しい日本画が描かれた絹のアートパネルが展示されています。
John Philip Holland のパーソナルアイテムなども展示されていて、明治時代に日本から受け取った勲章なども展示されています。
産業に加え、岩や鉱物など様々なジャンルの展示もあります。
数多くの工場が集まり、たくさんの人々が暮らしていた街だったため、火事は大きな脅威でした。1902年には、ダウンタウンがほぼ消失するほどの大火事 (The Great Paterson Fire) が起こります。
パターソンでは、19世紀初頭に消防隊が誕生し街を守ってきましたが、そんな消防に関する展示もあります。
レトロな消防車なども展示されています。
パターソンは、世界大戦での軍需品の生産など20世紀中頃まで栄えましたが、その後、国際化が進み、アメリカでの製造業が下火になるにつれ衰退していきました。
かつて、工場で働くたくさんの人々で賑わっていた街ということで、20世紀初頭頃に使用されていた薬のコレクションなど珍しい展示もあります。
パターソンには、かつてネグロリーグ (Negro League) の New York Black Yankees などのホームなどで使用されていた歴史的な球場、Hinchliffe Stadium が残されていたり、野球の歴史にも名を残しています。近代メジャーリーグ初の黒人選手となった、ジャッキー・ロビンソン (Jacky Robinson) に続き、ネグロリーグ出身で後にメジャーリーグで活躍した Larry Doby をはじめアメリカ野球殿堂入りしている有名選手の多くもこの球場でプレイしており、こちらの記事で詳しく紹介されています。
1932年に建設された、アールデコ調の Hinchliffe Stadium は、パターソンの滝の上の公園に隣接してあります。1996年以来閉鎖されていましたが、リノベーションが行われ、2023年から再びオープンし、Hinchliffe Stadium は、国定歴史建造物 (National Historic Landmark) にも指定されています。
パターソン博物館では、そんなパターソンの野球の歴史についても紹介されています。
パターソングレートフォールズからパターソン博物館まで歩いて4分でとても近くにあります。合わせて訪れてみるのにおすすめのミュージアムです。
パターソン博物館 Paterson Museum
2 Market St, Paterson, NJ 07501 地図
迫力満点の滝とミュージアムの映像は、こちらです。
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