新型コロナウイルスの影響に対する経済的支援として成立した、アメリカの経済救済法 (CARES Act) ですが、その中で、注目を集めたものの一つが、スモールビジネスに対する支援となる、$350 billion(37兆円)のローン、PPP (Paycheck Protection Program) です。申し込みスタート後、ファンドはあっという間に枯渇してしまい、ほとんどのスモールビジネスには、行き渡っていないようです。そんな状況下、PPPの追加案が国会で話し合われていましたが、今日、上院では、$484 billion (52兆円) の追加支援が決議され、そのうち $310 billion (33兆円) が スモールビジネス救済の PPP の追加資金となる模様です。PPPには、多くのスモールビジネスオーナーたちが期待していましたが、いざ蓋を開けてみると、人々が想定していたような理想的な結果には遠く、色々と問題があることが明らかになってきました。
スモールビジネスを救済する PPP (Paycheck Protection Program) は、$350 billion (37兆円) もの規模の給付額となる、低利子のローンで、個人事業主やファミリービジネスなども含めた、コロナで経済的影響を受けたスモールビジネスのオーナーたちが申し込むことができる救済金です。PPP は、細かい但し書きがたくさんありますが、簡単にいうと、PPP では、1ヵ月分のペイロール(お給料)金額の2.5ヵ月分を借りることができる、年利1%の2年満期ローンです。ローン取得後の8週間、もともとの従業員の雇用を継続し、ローン額の75%をお給料とし、そして残りの25%をそれ以外のビジネス経費として、レントやユーティリティなどに使用するという条件を守れば、このローンは最終的には、返金を免除されるという魅力的な条件付きのローンです。
そんな理想的な救済法ですが、PPP の申し込みが実際に始まってみると、さっそく混乱が起こりました。PPP は、一般の銀行が申し込み窓口となるのですが、PPP の法律の解釈からして、SBA (Small Business Administration)(中小企業庁)も、大小様々な銀行も実際の運用での解釈が曖昧のままで混乱の中スタートし、それぞれの銀行毎に対応が大きく異なり、あっという間に融資枠がいっぱいになってしまいました。
銀行によっては参加していなかったり、既存のお客さんだけの受付だったり、対応がまちまちの中、約2週間程でいっぱいとなり、現実的には、多くの人々が想像していた方向とは違う結果になってしまいました。
そして結果どうなったかと言うと、こちらで、詳しく紹介されていますが、他にも資金調達の手段が色々あると思われる上場企業など大きな企業が大きな金額のローンを多く獲得していたのです。
PPPの対象は、従業員数500人以下のスモールビジネスが対象とのことだったのですが、色々と解釈の仕方があり、大手企業でもチェーン店一ヵ所当たりの人数でいうと、500人以下になるなどの抜け道があり、現実には、数多くの上場企業が巨額の資金を獲得する結果となっていて、ビックリさせられます。
A list of public companies that have reported receiving #PPPloan assistance
(via Morgan Stanley) pic.twitter.com/25Le6RnRqi
— Carl Quintanilla (@carlquintanilla) April 21, 2020
多くの人々が想像するスモールビジネスとは違い、大手レストランチェーンなど上場しているようなビジネスなども、条件を満たす、スモールビジネス救済ローンの申請対象となり、そんな大企業の立ち回りの速さと獲得金額の大きさに、あっという間に救済ファンドは底をつき、本当に救済を必要としている、小さなお店を経営しているスモールビジネスオーナーのところには届かない、という残念な結果を生んでいます。金利1%の低利のため、先行きが見えない中、緊急で必要がなくても、念のために、あわよくば給付となるローンを確保しておきたい、という企業の気持ちも分かりますが、本当に困っている資金を必要としているビジネスに幅広く資金が流れるように、銀行の手続きのプロセスで何かインセンティブある仕組みを作らないと、安易に大手に貸して終わってしまう結果になってしまいます。
ニューヨーク発で、全米、世界に急拡大中の シェイクシャック も承認され、受け取り、話題となりましたが、今では返金することを表明しています。
ステーキチェーンの Ruth Chris など他にも大手チェーン店の数々が受け取っている模様です。
.@RuthsChris had $42.2 million in profits last year, spent $5.2M buying its own stock, and pays its CEO $6.1M
It has $86M in cash reserves
It just received $20M in taxpayer money from a fund meant to keep "small businesses" afloat
But it gets worsehttps://t.co/nDAhzjAnvq
— Judd Legum (@JuddLegum) April 20, 2020
銀行にとっては、政府保証付きのローンなので、ほぼリスクのないローンで、早い者勝ちと銘打たれていますが、何らかのインセンティブがない限り、既にリレーションシップがあるローンサイズが大きい既存のお客さんのところへ行ってしまうのが現実です。
さらに追加資金を投入することになりましたが、想定以上に多くの人が資金を必要としているようなので、現在のやり方では、需給が合わず、様々なレベルで意図的な優遇も起こり得て、すべての人を満足させられる結果にするのは難しそうです。
今日、スモールビジネスへの31兆円の追加支援が合意されました。ホワイトハウスによると、市場で調達できる上場企業など大手は、想定していなかったようで、返金を求めていくそうですが、今回は、少しは良い結果となることを期待したいところです。
ローンが迅速に多くのビジネスに行き渡らない問題だけでなく、実はさらに追い打ちをかけるように、申請者に関する情報漏えいも起こっているようです。ちなみに、こちらは PPP ではありませんが、同じくSBA が災害時に提供するローン、EIDL の申請の方だそうです。
BREAKING: Nearly 8,000 small businesses notified that "personal identifiable information" may have been exposed due to issue on Small Business Administration web portal. (via @KateRogers) https://t.co/jn8limUSe7 pic.twitter.com/yRChbhKHE7
— CNBC Now (@CNBCnow) April 21, 2020
この他、アメリカの経済救済法 (CARES Act) では、教育機関に対する支援もありますが、資金力のあるハーバード大学なども受け取っているようです。
CARES Act で拡充された個人の失業保険も、各州ごとに対処しているようですが、古いシステムの影響もあり、膨大な数の申請をプロセスしていくのには限界があり、スムーズには進んでいないようです。理想的な法案ですが、理想からは遠い現実もあり、実際の運用には色々と問題がつきもののようです。ビジネスだけでなく、個人への給付 $1200 も、はじまっていますが、IRS に口座情報がない人を中心に、まだ未入金の人も多く、遅い場合は、受け取りは、9月頃までかかる可能性があるそうです。
史上最大220兆円のアメリカ経済救済法 現金給付1人$1200 失業保険拡充など盛りだくさんの支援に期待 The CARES Act
今日、上院議員で決議された追加法案では、PPP などスモールビジネスに関する支援の追加に加え、医療機関や検査に関する予算が含まれています。経済再開後を見据えた次回の支援策には、州などの地方自治体、インフラ、食事やエンターテイメントに関する経費の税金控除などが考えられているようです。
PPPのその後など CARES Act の状況は、こちらで紹介しています。
パンデミックによる非常事態は、医学の分野においてだけでなく、社会システムの在り方や、経済的な政策の実験も、物凄いスピード感を持って行われていくダイナミックな期間であることは、間違いありません。既存の社会システムも短期間で、かなり色々とダイナミックな変化を見せてきていますが、そこで得られた知見をしっかりと将来にも生かされていくことを期待したいところです。
完全な封じ込めが難しいと思われる新型コロナウイルスの特性を考えると、現在の感染者の波が落ち着き、医療機関がある程度正常に戻ったら、様子をみながら、少しづつ通常の生活をスタートさせていくことになりそうです。
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