アメリカは、最先端医療や医学研究が進んでいる一方、他の先進国と比べ圧倒的に見劣りしてしまうのが、一般医療制度です。公共、民間に渡り、様々な健康保険が乱立し、それぞれ条件や利用可能な医療機関のネットワークが異なっていたりと複雑なシステムで、使い勝手が良くない上に、後から驚きの医療費請求がやって来ることも多々あり、多少のことではお医者さんに行かないという人も多いと思います。そんなアメリカの医療制度の悪しき慣習である、とんでも医療費請求に対抗する法律が、ついに、国会で可決され、2022年から施行されることになりそうです。
アメリカは、日本のように国レベルでの一律の国民健康保険がないため、医療費の調整は、主に、医療機関と健康保険を提供する保険会社との間で行われます。したがって、健康保険に加入せずに、医療機関にかかったり、健康保険に加入していても、その保険の医療ネットワークのサービス外の医療機関やドクターに診てもらうと、巨額の医療費請求がやって来ることはよく知られています。
例えば、旅行者でアメリカにやって来て、突然、赤ちゃんが生まれてしまったというこんな事例があります。
あまり知られていないのが、保険のネットワーク内と確認し、医療サービスを利用しても、その一部がネットワーク外であったと言われて、高額の医療費が請求されるという悪質なビジネス慣習です。簡単な例でいえば、アメリカの健康保険では、年に一度、無料の健康診断を受けることができ、ネットワーク内から病院を探し、保険でカバーされていることを確認し、健康診断を受けるのですが、受診者の知らないところで、勝手に血液検査の検査機関にネットワーク外のラボが使用され、最終的には、受診者に高額請求をするという手法です。
この悪質な手法は、共通のビジネスオーナーが、病院とラボなど異なるエンティティをコントロールすることができれば、簡単に実現することが可能なので、プライベートエクイティなどの恰好のターゲットとなっていて、最もシンプルな健康診断以外にも、患者さんが意志判断不可能なERや救急搬送など数多くの状況で使用され、問題となっています。
関連団体のロビー活動の賜物で、常識的に考えるとなぜそんな悪質なビジネスが許されるのか理解できませんが、今回、ようやくそんなとんでも医療ビジネスへの対抗策が可決され、2022年から施行されることになりそうです。2022年からは、ER、インネットワーク施設でのアウトオブネットワークサービス、ヘリコプターでの緊急輸送などで、医療機関から患者さんへの直接の巨額の医療費請求 (balance billing) は、同意を得ていない場合、禁止となり、第三者である保険会社を通して行われることになります。今回の法律からは、なぜか地上の緊急輸送用の救急車は除外されています。医療機関と保険会社とのやり取りでも、実際のコストとかけ離れた言い値価格(balance billing) での請求は禁止となり、参照価格は設けられていませんが、現実的なコストを基にした請求とし、交渉がまとまらない場合は、独立した第三者調整機関を通して決定されます。
アウトオブネットワークの医療サービス利用時に、患者さんに直接請求するには、72時間前に、医療費の見積もりを提示し、同意を得るというルールも盛り込まれています。
ここ数年、法制化の議論が続けられていましたが、被害者は少数ということで、なかなか進捗がありませんでしたが、今年は、新型コロナによりより多くの人が被害に遭い、医療業界の悪習がより白日に晒されたことも今回の法制化の一因となったかもしれません。
どういうときにどのくらいになるかの参照価格がなかったり、救急車など例外事項があったりとパーフェクトではありませんが、少なくとも想定外の悪質な医療費請求の状況が改善されることになるのは、よいニュースではないかと思います。
アメリカの医療費高騰の背景については、こちらの映像で紹介されています。情報の非対称性があり、不明瞭会計の世界では、資本主義が、利用者に対するサービスの向上につながらず、むしろ利用者からよりお金をとろうとする悪質な利益主義につながってしまう好例と言えると思います。
アメリカの医療事情については、こちらでも詳しく紹介しています。
今回のパンデミックを通じて、医療は、For Profit ビジネスが、向いていないことが広く認識され、状況が改善されていくことを期待しましょう。
アメリカの国会で、一昨日、可決されたのは、来年度の一般予算とコロナ経済救済、そしてこの医療費請求に関する法律などを含む膨大な内容の法案です。現在、大統領のサイン待ちですが、トランプさんは、給付金を$600 から $2000 に引き上げるように要求していて、再び国会で審議される可能性もあります。