アメリカをはじめ世界各国の社会制度は知れば知るほど複雑ですが、中でも特に複雑なのが税制です。アメリカでは、先日、世界長者番付のトップレベルのビリオネアたちのタックスリターンがリークされ、巧妙な節税方法が色々と明らかにされましたが、今度は、アメリカ個人年金プラン Roth IRA を利用した、驚きの裏技の節税方法が明らかになりました。アメリカ在住者のみなさんは、個人年金口座 IRA を利用している人も多いと思います。一般人も利用する普通の年金口座なのですが、社会制度に精通したやり手のビジネスマンが利用すると、驚きの賢い使い方ができるようです。ペイパルの創業者として知られるビリオネアの投資家、ピーター・ティール (Peter Thiel) さんも一般人と同じように、毎年数千ドルが上限の IRA の口座、Roth IRA を利用しているようなのですが、なぜか、口座残高が、驚きの50億ドルに達しているそうです。どうしたらそんなことが可能なのでしょう?Roth IRA とは何か?アメリカ個人年金プランの仕組みと一緒に見ていきたいと思います。
アメリカの個人退職年金口座 IRA の種類 Roth IRA とは?
アメリカには、社会保障制度として、公的年金のソーシャルセキュリティの他、企業年金の401K、個人年金のIRAなど様々な年金制度があります。
アメリカの個人年金は、IRA(Individual Retirement Account) と呼ばれ、毎年、所得が一定金額以下の場合のみ、数千ドルを最高限度に IRA 口座に入金することが可能です。
2021年現在、修正後の所得(MAGI)が、$140,000 (夫婦合算$208,000) 以下の人のみ、Roth IRA を拠出でき、最高額は $6000、50歳以上はさらに追加で $1000 上乗せで $7000 まで入金することができます。
IRA には二種類あります。Traditional IRA と Roth IRA です。
Traditional IRA は、拠出金額分を現在の所得から控除することができます。つまり、今の時点で、節税効果を得ることができます。
一方、Roth IRA の方は、税金を先払いし、引き出す時に税金がかからない口座です。つまり、将来の節税効果を得られます。
口座内での投資には、キャピタルゲイン税はかからず、そのまま再投資することが可能です。その反面、通常の投資とは異なり、キャピタルロスを計上するのは難しくなります。
59 1/2 歳に達した段階でどちらも引き出しが可能になります。それ以前の引き出しには、10%の罰金がかかります。
Roth IRA 口座に入金するメリットは、将来、59 1/2 歳以降に、引き出すときに税金を払わなくていいことです。つまり、IRAの年金口座で、投資をして利益が出ても非課税で引き出すことができ、節税することができるのです。
Roth IRA の驚きの節税方法
Roth IRA の口座は、毎年入金できる限度額があり、最高でも $6000 ($7000) です。
そんな個人年金口座 Roth IRA の口座で、なんと 残高が50万ドルにも達している人がいるという、驚きの記事が、プロパブリカ(ProPublica) により、公開されました。プロパブリカは、先日も、リークされたビリオネアたちのタックスリターンをもとに、節税方法の大筋に関する記事を公開していますが、そんな節税の裏技の第二弾となります。
もともとは、IRA は、一般の人々が将来に備えて貯蓄、投資を促すためにできた制度で、通常、IRA の口座と言えば、株式インデックスや上場されている個別株などへの投資となります。入金金額に関する制限もあるため、普通は、どう頑張ってもビリオンレベルの金額に達することは不可能と言えます。
実は、Roth IRA の特例として、未公開株など通常のIRAの投資先以外にも投資できる Self-Directed Roth IRA という存在があります。これによって、特にスタートアップの創業者などは、使い方によっては、素晴らしい節税ツールになるようです。
Roth IRA 口座が50億ドルに達しているという、今回の記事の主役となっているのは、ペイパルの前身となるスタートアップの創業者で、ペイパルのCEOとして上場に導き、その後、投資家として活躍している、ピーター・ティール (Peter Thiel) さんで、その他、ウォーレン・バフェット (Warren Buffet) さんなどビリオネアが何人か登場していました。
ピーター・ティール (Peter Thiel) さんは、Roth IRA の拠出最高限度額が $2000 だった1999年に、Roth IRA 口座で、ペイパルの未公開株を170万株を $1700 (1株 $0.0001) で購入したそうです。その一年後には、なんと評価額が、$3.8 million に、その後も、Facebook や Palantir への投資により、2019年には、なんと $5bn に達したそうです。Peter Thiel さんは、現在、53歳ですが、現在のルールでは、59 1/2 歳になった時点で、一切税金をはらうことなく引き出すことができるようになります。
以前、こちらで紹介したことがありますが、ピーター・ティール (Peter Thiel) さんと言えば、ビジネスで成功するには、大勢に従うのではなく、逆張りで、何らかのエッジが必要である、という持論の持ち主で、そんな人物ならではの金融ハックと言えるかもしれません。
創業者や投資家など、スタートアップ株をはじめ大成長の可能性があるアセットを二束三文の価格の段階で Self-Directed Ross IRA で所有すれば、素晴らしい節税効果が得られる可能性があると言えます。
ただし今回ある程度公になったことで、多くの人が知ることとなり、ピーター・ティール (Peter Thiel) さんの言葉で言えば、エッジは失われつつあると言え、口座に上限を課されるなどルールに変更が加えられる可能性は高まると思います。
今回のような巨大な金額は一般向けではありませんが、Roth IRA で節税できるというアイディア自体は、一般の人たちももう一度見直してみるいい機会にはなったのでは?と思います。