ニューヨークのイーストビレッジに、先月、ブラントファウンデーション (The Brant Foundation) の新美術館が誕生しました。昔ながらのレンガ造りの家が立ち並ぶ住宅街であるイーストビレッジに、タウンハウス風の建物が一棟丸ごとリノベーションされ、美しいギャラリーとなっています。ブラントファウンデーションの新オープンを記念して、現在開催されているのが、イーストビレッジと縁が深い、ニューヨークで1980年代に活躍し、最近、再フィーバー中の人気アーティスト、バスキア (Jean-Michel Basquiat) の特別展です。数多くのバスキアの作品が大集合し、たくさんの人がその個性的な作品の数々に魅入っていました。
ブラントファウンデーション (The Brant Foundation) の新美術館がオープンしたのは、閑静なイーストビレッジのタウンハウスが立ち並ぶ通りです。6ストリート 沿いの 1アヴェニューとアベニューA の間にあります。1920年代にコンエドの電力施設として建てられ、以前は、アーティスト、Walter De Maria さんの住居兼アトリエだった建物がリノベーションされ、ブラントファウンデーションの美術館となりました。今回のバスキアの特別展は、時間指定の予約制となっており、美術館の前に到着すると、予約時間にやって来た人々の列が出来ています。
ギャラリーは、4階からなり、まずエレベーターで最上階まで上がり、そこから展示がスタートします。最上階のギャラリーに入ってみると、あっと息を飲む美しい光景に驚きます。天井にはキラキラと太陽光を反射するプールがあり、みんな思わず見上げてしまいます。そんな水のきらめきが会場のフロアを美しく照らしています。
ジャン=ミシェル・バスキア (Jean-Michel Basquiat) は、1960年にブルックリンに生まれ、1970年代には、SAMO という名称で、グラフィティなどニューヨークの街中のストリートアートで活躍してきました。その後、1980年代にファインアートに転向し、物凄い勢いで成功を収めてきましたが、若干27歳にして亡くなってしまったという伝説のアーティストです。現在では、ストリート風のアートもギャラリーで展示されるようになっていますが、バスキアは、キース・ヘリング (Keith Haring) と並び、ストリート風ファインアートの先駆けとなったアーティストです。白人で占められた当時のファインアートの世界で、革命児的な成功を収めたことから、バスキアは、ヒップホップ界のアーティストをはじめ、著名人やセレブにもファンの多いアーティストです。
バスキアの作品は、MoMA やホイットニー美術館などでも何点か展示されていることがありましたが、今回のバスキア特別展は、ブラントファウンデーションの所有する作品を中心に、世界の様々な美術館やプライベートコレクションから70点程もの作品が大集合しています。そんな中でも彩の綺麗さもあり特に目に止まった作品の一つが、バスキアの絶頂期、1982年の作品である、Boy and a Dog in a Johnnypump です。
自身のルーツであるアフリカ系アートをベースに、よく登場する不思議な人物像は、MoMA などでも展示されている、ド・クーニング (Willem de Kooning) を彷彿とさせますが、当時、アート界を席巻していた抽象表現の影響も感じられる作風です。
その地位がすっかり向上したストリートアートですが、ミスターブレインウォッシュの記事でも紹介した、現在、世界で最も有名なグラフィティアーティストは、バンクシー (Banksy) です。この作品のモチーフは、バンクシーが、数年前に、Barbican Centre に描いたものに登場していました。
そんな作品のそばには、あの話題の作品もありました。ブルックリン美術館でも一度見たことがある作品ですが、実はこちら、2017年に、前沢友作さんが、アンディ・ウォーホルの作品を追い抜き、アメリカ人アーティストとしては史上最高額となる 1億1000万ドルで落札した作品です。こちらも、1982年の作品です。
そして、こちらは、ロサンゼルスの現代美術館、The Broad 所有の作品です。こちらは、1981年の作品です。似ていますが、顔の向きなどよく見ると色々と違いがあります。バスキアは、頭をモチーフとした作品を数多く描いています。
こちらも、LA のザ・ブロードからやって来た作品です。木の板という面白い素材のキャンバスに描かれたストリートアーティストらしい作品です。ブルックリン美術館などで見かける、アフリカの仮面が思い浮かびます。
剣を持った戦士などインパクトのあるモチーフの作品が並んでいます。
ギャラリーの最上階からは、ニューヨークの美しい街並みがまるで作品のように楽しめます。
文字が登場するのもバスキアの作品の大きな特徴です。思わず何が書いてあるか注目してしまいます。
絵画以外の作品も展示されています。こちらも不思議なコンセプチュアルアート的な作品です。
1984年のアフリカらしい色使いのいくつかのパネルからなる作品、Grillo。バスキアの作品によく登場する王冠も見られます。
他の作品とは少し違う雰囲気を感じる優しい色合いのこちらの作品は、亡くなる前年、1987年に描いた Unbreakable です。
コマーシャルアートをファインアートに高めたのが、アンディ・ウォーホルだとすれば、ストリートアートをファインアートに高めたのが、バスキアと言えます。そんな2人は、コラボもしており、1980年代のニューヨークを象徴する1シーンの一つとなっています。最近開催されていた ペニンシュラニューヨーク や ホイットニー美術館 の特別展でも紹介されていました。
こちらの映像では、バスキアの人気の秘密が紹介されています。
展示の最後には、バスキアのグッズが色々と揃った、ミュージアムショップもありました。
イーストビレッジのタウンハウスの一角にある雰囲気のいい隠れ家美術館です。
今回の特別展は、5月15日までの開催で、入場料無料の予約制となっています。かなり大人気の展示で、全ての枠が埋まってしまっていますが、予約サイト で、ウェイトリストに登録することができます。
ブラントファウンデーション (The Brant Foundation) の美術館は、イーストビレッジのものが二つ目の美術館であり、コネチカット州のグリニッジ (Greenwich) にももうひとつ美術館があります。
The Brant Foundation
421 east 6th street 地図
バスキアは、ここしばらく、再フィーバー中で、昨年は、パリのルイヴィトン美術館 (Louis Vuitton Foundation) でもバスキアの特別展が開催されていましたが、今年の6月21日から11月6日まで、グッゲンハイム美術館でも、Basquiat’s “Defacement”: The Untold Story と題された特別展が開催されます。また、9月21日から11月17日までは、東京の森アーツセンターでも、Jean-Michel Basquiat : Made in Japan と題された特別展が開催されます。
次々に新スポットが登場するニューヨーク。見どころがいっぱいです。