フィリップ・ジョンソン (Philip Johnson) のガラスの家の邸宅、グラスハウス(The Glass House) が、コネチカット州のニューカナーン (New Canaan) にあります。最近注目を集めている20世紀中頃の現代建築、”Mid Century Modern” の代表的な建築家の一人である、フィリップ・ジョンソンの最高傑作と言われる、グラスハウスの全貌を見ることができる3時間ツアーに参加してきました。とても広大な敷地にあり、360度ガラスで囲まれた「グラスハウス」の他、様々な建物、庭園、アート作品など見所が詰まっていて、国定歴史建造物 (National Historic Landmark) にも指定されています。ニューヨークからコネチカットへは小旅行で訪れることができ、ニューヨーク、グランドセントラル駅からメトロノースに乗って1時間くらいの場所にあるコネチカット州のニューカナーン (New Canaan) を行って来ました。
今年は、フィリップ・ジョンソンの生誕110周年記念となる年であり、またグラスハウスのミュージアムがオープンしてから10周年という節目にあたる年でもあることから、グラスハウスでは、フィリップ・ジョンソンと親交があったと言う草間彌生 (Yayoi Kusama) さんによるアートの展示も行われており、周囲の美しい自然と建築、個性的なドットアートが調和した幻想的な光景を見ることができました。
フィリップ・ジョンソン
(time)
フィリップ・ジョンソンは、1979年のタイムズの表紙を飾った、20世紀アメリカを代表する建築家です。1906年生まれのフィリップ・ジョンソンの成功の糧となったのは、実は若くして莫大な財産を得たことでした。それは親からの生前贈与で、現在のアルコア社へと続く会社の株を受け取り、その株が暴騰したために、1920年代に若くして、その当時、稀だったミリオネアになりました。大学では哲学を学び、ヨーロッパ好きから、数々の旅を通じ、古代遺跡や当時のヨーロッパ建築、建築家たちに出会い、大きく感銘を受けたようです。特に、感動したのが1920‐30年頃に、ヨーロッパを中心に登場してきた、シンプルかつ機能的で、ガラスと鉄を多用した直線的なデザインと、広いオープンスペースが特徴的な建築様式、インターナショナルスタイル “International Style” でした。そんな当時のアメリカにとって新しい建築様式を MOMA の特別展を通じて紹介し、その後、アメリカにおけるモダニズム建築 “Mid Century Modern” の流行を生み出すきっかけをつくった一人がフィリップ・ジョンソンでした。
その当時、建築、アートへの関わりは MOMA のディレクター、キュレーターとしてのみでしたが、その後、ジャーナリストや政治的な活動など様々な紆余曲折を経て、1942年にハーバードの大学院で建築を学び、建築家としての道を歩むようになっていきました。フランク・ロイド・ライトや、ル・コルビュジエなどと並び、20世紀のモダニズム建築の3大巨匠と呼ばれる建築家のひとり、モダニズム建築の ミース・ファン・デル・ローエ (Ludwig Mies van der Rohe) に強い影響を受けていました。
そして、ついに1949年に自身の邸宅として、モダニズム建築で代表作として挙げられる「グラスハウス」(The Glass House) を完成させました。
I got everything from someone. Nobody can be original.
というフィリップ・ジョンソンさんの言葉からも分かるように、特定のスタイルを貫き通すというタイプではなく、その時々感銘を受けたものを素直に取り入れ、デザインする人だったため、モダニズムの後に隆盛となったポストモダニズム建築や、その他の様式のデザインも手掛けています。フィリップ・ジョンソンの代表作としては、リンカーンセンターのニューヨークシティーバレエが拠点としているThe David H. Koch Theater、Seagram Building のインテリア と先日、長い歴史に幕を閉じたフォーシーズンズホテルレストラン、Sony Plaza、クイーンズのフラッシング・メドウズ・コロナ・パークで1964年に行われたニューヨーク万博のNew York State Pavilionなどが挙げられます。以前、紹介したことがあるテキサス、フォートワースの アモン・カーターミュージアム もフィリップ・ジョンソンによりデザインされたものです。
こちらの記事で詳しくフィリップ・ジョンソンの生涯について書かれていますが、2005年に98歳で亡くなられました。
ちなみに、ニューカナーンには、グラスハウス以外にも数軒フィリップ・ジョンソンがデザインした家があり、そのうちの一つは現在売り出し中のようです。今 “Mid Century Modern” の物件がたくさんマーケットに登場してきているようです。
グラスハウス
グラスハウスは、5月から11月までの一年のうち夏~秋の期間だけ一般に公開されます。広い敷地内を案内してくれるいくつかの種類のツアーがあり、その中の In-Depth Tour という一番内容たっぷりの3時間のツアーに参加しました。In-Depth Tour は、金・土に一日一回しか行われないツアーで、一回のツアーの参加人数は10人程度となっているだけあり、すぐにいっぱいになってしまう人気のツアーです。グラスハウスをはじめとした建築群、フィリップ・ジョンソンさんの人物像、様々なトリビアなど詳しく解説を聞くことができます。
角度にとてもこだわりがあったフィリップ・ジョンソンさん。ギリシアの神殿などと同じで、斜めからみたときの建築美を大切にしていて、このガラスハウスも斜めからアプローチするようにできています。
グラスハウスの中へ入ってみると、実はこのグラスハウス、ガラスの家なので天井が見えないんです。本当にグラスハウスが空と緑と一体になり包まれているように見えます。
フィリップ・ジョンソンに影響を与えた建築家、ミース・ ファン・デル・ローエ (Mies van der Rohe) さんがデザインしたバルセロナチェアーが並んでいます。
グラスハウスのキッチンは、モダンで、特徴的なのは、シンクの上は、板をおろして隠せるようになっています。
お部屋の真ん中に置いてある風景画も実は計算されて置かれているもので、外の緑の景色とつながって見えるように置かれているそうです。
グラスハウスは、建築当時に可能だった一番大きなガラス窓を取り入れて造られました。
究極のシンプルデザインのベッドルームです。フィリップ・ジョンソンは98歳でこのグラスハウスで最後を遂げました。
ガラスハウスは360度透明のガラスで覆われている家ですが、さすがにバスルームには壁があります。家の中央右寄りにある円形の小部屋がバスルームです。綺麗なタイルが貼られたお部屋の中には、丸いシャワースペースとトイレと洗面台の必要最低限の空間になっています。
ガラスハウスのバスルームの天井は驚いたことに革張りです。
こちらのビデオではフィリップ・ジョンソン、ご本人がグラスハウスについて説明しています。
ちなみに、このガラスハウス、実際に住もうと思うと、ヒーティングなど色々とてもコストがかかるそうです。あくまでもデザイン重視であり、実用性は二の次なんですね。この見学していた日も、とても暑い日だったのですが、お部屋の中も温度が上がってしまっていました。ガラス張りなので、見た目とても涼しそうなのですが、一歩外にでれば気持ちのいい風が吹いているような日でもお部屋の中には窓を開けてもあまり風が通り抜けない感じなのです。
グラスハウスのすぐそばには、実は犬のおうちもあります。
BRICK HOUSE
ガラスハウスの前にあるのは、ほぼ同時期に建てられたブリックハウスです。このブリックハウス、何年もの間修復のため入れなくなっています。ブリックハウスの建物の外観は、あまりにシンプルな、窓もないただのレンガの家なので、中の写真をみせてもらったときは驚きました。絶妙な角度で天井からの光が入るようになっていて、とてもゴージャスな空間になっていたようです。
草間彌生さんのドットアート”Narcissus Garden”
The Pavilion in the Pond は、ガラスハウスの丘の下にあります。丘の上のガラスハウスの景色を眺めることができる場所なのですが、今ちょうど、草間彌生さんの “Narcissus Garden” というアート展が行われています。”Narcissus Garden”というのは、1963年に草間彌生さんがヴェネツィア・ビエンナーレに出展した作品のリバイバルだそうです。
銀色のボールに景色が映りこんで、とても綺麗で、幻想的で、楽しくなるアートです。
9/1-26の期間限定で、ガラスハウスが草間彌生さんのアート装飾で覆われる “infinity room” の特別展示が始まります。どんな風になるのかとても興味深いです。
池のそばにあるもう一つのアートが、”Monument to Lincoln Kirstein” です。フィリップ・ジョンソンさんが、”a staircase to nowhere” と言っていたそうですが、一番上まで上ると、あるメッセージが描かれているそうです。
JUDDの彫刻
ガラスハウスへ向かう途中にある、丸いコンクリートのアートは、Donald Judd さんの彫刻です。こちらの草間彌生さんに関するトリビア記事で紹介されていますが、草間彌生さん、Donald Juddさん、Eva Hesseさん、ミニマリストの有名なアーティストたち3人は同じ建物に住んでいたこともあるそうです。
彫刻ギャラリー
緑の並木道の先にあるのは、真っ白な建物。スカルプチャー・ギャラリーです。
残念ながら、現在、作品の展示はされていません。
ペインティング・ギャラリー
ちょっと防空壕のような頑丈な雰囲気を感じるこの建物は、ペインティング・ギャラリー (Painting Gallery) です。中は、真っ白の空間で、工夫の凝らされた造りになっています。現在行われている展示は、ROBERT RAUSCHENBERG: SPREADS AND RELATED WORKS。
気温が90度以上(摂氏32度以上)の暑い真夏日に訪れたので、このギャラリーのひんやりした空間が実はかなり幸せでした。
フィリップス・ジョンソンのスタジオ
フィリップス・ジョンソンのスタジオ (Studio) の中は、壁一面本棚で埋め尽くされたライブラリーになっています。窓は小さな窓がひとつだけ。そこからは、ゴーストハウスと緑の景色が見えます。フィリップス・ジョンソンらしいのは、主な光源が天井にあること。天井の窓からの光がうまく入るようになっていて、夜はそこにライトも照らせるようになっています。
デスクにあるおしゃれな椅子は、あのゆらゆら建築で有名なフランク・ゲーリーさんのクロスチェックアームチェアーです。
ゴーストハウス
美しい緑に囲まれた自然と一体化したハウス、ゴーストハウスです。
Da Monsta
ガラスハウスのビジターセンターにするつもりで、敷地の入り口のすぐそばに建てられたのがこの建物、Da Monstaです。ところが、この周りは閑静なお屋敷の並ぶ住宅街。大きな駐車場や、ビジターセンターができることに反対され、Da Monstaは、ビジターセンターにはならず、アートの展示スペースになりました。もともととても狭い空間の建物ですが、贅沢に空間を使ってアートが飾られています。
現在ビジターセンターは駅の目の前にあり、ビジターセンターからこのガラスハウスのあるところまでシャトルバスに乗ってやってきます。
洗練されたおしゃれなギフトショップ
グラスハウスのビジターセンターには、とてもおしゃれで洗練されたギフトショップがあります。一番人気のおみやげは、グラスハウスのスノーボールです。草間彌生さんの特別展 “infinity room” がもうすぐ行われますが、その限定スノーボールなど、草間さんデザイングッズも色々あり人気となっていました。
こんな雰囲気になっています。
Architecture is the art of how to waste space.
というフィリップ・ジョンソンさんの言葉から感じられるように、この場所は楽しみながら自由奔放に自分の好きなようにデザインできる大切な巨大なキャンバスだったということが伝わってきます。
フィリップジョンソンのガラスの家、グラスハウスは、ニューヨーク・マンハッタンから電車で1時間半ほどで行けるので、建築好きの人はもちろん、週末のちょっとした日帰り旅行に行きたい人、ニューヨーク旅行中にマンハッタンでは見られないアメリカらしい豪華な家の建ち並ぶ郊外の雰囲気を見てみたい人などにもおすすめです。
グラスハウス The Glass House
199 Elm St, New Canaan, CT 06840 MAP
この他、モダニズム建築に興味がある人は、同じくコネチカット州のニューヘイブンにある Louis Kahn さんがデザインしたイエール大学のミュージアム (Yale University Art Gallery) の建築なども楽しめると思います。
ニューヨークからは少し遠いですが、ピッツバーグ近郊にある、グッゲンハイム美術館 のデザインでも有名なフランクリン・ロイド・ライトの落水荘 (Falling Water) もおすすめです。