ワシントンDCのナショナルギャラリーでは、現在、レオナルド・ダ・ヴィンチの師匠でもあったアーティスト、ヴェロッキオ (Andrea del Verrocchio) の特別展が開催されています。今年、没後500周年を迎えた、ダヴィンチが若き頃キャリアをスタートさせたのが、1460-70年頃、ルネサンス真っ只中のフィレンツェでトップレベルだったヴェロッキオの工房でした。彫刻や絵画など幅広いジャンルの作品を手掛けたヴェロッキオの下では、ダヴィンチの他、ルネサンス三大巨匠とされる、ミケランジェロやラファエロの師匠も、修業を積んでいたりと、ヴェロッキオは、ルネサンスアートに大きな影響を与えた人物です。今回のヴェロッキオ展では、ヴェロッキオの作品の他、ダヴィンチをはじめ弟子ら工房の共同製作者たちの作品も合わせて展示されており、ヴェロッキオの斬新さとその影響を実感することができます。
ワシントンDCの国立美術館、ナショナルギャラリーオブアート (National Gallery of Art) は、ニューヨークの メトロポリタン美術館 などと並ぶ、全米トップレベルの素晴らしいコレクションを誇る美術館です。ナショナルギャラリーは、アメリカの美術館で唯一レオナルドダヴィンチの作品を所有している美術館であり、さらに、ラファエロ、フェルメール、レンブラントらヨーロッパやアメリカ美術の巨匠の作品が数多く展示されています。
ナショナルギャラリーでは、ルネサンス期にフィレンツェで活躍し、レオナルドダヴィンチの師匠だったことで知られる、ヴェロッキオ (Andrea del Verrocchio) の特別展、Verrocchio: Sculptor and Painter of Renaissance Florence が、2020年1月12日まで開催されています。2019年は、ルネサンスの三大巨匠の一人、レオナル・ド・ダヴィンチの没後500周年に当たり、ルーヴル美術館をはじめ、様々な美術館で、ダヴィンチ関連の特別展が企画されましたが、ヴェロッキオ展もその一つで、フィレンツェのバルジェロ美術館 (Bargello National Museum) と、ストロッツィ宮殿 (Palazzo Strozzi) で、春から初夏にかけて開催されていた展示が、ワシントンDCのナショナルギャラリーにやって来ています。
会場となっているのは、ナショナルギャラリーの西館、正面から入り、右手に進んで行った奥にあるギャラリーです。ギャラリーに入ると最初に登場するのが、フィレンツェのバルジェロ美術館からやって来たゴリアテの首を獲った若きダヴィデ像です。15世紀のフィレンツェは、ドゥオーモなど大規模建築プロジェクトが完了し、メディチ家の下、芸術や文化が花開いた時代です。こちらの作品も、メディチ家の依頼により、ヴェロッキオが、1473–75年頃に製作したもので、ヴェロッキオの工房で修業していた若い頃のレオナルド・ダ・ヴィンチをモデルにしたという説もあります。
ちなみに、ダヴィデ像といえば、フィレンツェには、3つの有名な作品があります。こちらは、ヴェロッキオの作品と同じくフィレンツェの彫刻を専門とする国立バロジェロ美術館にある、ドナテッロ (Donatello) のダヴィデ像です。ドナテッロは、ヴェロッキオ以前、15世紀前半のフィレンツェを代表するアーティストであり、メディチ家御用達の人物でした。こちらの作品もメディチ家からの依頼で製作された作品です。
そして、最も有名なのが、アカデミア美術館にあるミケランジェロの巨大なダヴィデ像です。
こちらは、ヴェロッキオによるキリストの胸像。今にも動き出しそうな、現実感のある作品です。
キリストの胸像を見ると、思い浮かぶのが、パリのルーヴル美術館で開催中のレオナルドダヴィンチ特別展で見かけた、キリストと聖トーマス (Christ and Saint Thomas) です。フィレンツェのオルサンミケーレ教会 (Orsanmichele) 所蔵の作品で、ヴェロッキオの代表作の一つです。
ルーヴル美術館のレオナルドダヴィンチ展では、ダヴィンチがヴェロッキオの工房で修業していた時代のことが紹介されていました。キリストと聖トーマスの彫刻の他、デッサンなども数多く展示されている、史上最大の大ダヴィンチ展です。
メディチ家は、ヴェロッキオの大のパトロンでした。ダヴィデ像の後ろには、ヴェロッキオ作のメディチ家の主要人物の胸像が飾られています。こちらは、兄の Lorenzo と共に、フィレンツェの統治者となり、後に暗殺されてしまった Giuliano de’ Medici の胸像です。
奥のギャラリーでは、可愛い天使や美しい女性の彫刻が展示されています。ヴェロッキオは、もともとは、金細工師 (Goldsmith) だったアーティストで、彫刻やレリーフ、デッサン、絵画など様々な媒体の作品を残していますが、中でも最も得意としたのが彫刻です。
こちらは、バルジェロ美術館からやって来たヴェロッキオの1475年頃の作品、花を持った女性 (Lady with Flowers) です。
フィレンツェのヴェッキオ宮殿からやって来たイルカを抱きかかえる可愛い天使の彫刻 (Cherub with Dolphin)。躍動感があり、思わず目が行ってしまう魅力的な作品です。
天使と女性の彫刻のギャラリーを見終え隣りのギャラリーへと移っていくと、次はデッサン作品のギャラリーとなっています。ヴェロッキオの作品を中心に、ダヴィンチや工房の作品も展示されています。こちらはダヴィンチの作品を彷彿とさせますが、ヴェロッキオの作品です。ヴェロッキオは、チョークや木炭を使用し、濃淡により、深みのある表現をした最初のアーティストだそうです。
こちらは、ヴェロッキオによる「聖ジェローム」です。ダヴィンチの未完の作品として有名な「聖ジェローム」もありますが、ダヴィンチは、この作品のような完成をイメージしていたのかもしれません。
ダヴィンチのデッサンも数点展示されています。
ヴェロッキオの1465-70年頃の「聖母子」 (Madonna and Child)。聖母子は、人気のモチーフだったようで、ヴェロッキオの工房のアーティストたちによって数多くの作品が描かれています。
こちらもヴェロッキオによる「聖母子」ですが、彫刻と絵画の中間である、レリーフの作品です。
こちらは、ボッティチェリの1470年頃の聖母子 (Madonna and Child)。ボッティチェリもヴェロッキオの工房に関わったアーティストの一人とされています。
ミケランジェロの師匠だったことでも知られる、ドメニコ・ギランダイオ (Domenico Ghirlandaio) の「聖母子」(Madonna and Child)。1475年頃の作品です。
The Ruskin Madonna と呼ばれる The virgin adoring the Christ Child。上のギランダイオの作品と似ていて、ヴェロッキオとギランダイオの共作とされています。キリリと引き締まった感じの作品です。
ミケランジェロは、バチカン観光 の目玉であるシスティーナ礼拝堂の最後の審判やサンピエトロ大聖堂のデザインなどで知られます。2017年には、メトロポリタン美術館で、ミケランジェロの特別展が開催されていました。
ヴェロッキオまたはペルジーノ (Perugino) の作品とされる「聖母子」。ペルジーノは、ラファエロの師匠だった人物で、ふくよかで優しい感じを漂わせるラファエロの作風が少し彷彿とされます。
こちらもヴェロッキオの工房の作品で、ヴェロッキオ以外に、ダヴィンチやペルジーノらが関わったと可能性があるとされている作品です。
こちらの聖母子は、ヴェロッキオが、晩年、ベニスに移り、Bartolomeo Colleoni の騎馬像の製作に取り掛かることになった後、フィレンツェの工房を引き継いだ Lorenzo di Credi の作品です。
ヨーロッパ以外、アメリカで唯一、一般展示されているレオナルドダヴィンチの絵画作品が、ワシントンDCナショナルギャラリー所蔵の「ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像」です。
ダヴィンチもヴェロッキオの工房のアシスタントとして作品製作に携わっています。例えば、フィレンツェのウフィツィ美術館には、レオナルドダヴィンチも一部描いたとされるヴェロッキオの作品「キリストの洗礼」があります。
特別展では、作品の展示の他、ヴェロッキオを紹介する映像も上映されています。
少し長いですが、キュレーターによる詳しいレクチャーの映像も こちら にあります。ワシントンDCのナショナルギャラリーは入場料無料で、今回のヴェロッキオ展も無料で楽しめます。2020年1月12日まで開催されているので、ホリデーシーズンにワシントンDCを旅行する西洋美術好きの人は、訪れてみるといいと思います。
ワシントンDCは、素晴らしいミュージアムがいっぱいある、見どころいっぱいの街です。
ニューヨークでは、メトロポリタン美術館やフリックコレクションなどで古典西洋美術の作品が楽しめます。