シュルレアリスム特別展 メトロポリタン美術館 Surrealism Beyond Borders 20世紀の世界各国の不思議な作品が国境を越えて勢揃い

メトロポリタン美術館では、シュルレアリスム (Surrealism) をテーマとした面白い特別展、”Surrealism Beyond Borders” が今開催されています。シュルレアリスムと言えば、今からちょうど100年程前にヨーロッパで誕生し、20世紀前半の一大アートムーブメントとなりました。例えば、ダリ、エルンスト、マグリット、キリコなど、当時のアートの中心地だったヨーロッパで活躍し、今も人気のある有名なアーティストが色々いますが、実は、ヨーロッパだけにとどまらず、世界を巻き込んだムーブメントとなり他にもシュルレアリスムの作品が色々あります。
メトロポリタン美術館のシュルレアリスム特別展では、ヨーロッパの著名アーティストに限定せず、あまり知れらていない世界各国のアーティストによるシュルレアリスムの作品も集められ紹介されています。古賀春江、岡本太郎、草間彌生ら日本のアーティストの作品も展示されていて、滅多にない面白い特別展となっています。

メトロポリタン美術館では、現在、国境を越えたシュルレアリスム (Surrealism Beyond Borders) と題された、ヨーロッパだけでなく世界各地のシュルレアリスムをテーマとした近代アートの特別展が開催されています。
会場となっているのは、2階正面左手にある特別展ギャラリー (Gallery 899) です。

シュルレアリスムと言うと、ダリやマグリットらヨーロッパの有名アーティストが思い浮かびますが、今回の特別展では、西欧だけにとどまらず、東欧、北欧、アメリカ、アジア、北アフリカ、オーストラリアなど普段あまり見かけることのない、世界各国のシュルレアリスムの作品が大集合し展示されています。

シュルレアリスムは、ダダイズムに端を発し、多くの犠牲者を出し、悲惨な戦争となった第一次世界大戦後に生まれました。フランス人のアンドレ・ブルトン (André Breton) を中心に、1920年代に誕生した文化的、政治的ムーブメントで、20世紀前半の世界の文学、絵画、映像など様々な分野に大きな影響を与えました。
シュルレアリスムは、表面的には、奇想天外な不思議な世界を描いているアートにしか見えないかもしれませんが、本当は、フロイトやマルクスをはじめ20世紀初頭に登場した新しい哲学・思想を背景に、作者の無意識の心の内面を表現した作品とされています。シュルレアリスムは、ちょうど100年程前となる20世紀前半に世界を席巻したムーブメントですが、パンデミックにより、いつもと違う世界を体験したばかりの今、これまでとは少し違った感じ方ができるタイムリーなテーマと言えると思います。
ギャラリーの入口付近には、アンドレ・ブルトンを含む何人かの詩人やアーティストがコラボし、傘で人の様子を描いているコラージュ作品なども展示されています。

ギャラリーへ入ってすぐの正面には、夢の世界を描いたかのような マックス・エルンスト (Max Ernst) や イヴ・タンギー (Yves Tanguy) らのカラフルな作品が並んでいます。

童話の挿絵のような幻想的な作品もあります。こちらは、エチオピア出身アメリカ人、Skunder Boghossian の作品です。

日本人アーティストの作品もいくつか展示されています。左側は、古賀春江さんの海、右側は、岡本太郎さんの Fairground Stall (Boutique foraine) です。古賀春江さんの作品は、東京国立近代美術館、岡本太郎さんの作品は、グッゲンハイム美術館からやって来ています。

こちらは、岡上淑子さんのトリック写真のような作品、Yobi-goe (The Call)。

絵画だけでなく、デュシャンの流れを汲んだ、不思議な作品も展示されています。

電話の上にロブスターが乗っている、ダリの有名な作品も展示されています。

著名近現代アーティスト、スペイン人のミロ、デンマーク人のアスガー・ヨルン (Asgar Jorn)。その二つの作品の間に、草間彌生さんの作品も展示されています。草間彌生さんと言えば、あまりシュルレアリスムという印象はありませんが、こちらは渡米前の1955年の作品で、シュルレアリスム風に描かれています。

スペイン出身で独裁制に反対し、逃亡者としてカリブ海の国々などを転々としていた、シュルレアリスムで自由を表現するアーティスト、Eugenio Granell の作品、Los blasones mágicos del vuelo tropical (The Magical Blazons of Tropical Flight)。

ヨーロッパ出身のアーティストが、アメリカの光景を描いた風景画です。右側は、ブルガリア人アーティスト、Pierre Alechinsky が描いたセントラルパーク、左側は、アルメニア出身で、アメリカに移住した Arshile Gorkey が描いたコネチカット州の花いっぱいの水車 (Water of the Flowery Mill) の光景。20世紀中頃、シュルレアリスム後に、その流れを汲み隆盛となった抽象表現主義的な作品です。

はじめて多くの普通の人が世界中を動き回ることができるようになり、様々な異なる文化や価値観に触れることが多くなったという当時の時代背景もあると思いますが、シュルレアリスムの一つの特徴となっているのが、多文化融合主義です。こちらは、ルーマニア出身、フランスで活動したアーティスト、Victor Brauner の作品、Prelude to a Civilization で、アメリカ先住民アートのような雰囲気です。

当時の時代背景を感じさせる暗い感じの作品ですが、左側は、スイス出身、アメリカで活動したアーティスト、Kurt Seligmann の Surrealist Composition。右側の作品は、スペイン出身、アルゼンチンで活動したアーティスト、Juan Batlle Planas の作品、The Message です。

20世紀前半は、メキシコ革命により独立を果たした、メキシコでもアートが盛んでした。リベラ、シケイロス、オロスコら壁画の三大巨匠や、フリーダ・カーロら世界的にも著名なアーティストが活躍していました。そんな可能性に満ちた若い国に惹かれて、戦争で混乱していたヨーロッパからも多くのアーティストがやって来ていたようです。今回の展示でも、メキシコで活動したアーティストの作品が多く飾られています。
フリーダ・カーロほど知られていませんが、同時期に活躍したメキシコの著名女性アーティスト、María Izquierdo の作品。静物画ですが、どこか不思議な異次元空間のような印象を受けます。

イギリス出身、第二次世界大戦中にメキシコへ逃避し、メキシコで活躍した、シュルレアリスムで知られる女性アーティスト、Leonora Carrington の作品、Chiki, ton pays (Chiki, Your Country)。スペイン、メキシコの絵画に強い影響を受けたカトリック風のシュルレアリスム絵画です。

Leonora Carrington と似た作風のこちらのカトリック風の作品は、スペイン出身、メキシコで活動した女性アーティスト、Remedios Varo によるものです。メキシコシティは、ニューヨーク同様、ヨーロッパでの第二次世界大戦から避難して来た多くのアーティストが集まり、シュルレアリスムのメッカとなっていたようです。フリーダ・カーロらがいたメキシコシティには、特に女性アーティストが集まっていたようで、今回の展示でもメキシコで活躍した女性アーティストの作品が多く登場しています。

こちらは、フリーダ・カーロの名がついた作品、La balada para Frida Kahlo (The Ballad for Frida Kahlo)。フリーダ・カーロらに招待されてメキシコにやって来た、フランス出身アーティスト、Alice Rahon の作品で、メキシコの街が幻想的に美しく描かれています。

シュルレアリスムらしい不思議な映像作品も上映されています。

長く連なるコンピュータ連続用紙に、様々な面白いイラストが描かれた作品もあります。

池田龍雄のアニメ風の面白い作品、マスク鳥。

こちらは、セレブアーティストで、すっかりシュルレアリスムを代表するアーティストとなっている、ダリの有名な作品の一つ、フィラデルフィア美術館 からやって来ている、Soft Construction with Boiled Beans (Premonition of Civil War) です。ダリの作品は、ニューヨークでは、メトロポリタン美術館とMoMA で見ることができますが、ダリ好きの人は、フロリダにある ダリ美術館 や バルセロナ近郊のフィゲラスにある ダリ劇場美術館 を訪れてみるのもおすすめです。

メトロポリタン美術館のシュルレアリスム展は、2022年1月30日までの開催です。この他、今冬は、ファッション展も開催中です。

メトロポリタン美術館ファッション展 アメリカのファッション In America: A Lexicon of Fashion

メトロポリタン美術館は、様々な常設展も見どころいっぱいです。

メトロポリタン美術館 見どころ有名作品 完全攻略法

シュルレアリスム特別展 メトロポリタン美術館 Surrealism Beyond Borders 20世紀の世界各国の不思議な作品が国境を越えて勢揃い was last modified: 12月 17th, 2021 by mikissh