メトロポリタン美術館 インド初期仏教美術 Tree & Serpent 特別展 仏塔 菩提樹 蛇 蓮華などのシンボリズムアート

メトロポリタン美術館では、紀元前2世紀から4世紀頃にかけての仏教初期の頃のインドの仏教美術をテーマとした特別展、Tree & Serpent が開催されています。仏教は、今から2500年程前にインドで誕生し、その後、日本を含むアジアの広範囲に広がり、現在でも大きな影響力を持つ宗教です。現在では、仏教美術と言うと仏像や寺院が思い浮かびますが、実は、仏教初期の頃は、あまり仏像は作られておらず、ストゥーパと呼ばれる仏塔や、菩提樹、蛇など仏教のシンボルが多く描かれていました。今回のメトロポリタン美術館の特別展では、そんな仏教初期の珍しい仏教美術を中心に、仏像が作られはじめた紀元後2-4世紀頃までの様々な仏教アートの作品が展示されています。珍しいテーマの特別展ですが、メトロポリタン美術館ならではのセンスある魅せ方で素敵な展示でした。

ニューヨークを代表する総合ミュージアム、メトロポリタン美術館 では、現在、珍しいインドの初期仏教美術をテーマとした特別展、Tree & Serpent が行われています。会場となっているのは、2階正面の左手奥にある特別展ギャラリー (Gallery 999) です。

仏教は、北インドが16もの国々から成り乱立し争っていた、紀元前6世紀から5世紀にかけての十六大国の時代に生まれました。コーサラ国の支配下にあった、釈迦族のガウタマ・シーッダルタ (Gautama Siddhārtha) により仏教が誕生したとされています。

インドと言えば、北西部に世界4大古代文明の一つであるインダス文明が興り、その後アーリア人が押し寄せ、アーリア人支配の下、バラモン教の下でカースト制度が生まれました。当時のインドでは、現在のヒンズー教の前身である、バラモン教が広まっており、紀元前3世紀頃まで、多くの国々が凌ぎを削り、戦いが繰り広げられていました。そんな戦乱の時代に、バラモン教とは異なった思想の新たなウパニシャッドと呼ばれる哲学や宗教が生まれて来ます。そんな時期に誕生した新宗教が、仏教やジャイナ教でした。

そんな戦乱の時代が終わったのは4世紀後半です。16大国の中のマガダ国が北インドを平定します。
マガダ国は、紀元前3世紀頃のマウリヤ朝のアショーカ王の時代に、カリンガ国と激戦の末、インドの大部分を支配下に置くことになります。戦いでは多くの犠牲者を出したこともあり、その後、仏教を深く信仰するようになり、仏教の教えである、ダルマに基づく政治を行い、仏教を手厚く保護していきました。

その後、マガダ国では王位継承を巡り親族や家臣間で争いが起こり、別の王朝へと移り変わっていきます。
紀元前1世紀頃に、デカン高原周辺、中央インドに興った、サータヴァーハナ朝が勢力を拡大していきます。
サータヴァーハナ朝時代に、ナーガールジュナ(龍樹)が登場するなどその後の仏教の伝播に大きな影響を与えた人物が登場します。
仏教を伝えた人物と言えば、マウリヤ朝のアショーカ王や、イラン系クシャーナ朝のカニシカ王がよく知られていますが、仏教を深く信仰した、サータヴァーハナ朝の一部の王族の貢献も大きかったようです。

今回の特別展では、アショーカ王の死後、マガダ国で別の王朝が成立し、新しい宗教である仏教から旧来のバラモン教へと重きが変わった紀元前2世紀頃から、バラモン教の他、仏教も手厚く保護したサータヴァーハナ朝の時代など4世紀頃までの北及び中央インドの仏教美術が展示されています。多くの作品は、インドからやって来ていますが、一部は、大英博物館などからの作品もあります。
ギャラリーは、全体的に照明が落とされていて、歴史的なアート展示に神々しく照明が当てられているので、ミステリアスな雰囲気の展示ギャラリーになっています。

初期の仏教美術は、主に仏塔の装飾品となっていました。面白いのは、仏陀や仏像が登場しないことで、菩提樹やナーガ、仏塔など暗に仏教を示唆する様々なシンボリズムが用いられています。仏像がなかったのは、偶像崇拝という概念がなかった、もしくは嫌った、などの諸説があるようですが、仏教を庇護したアショーカ王の後、再びバラモン教が重用されるようになったことで、初期のキリスト教のような感じで、裏舞台に隠れながらの信仰が続いていたのかもしれません。
こちらは、紀元前2世紀から1世紀頃の手すり柱で、木と蛇、蓮、空位の玉座、そしてその両脇には信者が描かれています。

こちらは、バールフット (Bharhut) の仏塔遺跡で発見された紀元前2世紀頃の手すり柱です。
菩提樹の下には、ナーガと呼ばれる多数の頭を持つ蛇がいて、その下には、仏足も描かれています。
ナーガは、日本ではあまり目にしませんが、例えば、アンコール遺跡群をはじめカンボジアやタイなどの東南アジアの仏教寺院や遺跡などではよく見かける存在です。

今年訪れたアンコール遺跡群の様子は、こちらです。

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同じく、こちらも、紀元前2世紀頃の バールフット (Bharhut) の遺跡の門部分の装飾作品です。インド神話に登場する、不思議な姿の水生生物、マカラ (Makala) が描かれています。

インド神話に登場する神々の像も飾られています。
こちらは、2世紀頃のラクシュミー像です。
この他、紀元前1世紀頃から紀元2世紀頃の、ヤクシャやヤクシニー、バララーマ、スカンダの像などもあります。ヤクシャやヤクシニーは、日本では、夜叉として知られるインド神話の神です。
神を描いた石像は、交易を通じ遥かインドにまで伝わった、古代ギリシアに端を発するヘレニズム文明の影響も大きいと思います。

今回の特別展では、仏塔と呼ばれる、ストゥーパの模型も展示されています。仏塔は、釈迦の遺骨など仏舎利を納めたお墓のような存在で、よく作品に描かれていますが、立体で見てみるとよりイメージすることができます。

こちらの円形に整然と並べられている宝石のように美しい細々とした遺物は、インドとネパールの国境付近に位置し、釈迦の遺骨の一部が納められているとされる、ピプラワ ストゥーパ (Piprahwa Stupa) から出土したものです。

仏陀の仏塔に納められた遺骨崇拝の様子が描かれた石板、ダルマチャクラと呼ばれる法輪など初期仏教美術の典型的なモチーフの遺品が色々と展示されています。

人だけでなく、ゾウも仏塔を崇拝している姿が描かれています。

イタリアのポンペイで発見された、1世記頃のインドの象牙に描かれたヤクシ像。仏教遺跡で世界遺産となっている、デカン高原のサーンチーの仏塔にあったものとされています。近くには、ポセイドン像など、インドで出土した古代ローマの遺品も展示されていて、当時、交易が盛んとなり、文化的な影響を与え合っていたことがうかがえます。

こちらは、ベンガル湾近くの南インドにあった仏塔、Amaravati Stupa にあった2世紀頃の遺品で、ヘレニズム文明や古代ローマの影響が感じられます。

紀元前後に中央インドの広域を支配したサータヴァーハナ朝の王様が、仏教を信仰している様子が描かれている、1世紀頃の石碑です。バラモン教と共に仏教も保護した王朝として知られています。

こちらは、仏陀の遺骨を巡る騒動の様子が物語風に描かれた3世紀頃のコーニスです。この頃になると、かなり詳細に描かれるようになって来ています。

こちらも3世紀頃の石碑で、仏塔の中でナーガに囲まれている仏陀が細々と描かれています。

こちらの石碑にも、仏陀の人生が物語風に描かれています。

南インドのハイダラーバード近くにあった3-4世紀頃の仏教遺跡、Phanigiri で発見された古代ギリシアやローマ帝国を彷彿とさせる建築の一部。ライオンやゾウの顔をしたマカラと仏陀の人生の代表的な場面が描かれています。

こちらは、クシャーナ朝時代2世紀頃の赤い砂岩の仏陀像。仏陀の物語が描かれたインドの建築の一部と共に展示されています。

3世紀頃の中央インドの仏陀の石像。中央インドのサータヴァーハナ朝、北インドのクシャーナ朝、海と陸での東西貿易で、ローマ帝国の影響と仏教の伝播という目的が、仏陀の偶像化につながっていったのかもしれません。

その後、現在でもお馴染みの仏陀の銅像なども登場していきます。こちらは、5‐6世紀頃の仏陀像です。

仏教が生まれ、その後、紆余曲折を経ながら、次第に広がっていった古代インドの時代を想像することができる特別展になっています。Tree & Serpent: Early Buddhist Art in India, 200 BCE–400 CE は、2023年11月13日まで行われています。仏教に興味がある人、古代遺跡や歴史好きにおすすめの展示になっています。

メトロポリタン美術館では、今、日本の国宝級が集まる日本美術の特別展 も行われています。

メトロポリタン美術館への行き方や見どころはこちらで紹介しています。

メトロポリタン美術館 ミュージアム見どころ完全攻略法

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メトロポリタン美術館 インド初期仏教美術 Tree & Serpent 特別展 仏塔 菩提樹 蛇 蓮華などのシンボリズムアート was last modified: 9月 23rd, 2023 by mikissh