昨年12月に、武漢で新型コロナウイルスの存在が確認されてから4ヵ月たちました。たった4か月の間に、新型コロナウイルスは世界中に広がり、パンデミックとなり、世界経済をシャットダウンするほどの勢力をふるっています。感染の広がりとともに、新型コロナウイルスに関する様々な事実が各国から次々と報告されており、未知のウイルスの性質の理解が少しづつ進んできています。
今後の正常化に向けて、最も大切になって来るのが検査ですが、もう一つ注目を集めているのが、一般の感染症封じ込めの王道と言われる、コンタクトトレーシングで、スマホのアプリを利用するものなどが提案されています。ただし、症状が出ていない段階での感染が多いことを示唆する新型コロナウイルスに関する最新のデータや研究結果によると、ある程度感染が広がってしまった後のコンタクトトレーシングの有効性は、残念ながら限定的となってしまうかもしれません。
アメリカでは、数ヵ月前まで対岸の火事だった新型コロナウイルスですが、現在ではすっかり世界最大の流行エリアとなり、実質上、シャットダウン状態にし、これ以上感染が広がらないよう防いでいます。一ヵ月間程の大規模なソーシャルディスタンシングの実行を経て、少なくとも感染者の爆発的な増加は防ぐことができました。経済の再開に向けてのガイドラインが発表され、各州がそれぞれ医療現場の現状を見守りつつ、再開プランを練りはじめています。PCR法など感染者を特定するための検査や、抗体検査の拡充に加えて、もう一つ、重要な柱として、コンタクトトレーシングがあげられています。シンガポールや韓国などでは、スマホのアプリが活用されていましたが、アメリカでもグーグルやアップルをはじめ、スマホを通じて、多くの人の情報にアクセスできることが可能な企業が、ソリューションを提案しています。
テクノロジーを用いた新型コロナウイルス対策
アップルやグーグルでは、iPhone や Android のスマホから位置情報を把握できるため、世界各地のソーシャルディスタンシングの具合を簡単に知ることができます。
例えば、アップルのモビリティトレンドレポートを こちら で見ることができますが、ニューヨークの現状はこのようになっています。
車に乗る人が53%減、歩行者が75%減、公共交通機関の利用が87%減で、現在かなりの人たちの動きが止まっています。
東京は、こちらです。
車に乗る人が27%減、歩行者が40%減、公共交通機関の利用が45%減。減ってきていますが、まだ半分には達していません。
グーグルのモビリティレポートは、こちら で見れますが、データは国ごとになり、アメリカのみ州ごとのデータがあります。
こちらが、ニューヨーク州。
ちなみに、少しジャンルは違いますが、フェースブックは、自己申告となりますが、全米で新型コロナウイルスの可能性がある症状を訴えている人の割合をレポートしており、今後、世界に拡大していくそうです。CDCがモニターしている全米の病院からの風邪らしき症状のデータより、地域毎の流行状態を早く知ることができる可能性があります。
iOS と Android で、アップルとグーグルは、スマホの大部分のシェアを握っており、コンタクトトレーシングに関して、共同で、技術仕様 を発表しています。コンタクトトレーシング機能を実現できる API が、5月中旬頃から提供され、行政など公共機関がパブリックヘルス用のアプリを公開できるようになります。位置情報に関しては、携帯電話の位置情報ではなく、Bluetooth LE を利用する方式で、アプリの利用者が任意で感染を表明することにより、直近の14日間に接触があった人に知らせることができます。コンタクト情報は、サーバーには送られず、スマホにのみ残るという、プラバシーに配慮した仕様となっており、アプリ提供者側はアクセスできないようになっています。Bluetooth LE の精度は、数10メートルとかなり幅が広いため、実際には接触がない人にも注意が送られてしまったり、何よりスマホを持っていない人もいたりと、色々と難しいところもあるようですが、現在の所、技術的に可能な中で、プラバシーも考慮した仕様となっています。
ちなみに、シンガポールのコンタクトトレーシング用のアプリは、TraceTogether で、こちらもプラバシーが考慮された、Bluetooth ベースのアプリで、3月にリリースされています。
この他、韓国、台湾、イスラエル、中国、インドなどでは、コンタクトトレーシングの他、感染者や感染の疑いのある隔離者の管理などを目的にアプリが利用されたりしていますが、セキュリティやプラバシーのレベルはまちまちのようです。
技術的、プラバシーの問題の他、スマホがないという人の存在はもちろん、実際にアプリをダウンロードして使用するか、忘れずにチェックするかなどそれぞれの人次第ということもあり、スマホでのコンタクトトレーシングに関しては、ないよりはあった方がいいかなというレベルだと思います。
新型コロナウイルスに関する最新データ&レポート
なぜ、短期間で、こんなに多くの人が、新型コロナウイルスに感染してしまったのでしょう?
そんな疑問に答えてくれるような、最新のデータや研究が色々と出てきています。結論を先にいってしまうと、下記のデータが示しているのは、無症状の感染者が非常に多いという事実と、人から人への感染が症状が発生する前に起こっている可能性もあるなど、無自覚、無症状の感染者からの感染が原因していると思われます。
以下、ここ最近、興味深いと思った研究結果やデータを紹介します。
アメリカ空母の感染者数と無症状者の割合
新型コロナウイルスが蔓延してしまったアメリカの原子力空母の艦長が解任されたことで話題となった、セオドア・ルーズベルト (USS Theodore Roosevelt) ですが、その後の乗組員たちの新型コロナウイルス検査の結果は、4800人程の中、600人が陽性で、そのうちの60% が、検査時に無症状だったそうです。陽性だった人の半分以上が無症状だったというのは、かなり驚きの事実でした。
Coronavirus clue? Most cases aboard U.S. aircraft carrier are symptom-free https://t.co/29gGT9j0Zu pic.twitter.com/IBCA0y6c54
— Reuters (@Reuters) April 16, 2020
無症状者の割合の高さのデータというと、ニューヨークで、主産前の妊婦さんを検査したところ 16%が陽性で、そのうちのほとんどが無症状だったという例も報告されています。
抗体テスト 実際は何十倍もの感染者がいる?
こちらのスタンフォード大学の研究者によるレポートでは、シリコンバレーの中心、カリフォルニア州サンタクララカウンティの住人の中からボランティアとなった 3300人に抗体テストをした所、1.5% の人に抗体が確認され、これを、実際の群の人口分布に合わせて調整すると 2.81% に当たるそうです。誤差範囲を考慮すると現在公表されている数の 50-85倍の感染者数がいることが示唆されているとのことです。
感染者はどの時期にうつしやすい?
こちらのレポートによると、症状が現れる2-3日前から症状が現れる頃までが、最も感染力が高い時期となり、その後、次第に減少していくそうで、SARS よりインフルエンザに近い形を示唆しているそうです。感染の多くは、症状が現れる以前に起こっている可能性があるようです。
サルも感染 ウイルス量の変化
こちらのレポートによると、カニクイザルに新型コロナウイルスを感染させてみた所、感染は起こり、人間同様、症状が出るケースと無症状のケースがあったそうです。しかも、どちらの場合も初期にウイルス量が最大に達していたそうです。高年齢のサルは、長期間に渡り、ウイルスを発し続けていたようですが、それ以外の若いサルたちは、わりと早いうちにウイルスが減少したそうです。カニクイザルなどサル類は、薬やワクチン開発のクリニカルトライアルで活躍してくており、先日、重症患者への Remdesivir のクリニカルトライアル途中で、医者の肯定的な発言がリークしていましたが、NIHは、新型コロナウイルスに感染したサルへの Remdesivir のトライアルを行った所、効果が認められたと発表しています。
今後どうなっていくの?
新型コロナウイルスは、まだ完全に解明されていない未知のウイルスのため、コンセンサスが得られるまでには、時間がかかると思いますが、最新のレポートやデータが示唆するように、無症状感染者が多いことや、発症以前に感染力が一番高いというのが事実だとすると、感染していることに本人も気づいていない時点で人から人へ感染するということになります。既に、蔓延してしまっている場合は、季節性のインフルエンザを追跡するのと同様の状態となってしまい、コンタクトトレーシングは、実はあまり有効な方法ではないと言えるかもしれません。あまり人手をかけずに、スマホなどを利用した、感染者が任意で参加する形でのコンタクトトレーシングであれば、コストを押さえながら、多少の注意喚起には役立つと思いますが、ウイルスを抑え込むほどの対策には残念ながらならないかもしれません。
ソーシャルディスタンシングと、最近、ニューヨークでも外出時に必須となったマスクの着用、石鹸での手洗い、消毒、顔を触らないなどのしっかりとした各自の衛生努力はもちろんですが、無自覚の感染者からの感染が多い、異常に感染力が高い新型コロナウイルスの感染を止めるには、つねに自身が感染していると仮定して行動することの重要性が増してきます。新型コロナウイルスは、特に、高齢や肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病など持病がある人に、とても危険な存在となっています。
重症な人が出てしまう一方、多くの人が比較的軽症で治る、場合によっては無症状で治るというのは朗報ですが、安心できる薬やワクチンが開発されるまでは、重症者の数を制御し、医療機関が対処できる範囲内で収まるように一般の活動レベルを保つ必要があります。
今後は、さらに広く抗体の有無を確認すると共に、抗体があれば再感染しないのか、どのくらいの期間抗体が維持されるのか、などが分かってくれば、さらに安心感が増してくると思います。
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