ノーマンロックウェル美術館 アメリカで最も知られるイラストアーティストの有名作品がずらりと並ぶ人気ミュージアム

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思わず微笑んでしまう日常の一コマを描き、多くの人々の心を捉えた、20世紀アメリカを代表する、有名なイラストレーター、ノーマン・ロックウェル (Norman Rockwell)。ノーマンロックウェルが晩年暮らした、マサチューセッツ州バークシャー地方の小さな街、ストックブリッジに、ノーマンロックウェルの名作が集まるギャラリーとスタジオがある、ノーマンロックウェル美術館 (Norman Rockwell Museum) という人気のミュージアムがあります。今年は、ノーマンロックウェル美術館のミュージアム設立50周年記念の年で、ノーマンロックウェルのプライベートな側面に焦点を当てた特別展が開催されています。

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ノーマンロックウェル美術館

ノーマンロックウェル美術館 (Norman Rockwell Museum) は、ニューヨークのアップステートにも近い、マサチューセッツ州西部の、緑豊かなバークシャー地方の小さな街、ストックブリッジにあります。ニューヨークシティからは、車で3時間程の距離なので、ちょっとした週末旅行におすすめの場所です。以前にも、タングルウッド音楽祭 の際、一緒に訪れたことがありますが、今回は、MASS MoCAクラーク美術館 などのバークシャー地方の人気ミュージアム巡りとして久しぶりにやって来ました。

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ノーマンロックウェル美術館が、ノーマンロックウェルが晩年暮らした、マサチューセッツ州ストックブリッジに設立されたのは、ロックウェル夫妻が存命中だった今から50年前の1969年のことです。そして、緑いっぱいの現在の場所にノーマンロックウェル美術館が移転し、オープンしたのが、1993年のことでした。
ノーマンロックウェル美術館は、世界最大のノーマンロックウェルコレクションを誇り、数多くの作品展示と合わせて、ノーマンロックウェルのアトリエもミュージアムの敷地に移築され公開されています。

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ノーマン・ロックウェル

ノーマンロックウェルは、商業アートの分野で活躍し、当時の有名雑誌、The Saturday Evening Post のイラストレーターとして、50年近くもの長期に渡り表紙を飾ってきたアーティストです。
現在では、ノーマンロックウェルの作品は、多くの美術館で展示されており、2013年には、“Saying Grace” と題された作品が、なんと 4600万ドルもの価格で落札されたりするなど、アメリカアートの中でもかなり有名な存在のアーティストとなっています。
ノーマンロックウェルのアートは、何気ない日常的なモチーフを描いているのですが、一瞬で多くの人の心を捉える、その時々の自分や周囲の世界の出来事を描写した素晴らしい作品を数多く残しています。

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ノーマンロックウェル美術館の見どころ

現在、ノーマンロックウェル美術館のメインの展示となっているのが、“Private Moments for the Masses” と題された特別展で、ノーマンロックウェルの自伝的な構成で、様々な作品が展示されています。こちらは、ノーマンロックウェル美術館の代表的作品のひとつ、「ノーマンロックウェルの自画像」です。
ノーマンロックウェルらしさがにじみ出ている個性的な作品で、このノーマンロックウェルの自画像は、1958年に描かれたもので、3重の自画像 (Triple Self-Portrait) です。
ノーマンロックウェルが3人描かれており、まず一人目は絵を描いている本人、二人目は鏡に映っている本人、そして、三人目は絵の中に描かれている本人です。
そしてギャラリーの展示のタイトルボードに描かれているこの絵の本物はどこにあるのかと思ったら、なんと、そのボードの中にある絵がまさに本物の額縁に入った絵だったんですね。普通本物をここに飾らないでしょ、というところにトリックアートのように展示していて、それに気づいて思わず笑みを誘うのも、このミュージアムらしいところです。

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ノーマンロックウェルが日常のワンシーンを切り取って描いている絵はどれも優しさや愛らしさに満ち溢れている感じで本当に見ていて心が和みます。

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ノーマンロックウェルが生まれ育ち、アート教育を受けたのは、ニューヨークシティですが、成人し、すぐの頃、家族でウエストチェスターの New Rochelle に引っ越します。1916年から、有名雑誌のイラストレーターの仕事をスタートします。当時の New Rochelle には、アーティスト系の人が多く、著名なイラストレーター、J. C. Leyendecker とも親交があったそうです。
こちらは、ロックウェルが、まだ20代の頃、1919年の作品です。いたずらっ子たちが慌てて逃げている様子がひしひしと伝わってくる絵です。泳いではいけない “No Swimming” の立て看板がたっているところで、子供たちがこっそり泳いでいたんですね。すぐ後ろから、コラーって、子供たちを叱りながら追いかけてくる怖いおじさんの姿が目に浮かぶようです。

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大きな海を行き来する船の姿をうらやましそうに見続ける小さな男の子。大きくなるまではお留守番だけど、いつか船に乗って海を旅したいな、という雰囲気を漂わせる、1927年の作品、The Stay at Homes。

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クリスマスの季節には、チャールズ・ディケンズの有名作品『クリスマスキャロル』にちなんだ作品を描いて表紙を飾ることが多かったようです。こちらは、1934年の作品、Tiny Tim and Bob Cratchit です。

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女の子がサタデーイブニングポストの雑誌を読んでいる姿を描いた、とても愛嬌のある楽しい1941年の作品、Girl Reading the Post です。ノーマンロックウェルの作品の中でもお気に入りの一枚なのですが、実はこちらの絵、ノーマンロックウェルがウォルトディズニーに贈った作品なのです。後日、ノーマンロックウェル美術館ができる際に、ミュージアムに飾ってください、ということで、この絵が戻ってきました。

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第二次世界大戦中は、フランクリン・ルーズベルトの演説にちなんだ Four Freedoms の4枚1組の作品を描き、The Saturday Evening Post に掲載されました。。連邦政府は、戦争債の宣伝用ポスターを、ファインアートのアーティストに依頼するつもりだったようですが、雑誌での人気から、ノーマン・ロックウェルの作品が、採用されることになりました。表現の自由(Freedom of Speech)、礼拝する自由(Freedom to Worship)、欠乏からの自由(Freedom from Want)、恐怖からの自由(Freedom from Fear) の4作品からなり、こちらは、アメリカでお馴染みのサンクスギビングディナーの風景を描いた作品、欠乏からの自由です。

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戦争が終結し、すっかり知名度を増し、多忙を極めたロックウェルは、全米様々な場所に出向いていたようです。こちらは、そんな旅先の様子でしょうか、ダイニングカーにいる少年を描いた1946年の作品です。しっかりとモデルを配置し、その場をカメラに収め、写真をもとに何度もデッサンを重ね、最終形に持っていくという緻密な描き方をしていたそうです。

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地方メディアを訪れた時の様子を描いた1946年の作品、Norman Rockwell Visits a Country Editor。

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こちらは、ファミリードクター訪問時の様子を描いた1947年の作品、Norman Rockwell Visits a Family Doctor。家族の歴史がこうして絵として残されるというのも素敵です。

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夏休みに見かけそうな大家族旅行のシーンの一コマ。必死に運転するお父さんと、退屈しちゃった子供たちと犬の家族のにぎやかな様子が伝わってくる楽しい絵です。1947年の作品、Going and Coming。

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クリスマスの日に、待ちに待ったお父さんが帰ってきた!感動の家族再会のシーンで、みんなの幸せな気持ちが伝わってきます。1948年のこちらの作品には、ロックウェル家の家族が描かれていますが、実際は、ノーマンロックウェルは、南カリフォルニアにいて、離れ離れだったりと複雑な家庭事情だったようです。

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人の表情を描くのがとても得意なノーマンロックウェル。噂話をする人たちの表情を見事にとらえた、本当に面白い作品です。1948年の作品、The Gossips。

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噂話 (The Gossips) と同じ手法ですが、ある一人の女の子の一日を描いたこちらの作品も色々な表情が描かれていて本当に可愛らしいです。1952年の作品、Day in the Life of a Little Girl。

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鏡をじーっと見つめる女の子。雑誌を見ながら、綺麗になりたい、って努力する女の子の心が伝わってくるようなかわいい絵です。1954年の作品、Girl at Mirror。

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婚姻届けにサインをする初々しいカップルの様子が微笑ましい絵です。しっかりと旦那様にサポートされて、幸せそうなお二人です。1955年の作品、Marriage License。

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注射が好きな子供はいないですが、痛い注射に頑張って立ち向かおうとしている可愛らしい男の子の絵です。1958年の作品、Before the Shot。

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家出をしようとしている小さな男の子。あれれ?もしかして、もうお巡りさんにばれちゃったかな?1958年の作品、Runaway。

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ノーマンロックウェル美術館のある、マサチューセッツ州バークシャー地方の小さな街、ストックブリッジの街の様子を描いた、ノーマンロックウェルの有名な絵です。1967年に描いた、クリスマス時のストックブリッジのメインストリートの様子を描いた作品、Home for Christmas です。ノーマンロックウェルは、60歳前後の1953年以降、ずっとストックブリッジに住んでいました。ホームタウンの楽しい季節を描いています。

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ノーマンロックウェルの絵に描かれている、このストックブリッジのメインストリートの一番右側にあるのが、ストックブリッジの老舗ホテル、レッドライオンイン (Red Lion Inn) です。実はこのホテル、今も健在の素敵なホテルです。

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今現在のストックブリッジのメインストリートの様子はこちら。驚くほどそのままの姿を保っています。
レッドライオンイン (Red Lion Inn) の他、アイス屋さんや、可愛いお土産屋さんなどもあり、一緒に立ち寄ってみるのもおすすめです。

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心温まる可愛い作品も多い、ノーマンロックウェルですが、その時代の社会問題を描いた作品も数多く残しています。
1950-60年代にかけて、アメリカで起こった大きな社会的運動が、人種差別をなくすことを目的とした公民権運動 (Civil rights movement) でした。1967年に、ノーマンロックウェルが、そんな社会問題をテーマとして New Kids in the Neighborhood という作品を描きました。

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ノーマンロックウェルの最も有名な人種問題を描いた作品が、1964年の The problem we all live with という作品です。ノーマンロックウェル美術館には、こちらのレプリカがあり、本物の作品は、現在、貸し出し中のようで展示はされていませんでしたが、ニューオーリンズの白人の生徒しかいない公立学校に、たった一人の黒人の少女、Ruby Bridges さんが登校する姿が描かれた作品です。警察官たちに守られながら登校している少女に、どこからともなく、物が飛んでくる悲しい当時の社会が描かれています。

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ノーマンロックウェルは、雑誌などの他、大統領のイラストを描いたりと商業アートにおいては、大成功を収めていましたが、20世紀前半の様々な近代アートのムーブメント、そして1950年前後に大隆盛を誇っていた抽象表現主義とは、対極を行く作風で、ポロックの作品を眺める老人を描いたイラストも残しています。そんなノーマンロックウェルでしたが、抽象表現主義への反動もあると思いますが、アンディ・ウォーホルらによるポップアートの流れに乗り、1968年には、ニューヨークのギャラリーで初の個展が開かれ、当時の著名アーティストたちもやって来たそうです。
こちらは、ノーマンロックウェルが、アメリカ建国200周年となる 1976年に描いた作品、自由の鐘 (Liberty Bell) です。大切そうにベルにリボンをかける姿が温かい素敵な作品です。それからまもなく、ノーマンロックウェルは、1978年に、84歳で亡くなりました。

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今年は、ノーマンロックウェル美術館の設立50周年記念ということで、設立の年、1969年をテーマとした特別展、“Woodstock to the Moon: 1969 Illustrated” も開催されています。1969年は、人類が初めて月面着陸した記念すべき年でもありました。アポロ11号が、1969年7月20日に、初めて月面着陸を果たしましたが、世界中が注目した大イベントでした。ノーマンロックウェルが描いた、月面着陸のイラストをはじめ、ニューヨークのアップステートで開催されたウッドストック音楽フェスティバルの様子など当時のことが伝わってくる様々な作品が展示されています。

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ノーマンロックウェルと彼の主治医で、親交の深かった著名な精神分析医、Erik Erikson の関係に焦点を当てた特別展、“INSPIRED: NORMAN ROCKWELL AND ERIK ERIKSON” も開催されています。1953年に、それまで住んでいたバーモント州からマサチューセッツ州ストックブリッジに引っ越してきたのは、精神病院があったためです。もともとは、当時の奥さん、Mary Barstow さんが、通院していましたが、鬱病の気があったノーマンロックウェルさんも通い出します。特別展では、そんな2人の関係が紹介されています。

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現在、開催中のノーマンロックウェル美術館の全ての特別展は、今秋、2019年10月27日までの開催となっています。
この他、ノーマンロックウェル美術館の常設展としては、地下にシアターがあり、ノーマンロックウェルの人生が映像作品で紹介されています。

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ロックウェルのイラストレーターとしてのキャリアの土台となったのが、1897年から1963年まで週刊で発行されていた雑誌、サタデーイブニングポスト (The Saturday Evening Post) です。ノーマンロックウェルは、1916年から1963年までの50年近くに渡り、323回もの表紙のイラストを描いています。そんな雑誌の表紙が、シアター両側の壁いっぱいにずらりと展示されている、圧巻のギャラリーになっています。

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微笑ましい楽しい作品をたくさん描いてきた、アメリカを代表する人気のイラストレーター、ノーマンロックウェルの人生はこんな風でした。詳しく映像で紹介されています。

1階入口左手には、ミュージアムショップがあり、ノーマンロックウェルの作品をモチーフにした絵ハガキや小物などお土産におすすめのものがたくさん売っています。

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ノーマンロックウェルのスタジオ

ノーマンロックウェル美術館には、ロックウェルが使用していたスタジオが移築されています。
本館の外には、美しい芝生が広がり、奥にある赤い建物が、スタジオとなっています。

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スタジオへ見学に行くこともでき、スタジオの中へ入ってみると、ガイドさんがいて、色々と面白いお話を聞かせてくれます。

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スタジオには、ロックウェルの1961年の作品、GOLDEN RULE のレプリカをはじめ、様々なアート作品が飾られています。GOLDEN RULE は、ニューヨークにある、国連本部に飾られている作品です。

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とても快適そうな広々としてスタジオで、ここで、ノーマンロックウェルの作品が創作されてきたのか、と感慨深く思います。

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美術館の敷地内には、1859年に建てられたという豪華なバークシャーコテージ、Linwood House もあります。残念ながら、内部の見学はできません。また、広い敷地には、様々な彫刻作品も点在しています。

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ノーマンロックウェルの見学所要時間は、全体を見て回るのに、2時間程みておくといいと思います。バークシャー地方へやって来たら、ノーマンロックウェル好き、アート好きの人は、是非訪れて欲しい、おすすめの美術館です。

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ノーマンロックウェル美術館 Norman Rockwell Museum
9 Glendale Rd, Stockbridge, MA 01262 地図

ちなみに、近くの宿泊先、エレガントな素敵な滞在ができるホテル、Seven Hills Inn おすすめです。

ノーマンロックウェル美術館と、タングルウッド音楽祭を訪れるコースもおすすめです。

タングルウッド音楽祭とストックブリッジ ニューヨークから夏の小旅行におすすめ!

ノーマンロックウェル美術館 アメリカで最も知られるイラストアーティストの有名作品がずらりと並ぶ人気ミュージアム was last modified: 8月 3rd, 2021 by mikissh