今年のオープンハウスニューヨークでは、ブルックリンのサンセットパークのブルックリンアーミーターミナル (Brooklyn Army Terminal) へ初めて訪れてみました。ブルックリンアーミーターミナルは、現在NYCの所有するオフィススペースとして、小規模なクラフトやアートスタジオ、製造業の工場、ミュージアムの倉庫などとして利用されていますが、実は今から100年前の第一次世界大戦中に、軍事施設として建設された建物です。軍事物資の集積や積み込み用施設、兵士の乗船地として建設がスタートし、終戦後の1919年に完成した施設で、その中心は、とても巨大なコンクリート造りの2棟のウェアハウスで、内陸側の棟の内部には、見事なアトリウムが広がり、人気の写真撮影スポットになっています。
ブルックリンアーミーターミナルへの行き方は便利な公共の交通機関が2つあります。
一つ目は、地下鉄R線に乗って59 St 駅にて下車後、歩いて10分程で到着します。
二つ目は、NYC Ferry のサウスブルックリンラインに乗り、サンセットパークで下りるとすぐの場所にあります。
ブルックリンアーミーターミナルは、ニューヨークハーバー沿いにあり、二つの巨大なコンクリートのウェアハウスが目印です。
軍事的な目的の施設だったウェアハウスということで、そんないかつい感じのデザインの建物ですが、実は有名な建築家のデザインの建物です。完成時に世界一の高さを誇ったウールワースビルや、美しい ボザール様式のUSカスタムハウス などを設計した Cass Gilbert によるデザインで、これらの建物は特に機能性を重視したものとなっています。
当時、このブルックリンアーミーターミナルの建物は、世界で最大級のコンクリート造りの建築でしたが、戦時中だったため、驚くほどのスピードで、たったの17ヵ月で完成させたそうです。
この日は、オープンハウスニューヨークで、ガイドさんによる無料ツアーが開催される日とあって、たくさんの人々がやって来ていました。オープンハウスニューヨークはニューヨーク中の建物が一般に開放され、普段入ることができない施設などにも入ることができる貴重な機会を与えてくれるイベントなのですが、とてもたくさんの人々がブルックリンアーミーターミナルに集まってきていて驚ました。
ブルックリンアーミーターミナルが軍事利用されていたのは、1966年までで、その後、1981年にはニューヨーク市に売却され、リノベーションが進められました。現在では、オフィスやスタジオ、工場、倉庫などとして、多くの人が働く場所となっています。カフェや休憩所なども用意されていて、コワーキングスペースのようになっています。
巨大なウェアハウスは2棟あり、そのうちのひとつ、東側の一棟は、建物内に巨大なオープンスペースのアトリウムがあります。入った瞬間、WOW感がある、思わず写真を撮りたくなる空間です。
当時、鉄道などにより物資が運ばれ、ここで短期間保管され、最終的に船に積み込みを行う拠点となっていました。
電車のプラットフォームのような場所を進んで行きます。
建物の中央に、歴史のありそうな電車の車両が置かれています。何か歴史的な遺品なのかと思ったのですが、実は特に特別なものではないそうで、ロングアイランド鉄道 (LIRR) のいらなくなった車両が置かれていて、動かすにも動かせない状態なのでそのままそこに置かれたままになっているのだとか。あまりにこの風景に馴染んでいたので、初めて見る人は歴史的な物だと思うかもしれません。
ガイドさんが、ブルックリンアーミーターミナルの歴史や建築など様々な解説をしてくれました。とてもプロフェッショナルなガイドさんで、解説が終わった後、みんな大きな拍手をしていましたが、実は月に数回、ブルックリンアーミーターミナルのツアーを開催しているツアー会社のガイドさんでした。この日は簡略バージョンのツアーでしたが、通常は、たっぷり2時間のツアーを行っているそうです。
ブルックリンアーミーターミナルの色々なトリビアを紹介してくれましたが、あの有名なエルビス・プレスリーが、1958年、アメリカ軍の一員としてドイツに向かう船に乗り込んだ場所でもあるそうです。
ニューヨークにいることを忘れてしまう雰囲気です。
ブルックリンアーミーターミナルのこの建物は、ブルックリンのファクトリー感漂うカッコいい独特の雰囲気の空間です。そこで、ファッション系の人々などが、写真やビデオの撮影をしにやってきている姿も色々見かけました。
現在、このブルックリンアーミーターミナルには、有名どころでは、ニューヨークで人気のチョコレート屋さん ジャックトレス の工場など、様々な業種のテナントが入っていて、アメリカ自然史博物館 の倉庫などもあるそうです。
テナント全般的にはアート&クラフト系のテナントが目立って来ている感じでした。アーティストにスタジオスペースをリーズナブル価格で貸し出している、アート系のNPO の Chashama がオープンハウスニューヨークに合わせて、オープンスタジオ、Chashama Open Studios 2018 を開催していました。
広々としたスペースには、たくさんの小さなスタジオスペースがあり、アーティストたちそれぞれの独自の世界が創り出されています。気になる作品のアーティストさんと話してみることも出来ます。
アーティストさんのアトリエに気軽に入ることができる貴重な機会です。
素敵な作品がそれぞれのアーティストさんのスペースの廊下に展示されています。
ショッピングバッグがずらりと並ぶ面白い展示も。
本当にそれぞれのアーティストさんの個性が輝く作品ばかりです。
アーティストさんのアトリエもそれぞれで、アトリエ見学も楽しめました。
ニューヨークをテーマにしたアート作品もたくさん。多くの一般人がやってくるこのイベントを機会に、オリジナルグッズを販売しているアーティストさんもいました。
ブルックリンアーミーターミナルのもう一棟の建物にも訪れてみます。こちらにもアートスタジオがありますが、まだ新しい雰囲気で工事中のところもちらほらあります。
こちらには、先ほどの建物のような、景色が綺麗なアトリウムはありません。
何気なく見とれてしまうカラフルで美しい作品。
こちらもバラエティに富んだ様々な作品が見られました。
もう一つオープンスタジオになっていたのが、ArtBuilt です。こちらも、Chashama 同様、アート系のNPOで、リーズナブル価格で、小さなスタジオスペースを貸し出しています。こちらはクラフト系の工房が多く入っていました。WeWork をはじめとした、シェアリングオフィススペースの隆盛の影響か、アート系のシェアリングスタジオも増えて来ています。
レッドフックのギャラリーでも見かけた、印象に残る本のアーチです。
以前、マンハッタンのアート系印刷工房 を紹介したことがありますが、最近、人気が高まっているのが、昔ながらの技法で印刷する味のあるデザインで、そんなクラフトショップもありました。
ひとつのスペースを4種の業種でシェアして利用している面白いスタジオもありました。お互い刺激もあり、仲良くなったり、面白いプロジェクトの機会も生まれそうで楽しそうです。
ニューヨークは、クリエイティブな活動をサポートする、アーティストたちにとって恵まれた街です。来年のNYCの予算では、その重要性から、NYC Cultural Affairs に史上最高額の予算が割り当てられたというニュースがありましたが、ニューヨークでは、ますますアートなどの文化的な活動を継続して行いやすくなっていくと思われます。
With largest-ever allotment for Department of Cultural Affairs, New York City grants $43.9 million to arts programs https://t.co/I9B7wL6TS9
— ARTnews (@ARTnewsmag) October 23, 2018
先日、スタテンアイランドでも見かけた面白いフェンスアートもありました。
こちらの映像では、ブルックリンアーミーターミナルの基本情報が紹介されています。
ブルックリンアーミーターミナル Brooklyn Army Terminal
80 58th St, Brooklyn, NY 11220 地図
かつて、ニューヨークの海上輸送の一大拠点として栄えた、ブルックリンのサンセットパークは、ブルックリンアーミーターミナルから少し離れたところに、インダストリーシティという、スモールビジネスのグルメ店やショップがたくさん集まる場所もあり、色々と再開発が進められている注目のエリアです。