ホイットニー美術館 ジャスパージョーンズ特別展 有名作品アメリカ国旗やターゲットも登場の大回顧展 Jasper Johns: Mind/Mirror

ニューヨークの人気ミュージアム、ホイットニー美術館で、ジャスパー・ジョーンズ (Jasper Johns) の特別展 Jasper Johns: Mind/Mirror がスタートしました。ジャスパー・ジョーンズ (Jasper Johns) は、ネオダダのアーティストとして知られており、91歳となった今でも現役アーティストとして活躍しています。今回のホイットニー美術館のジャスパー・ジョーンズ特別展は、フィラデルフィア美術館と共同での同時開催で、大規模な回顧展となっています。両美術館で、それぞれアメリカ国旗やターゲットなどの代表作をはじめ、ジャスパー・ジョーンズの生涯に渡る250点以上にも及ぶ作品が大集合する見応えのある展示となっています。

ジャスパー・ジョーンズ特別展 in ホイットニー美術館

ニューヨークのアメリカアートに特化したミュージアム、ホイットニー美術館ではじまったばかりの今注目の特別展は、ジャスパー・ジョーンズの大回顧展、Jasper Johns: Mind/Mirror です。ジャスパー・ジョーンズは、ホイットニー美術館とも関係が深い著名現代アーティストであり、もともとは、90歳の誕生日を迎えた昨年に予定された特別展でしたが、パンデミックで延期され、2021年9月29日からスタートとなりました。
会場となっているのは、ホイットニー美術館の5階で、入口には、ジャスパー・ジョンズの有名なモチーフのポスターがずらりと美しく飾られています。

ジャスパー・ジョーンズとは

ジャスパー・ジョーンズ (Jasper Johns) は、ジャクソン・ポロック (Jaskcon Pollock) をはじめとした抽象表現主義 (Abstract Expressionism) が隆盛だった1950年代に、フラッグやターゲットなどよく知られたシンボルをモチーフに、他とは異なる雰囲気の作品を描き、その後のポップアートやミニマリズムなどに大きな影響を与えたアーティストです。

ジャスパー・ジョーンズは、1930年にジョージア州で生まれ、サウスカロライナ州で育ちました。1953年に、ニューヨークに移り、アーティストとして本格的に活動をはじめたのでした。ニューヨークでは、現在著名アーティストとして知られている、ロバート・ラウシェンバーグ (Robert Rauschenberg) と共にパートナーとして暮らし、影響を与え合い、当時大流行していたアーティストの内面の感情の発露として捉えられいた抽象表現主義の作品とは異なった雰囲気の作品を生み出しました。その作風は、第一次世界大戦への反動により、1910年代頃に巻き起こった、ダダイズムと呼ばれるムーブメントと似た雰囲気があり、ネオダダ (neo-Dada) と呼ばれることがあります。ダダイズムは、現在でも、現代アートに大きな影響を与え続けているスタイルで、コンセプトなどあらゆるものがアートとなり得ることを示した、マルセル・デュシャンなどで知られています。
ジャスパー・ジョーンズは、軍で働いていた朝鮮戦争時の1952年から1953年にかけては仙台に駐留していたことがあり、1964年、1978年には、日本に招待されたこともあり、日本とも関係の深いアーティストです。

ジャスパー・ジョーンズの有名作品 アメリカ国旗

ジャスパー・ジョーンズの作品で最もよく知られているのが、国旗を描いた作品です。
こちらは、3つの旗を重ね、立体感を出している、1958年に描かれた面白い作品で、1959年に、ホイットニー美術館の現代アート展ではじめて展示されました。1950年代と言えば、ジャクソン・ポロックらを代表とする、抽象表現主義 (Abstract expressionism) が隆盛だった時期ですが、そんな時期に、ジャスパー・ジョーンズは、1954年からアメリカ国旗を描いており、抽象表現主義からの移行期に登場し、1960年代以降のポップアート、ミニマリズムなどへ影響を与えたアーティストとなります。日常見かける何気ない対象を独特のスタイルで描いた、個性的な作品を多く残しています。国旗もある日、夢で見たことから描きはじめたそうで、政治的な意図など深い意味合いはないようで、その解釈は、見る人に委ねられているとも言えます。

ジャスパー・ジョーンズの有名作品 ターゲット

同じく、ジャスパー・ジョーンズの有名なモチーフの一つが、的を描いた作品、ターゲット (Target) です。こちらは、ターゲットとその上に4つの顔を組み合わせた1955年の作品、Target with Four Faces です。ターゲットと言えば、アメリカの人気小売チェーン、ターゲット (Target) の赤の二重丸のロゴを思い浮かべる人も多いと思います。ジャスパー・ジョーンズのデザイン?とふと思いましたが、ターゲットのお店のロゴのオリジナルは、別の人によるもので1962年にデザインされました。ジャスパー・ジョーンズとは、直接関係ありませんが、もしかしたら美術館やギャラリーで作品に出会って影響を受けているかもしれません。

ジャスパー・ジョーンズの有名作品 地図

ジャスパー・ジョーンズは、アメリカ国旗同様、アメリカの地図も様々なスタイルでたくさん描いています。こちらは、1961年の作品、Map。誰もが知っているアメリカの地図を抽象表現風に描いていますが、どんな意図で描いているのかが、アーティスト自身の内面が隠され、あまり見えてこないのが特徴です。

ホイットニー美術館 ジャスパー・ジョーンズ回顧展の構成

今回のホイットニーの回顧展では、合計250点以上もの作品や資料が、モチーフやスタイルなど13のテーマに分かれ、展示されています。
ジャスパー・ジョーンズの作品は、あまり感情を表現しない、明るい色合いの作品が多いですが、中には、悲しい雰囲気が表現されている作品もあります。
抽象的ながらシンボル的に弓のようなものが描かれたこちらの作品は、1962-63に描かれた Diver と題された、詩人、Hart Crane への追悼作品です。1960年代初頭は、長年パートナーだった、ロバート・ラウシェンバーグと離れることになった時期でもあります。

様々なスタイルで描かれた、アメリカ国旗と地図の作品が集められているセクションもあります。

オレンジと緑と黒のアメリカ国旗。そして、その下には、灰色の国旗があります。上の旗をしばらく見つめてから、下の旗を見ると、錯覚で赤、青、白の国旗が見えるというトリックアートのような作品です。こんな感じの色の組み合わせを見ると、今では、David Hammons がデザインした、赤と緑と黒のBLM 運動の旗が思い浮かびますが、そんなデザインにも影響を与えているかもしれません。

ジャスパー・ジョーンズは、サウスカロライナ州で育ち、ニューヨークに移った後も、後に別荘を所有し、度々訪れています。サウスカロライナと関係の深い作品が集められたセクションもあります。

第一次世界大戦に対する虚無感から誕生し、1920年前後に隆盛となったのが、あらゆる体制的なものに反抗する、ダダイズムでした。ダダイズムについては、こちらの映像(Youtube)で、詳しく紹介されています。ニューヨークでダダイズムの代表的な存在となったのが、マルセル・デュシャン (Marcel Duchamp) で、トイレの便器を噴水 (fountain) と名付けて、展覧会に出したり、レディメイド (Readymade) で、当時のアート界の常識を打ち壊したアーティストでした。こちらは、デュシャンのシルエットも描かれている1964年の作品、According to What。適当に配置したかのように見えますが、しっかりと全体の設計をし、部分部分の下書きを行い完成させたもので、その過程も合わせて展示されています。

絵画と立体的な蛍光灯を組み合わせた、1963-64年の作品です。蛍光灯と言えば、Dan Flavin が思い浮かびます。Dan Flavin が蛍光灯の作品を生み出したのが、1963年で、ジャスパー・ジョーンズに捧げられた、pink out of a corner (to Jasper Johns) と題された作品もあります。

Mirror/Double というテーマのギャラリーです。面白い形状の不思議な空間がつくりだされています。

中央に位置するのは、Ballantine Ale の缶が二つ並んだ1960年の作品、Painted Bronze (Ale Cans) です。 Willem de Kooning は、ジャスパー・ジョーンズを支援していた、当時の著名ギャラリスト、Leo Castelli を表して、ビール缶でも売れると表現したそうですが、その言葉を受け、作られたのが、こちらの作品で、すぐに売れてしまったという逸話もあります。2年後には、アンディ・ウォーホルの有名作品、キャンベルスープ缶が登場し、ポップアートの典型的なモチーフの一つとなっていきます。
ジャスパー・ジョーンズは、モチーフに繰り返しをよく用い、同じものがペアで描かれているものが多いです。このギャラリーではそんな作品が集められています。

こちらも、それぞれ似た姿の二人の人物が登場しています。1987年に描かれた四季 (The Seasons: Spring, Summer, Fall, Winter) と名付けられた4作品のうちの二つ、春と秋が展示されています。夏と冬は、フィラデルフィア美術館で展示されています。

同じパターンの繰り返しで描かれている、Dancers on a Plane と題された 1979年の作品。

1983年の作品、Racing Thoughts。これと同名の色使いが違って雰囲気が異なる作品も一緒に飾られています。

こちらは、ブラシの入った、Savarin coffee をモチーフにしたリトグラフがずらりと並んだギャラリーです。中央には、1960年の彫刻、Painted Bronze があり、これをモデルに、1982年に、リトグラフを用いた実験的な作品をたくさん作り、作品を数多く残しています。同じ一つのものを幾通りもの色パターンで作品にして、部屋全体に飾るという面白い展示でした。

Dreams と名付けられたセクションでは、童話や絵本のような異世界感のあるメルヘンチックな作品が展示されています。こちらは、1989年の作品、Montez Singing。

幻想的な作品がずらりと飾られています。

フラッグとターゲットと並び、ジャスパー・ジョーンズらしいモチーフと言えば、数字です。休憩スペースがあるハドソン川沿いのギャラリーには、数字をモチーフにした、板の彫刻作品の数々が、飾られています。

そして、ジャスパー・ジョーンズの2020年に制作された最新作が、Slice と題された作品です。天体物理学者、Margaret Gellerさんによる銀河系の地図を背景に、右手には、膝の内部構造を描いたスケッチが貼りつけられています。宇宙という普遍的な存在と膝の怪我というパーソナルな対比が印象的な作品です。
実は、膝のスケッチは、カメルーン出身の17歳の少年が描いたものだそうです。ジャスパー・ジョーンズさんが通っている病院で飾られていて、目に止まり、気に入り、そのまま使用してしまったようで、著名アーティストが、盗用したとして問題になっていましたが、現在は和解しています。こちらで、詳細が紹介されています。

ジャスパー・ジョーンズとホイットニー美術館

こちらは、ホイットニー美術館で、1977年から78年にかけて開催された、ジャスパー・ジョーンズの特別展のポスターです。

ホイットニー美術館とジャスパー・ジョーンズの関係は深く、1959年に初めてホイットニー美術館で作品が展示されて以来ずっと関係が続いています。ホイットニー美術館は現在では、なんと220もの作品を所有しているそうです。小さなギャラリーでは、そんな両者のこれまでの関係を紹介し展示する資料展も行われています。

ホイットニー美術館では、1900年から1965年までのアメリカンアートの歴史がよく分かるコレクション展が行われています。中央の抽象表現主義的な作品は、Lee Krasnerの1957年の作品、The Seasons で、手前のポップアートは、アンディ・ウォーホルとロイ・リキテンスタインの作品です。ジャスパー・ジョーンズは、ちょうど抽象表現主義からポップアートへの移行期に登場したアーティストです。ホイットニー美術館の見どころ で、常設展について色々紹介しています。

ジャスパージョーンズの特別展は、2022年2月13日まで開催されています。
ホイットニー美術館の詳細は、こちらです。

ホイットニー美術館 見どころ満載!絶景ルーフトップも新登場

ジャスパージョーンズ特別展、Jasper Johns: Mind/Mirror は、フィラデルフィア美術館でも同時開催されています。ホイットニー美術館同様、ジャスパー・ジョーンズの数多くの作品が展示されています。フィラデルフィア美術館では、ジャスパー・ジョンズと日本をテーマにした展示も行われています。

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ホイットニー美術館 ジャスパージョーンズ特別展 有名作品アメリカ国旗やターゲットも登場の大回顧展 Jasper Johns: Mind/Mirror was last modified: 12月 30th, 2021 by mikissh