メトロポリタン美術館 マネ ドガ Manet/Degas 特別展 オルセー美術館の有名作品オリンピアも登場!

メトロポリタン美術館では、古典西洋美術から近代アートへと大きく変遷を遂げるきっかけとなった19世紀後半、印象派の時代前後に活躍した二人のフランス人巨匠、マネ (Édouard Manet) と ドガ (Edgar Degas) をテーマとした特別展 Manet/Degas が開催されています。Manet/Degas は、パリのオルセー美術館との共同開催で、マネの代表作の一つ、当時とても物議を醸したとされる、オリンピア (Olympia) をはじめ、オルセー美術館からやって来ている数多くのマネとドガの作品が、メトロポリタン美術館所蔵の作品と共に一堂に展示される豪華な特別展となっています。

ニューヨークを代表する巨大なミュージアム、メトロポリタン美術館では、19世紀後半に活躍した二人の著名フランス人アーティスト、エドゥアール・マネ (Édouard Manet) と エドガー・ドガ (Edgar Degas) の特別展、Manet / Degas が、2023年9月24日から 2024年1月7日まで行われています。

特別展の会場となっているのは、2階正面左手の特別展ギャラリー、Gallery 899 です。今夏に行われたファッション展同様、バーチャルキュー制での入場となっているので、入場前にまずスマホでウェイティングリストに登録する必要があります。詳細は、こちら をどうぞ。

マネとドガは、2歳差で歳も近く親しい友人でもあり、後にライバル関係にもなった近しい関係でした。二人が登場した頃のフランスのアート界と言えば、古典西洋美術の流れを汲んだ伝統を重んじる作風が大切にされ、権威あるフランス王立絵画彫刻アカデミー主催のサロンが、当時の新進アーティストたちの発表の場となっていました。

マネの作品も、サロンで展示されたことがありましたが、その後、権威あるサロンに似つかわしくない作品を提出し拒否されてしまい、サロン外で展示を行い物議を醸しました。そのことによって先に有名になったのが、マネ (Manet) でした。マネは51歳と比較的若くして亡くなってしまいましたが、ドガは、83歳と長命で、当時のアート界への反乱とも言える、日常の何気ない光景を詩的に描いた印象派の一人として、後に有名になり、バレエダンサーや馬のモチーフの作品が良く知られています。

今回の特別展では、古典西洋美術から近代アートへの変遷期となった19世紀後半に活躍した二人のフランス人アーティストの様々な作品が一緒に展示されるという面白い展示になっています。メトロポリタン美術館とオルセー美術館所蔵の作品が中心になっていますが、その他、様々な美術館からも作品がやってきて展示されています。

展示作品の中には、ドガがマネを描いた絵画やデッサンも色々あり、二人の近しい関係が伺えます。こちらは、マネ夫妻を描いた作品で、北九州市立美術館からやって来ています。

草上の昼食 (The Luncheon on the Grass)、魚釣り (Fishing) など普通の人がくつろいだ長閑な光景を重厚な古典西洋美術風に描いたマネの作品です。
当時のアーティストは、美術学校で学ぶのが王道でしたが、裕福な家庭に育った二人が学んだのは、ルーヴルをはじめとした美術館でした。ルネサンス前後のイタリア絵画、ベラスケスをはじめとしたスペイン絵画、フランスのドラクロワらの作品を真似て描いた二人の若い頃の作品などが展示されています。

草上の昼食 (The Luncheon on the Grass) は、オリンピアと並ぶマネの代表作の一つで、オルセー美術館 に所蔵されています。よく見ると、こちらはまだ粗い描き方の作品で、1862–1863年にかけて完成させた本番の準備のための習作です。

本番の草上の昼食はありませんが、今回の特別展のスター的存在となっているのが、オルセー美術館からやって来ている、マネの代表作、1863年に描かれた「オリンピア」(Olympia) です。こちらは、ウフィツィ美術館所蔵、ティツィアーノのヴィーナスを模した古典西洋美術風の作品ですが、神話など別世界の話ではなく現実世界で描いていることが不道徳と言うことでサロンでの展示を拒まれてしまいました。サロンで落選した作品を紹介する Salon des Refusés に展示され、たいへん物議を醸しました。

当時の代表的ジャンルであった肖像画をはじめ様々な分野の作品が展示されています。こちらは、ボストン美術館所蔵、ドガが妹夫妻を描いた作品、Edmondo and Thérèse Morbilli。マネ同様、ドガも、裕福な家に生まれ、あまり作品を売る必要がなかったので、自分が納得できるように自由に描いた作品が多いのが特徴です。

こちらも、ドガの親戚一家、The Bellelli Family を描いたドガの作品です。古典西洋美術風に描かれていて、マネの影響も感じられる印象派以前の若い頃の作品です。

当時のアーティストたちにとって重要な発表の場となっていたサロンに展示するために提出された作品の数々も展示されています。中には、サロンで展示された作品もありますが、「草上の昼食」、「オリンピア」同様、落選した作品も多くあります。
亡くなったキリストを天使と共に描いたメトロポリタン美術館所蔵の1864年の作品、The Dead Christ with Angels。典型的な古典西洋美術のモチーフですが、聖書の記述とは異なった描写で物議を醸し、こちらも落選してまいました。

ドガも若い頃は、サロンへ作品を出展するために色々作品を提出していて、神話、宗教、歴史などサロンで受け入れやすいテーマの作品を描いていました。
その一方、おそらく好んで描いたのは、日常の何気ない一コマだったのではないかと思います。こちらは、同時期に描かれた美しい花々が飾られた花瓶と共に女性が描かれた作品、A Woman Seated beside a Vase of Flowers です。

当時の著名文化人、エミール・ゾラ (Émile Zola) を描いたマネの1868年の作品です。マネは「オリンピア」など当時のアート界の常識を超えた絵画で物議を醸したアーティストですが、エミール・ゾラ (Émile Zola) は、そんなマネを擁護し、友人となった人物です。背景には、マネの「オリンピア」の他、浮世絵なども描かれていて、当時の人気の程が伺えます。

こちらは、ベランダに、マネの弟、ウジェーヌ・マネ (Eugène Manet) の妻で、印象派の女性アーティスト、ベルト・モリゾ (Berthe Morisot) と、画家の アントワーヌ・ギユメ (Antoine Guillemet)、バイオリニストの Fanny Claus が集まっている様子を描いた 1868‐1869年の作品で、1869年にサロンに展示されました。

マネとドガは、裕福な家庭に育ち、共通のコミュニティに属し、共通の知り合いも多く、ベルト・モリゾもそんな人物の一人でした。マネは、モリゾの師匠的な存在で、マネは、モリゾをモデルにした作品も描いています。モリゾは、サロンに出展したこともありますが、後に、ドガ、ルノワールらと共に印象派のアーティストとして活動します。

マネやドガは、人気のイベントや人々の注目を集めた社会的な出来事なども描いています。フランスでは、1863年に、競馬の国際大会、パリ大賞典 (Grand Prix de Paris) がはじまり、人気のイベントとなっていて、そんな光景を描いた作品も色々展示されています。馬は、バレエダンサーと並ぶドガの有名なモチーフの一つとなっています。

19世紀後半は、激動の時代で、欧米各地で戦争や内乱が起こっていました。こちらは、アメリカの南北戦争時のイギリス海峡での戦いの様子を描いたマネの1864年の作品、The Battle of the USS “Kearsarge” and the CSS “Alabama”。フランス沖で行われた戦いで、フランスでも大きな注目を集めた出来事だったようです。

アメリカと言えば、ドガは、1872年にアメリカを訪れ、ニューオーリンズに住んでいたことがあります。以前、こちらで紹介したことがありますが、ドガの兄弟や親戚がニューオーリンズを拠点にビジネスを行っていて、そこに滞在中にいくつかの作品を残しています。
こちらは、当時のニューオーリンズの綿花工場の様子を描いたドガの1873年の作品、A Cotton Office in New Orleans です。

その他、18世紀後半と言えば、メキシコ皇帝となったハプスブルク家のマクシミリアンが処刑されたり、プロレタリアートによる独裁、パリコミューンが成立したりと激動の時代でしたが、そんな時代を写す光景を描いたマネの作品の数々が展示されています。

そして、その後、印象派により主流になっていく、サロンでは展示されることがない何気ない日常の一コマをモチーフとした作品も色々展示されています。
サロンの枠組みを超え、モネ、ドガ、ルノワールをはじめとした印象派が初のグループ展を開催したのは、1874年4月でした。マネは、印象派的な作品を多く描いていますが、印象派としての展覧会には出展せず、サロンへの出展を続けていました。

一方、ドガは、サロンへの出展をやめ、印象派のグループ展に初回から参加していました。ドガは、印象派を代表するアーティストの一人として知られています。ドガの代表的なモチーフであるバレエダンサーを描いた作品などが出展されてました。こちらは、ドガの1870年の作品、The Dancing Class です。

19世紀後半のパリは、カフェ、ショップ、音楽ホール、劇場、バレエなどが登場し、民衆が主役の文化が花開き、多くのアーティストやライターを惹きつけました。そんなパリの華やかな光景を描いた作品も色々と展示されています。
こちらは、オペラのオーケストラ席の様子を描いたドガの1870年頃の作品です。

こちらもドガの作品で、何気ないカフェの光景を生き生きと描いています。

ドガ作の帽子屋さんの光景ですが、まるでその場にいるかのような雰囲気が伝わって来ます。

美しいドレスを着た歌手を描いた作品、The Singer in Green。

美しい若い女性を描いたマネの1877年の作品、Nana です。マネの作品は、どこか常識に反抗する感じの毒が隠されていることが多く、こちらも高級娼婦風の女性が描かれており、サロンに提出しましたが、落選した作品です。

こちらは、見事な明暗で部屋と二人の雰囲気が伝わってくるドガの作品です。

マネは、一足早く有名になりますが、1883年に51歳で亡くなってしまいます。ドガは、印象派のアーティストとして、次第に名声を高めていきます。ドガは、El Greco、Ingres、Delacroix ら巨匠の作品をはじめ個人的にアート作品の収集を行っていました。マネへの尊敬の念が強く、マネの8つの絵画をはじめ数多くのマネの作品を収集していました。
メキシコ皇帝となったハプスブルク家出身のマクシミリアンの処刑の様子を描いたマネの作品、The Execution of Maximilian は、マネの死後、バラバラに切り離されてしまいましたが、ドガは、切れ端を集め、もとに戻そうと努力していたようです。マネとドガは、当時の西洋美術の常識を覆すような作品を描き、その後の近代美術への移行に大きな影響を与えたアーティストです。

Manet/Degas は、2024年1月7日まで開催されています。メトロポリタン美術館には、この他にも数多くのドガとマネの作品があり、印象派などの作品が並ぶ19世紀西洋美術の常設展エリアでも展示されているので、合わせて訪れてみるのもおすすめです。
ギャラリーの外には、Manet/Degasをテーマとしたお土産も色々揃っています。

メトロポリタン美術館の全体像は、こちらです。ここしばらくリノベーションのため閉鎖されていた古典西洋美術のギャラリーは、11月20日からリオープンしています。

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印象派好きの人は、パリのオルセー美術館も見逃せません。

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メトロポリタン美術館 マネ ドガ Manet/Degas 特別展 オルセー美術館の有名作品オリンピアも登場! was last modified: 12月 5th, 2023 by mikissh