ニューヨークのグッゲンハイム美術館では、現役アーティストたちがキュレーターとなり、グッゲンハイム美術館の膨大なアートコレクションの中からアート作品を選んで展示する、アーティスティック・ライセンス (Artistic License) と題された特別展が開催されています。フランクロイドライトによるデザインの美しい螺旋状のギャラリーに、アーティストたちそれぞれが選んだ個性あふれるテーマの展示となっており、エリア毎に雰囲気の違った構成で、普段とはまた違った面白い切り口のグッゲンハイム美術館の特別展になっています。
セントラルパークに隣接する、アッパーイーストサイドの5番街沿いで、一際目立つ建物のミュージアムが、グッゲンハイム美術館 (Guggenheim Museum New York) です。20世紀以降の近現代アート、特に、ニューヨークを中心に大きなムーブメントとなった抽象表現主義 (Abstract Expressionism) を含めた抽象アートのコレクションで有名な美術館です。
現在、グッゲンハイム美術館では、これまでグッゲンハイムで展示されたことがある6人の現役アーティストたちが、それぞれのテーマで、グッゲンハイム美術館のコレクションの中から作品を選んで展示する “Artistic License: Six Takes on the Guggenheim Collection” が開催されています。グッゲンハイム美術館の持つ膨大なコレクションの中でも、20世紀以降1980年までの作品に焦点を当て、作品を選んでおり、グッゲンハイム美術館がアーティストと共同でキュレートするというのは初めての試みだそうです。
Cai Guo-Qiang: Non-Brand
最初に登場する小部屋のギャラリーでは、ぱっと見ただけでは、誰が描いたものか分からない作品が、ギッシリと並べられています。中国出身、現在、ニューヨークで活動しているアーティスト、Cai Guo-Qiang さんがキュレートしたこちらのギャラリーのテーマは、ノンブランド (Non-Brand)。
今でこそ有名なアーティストとして知られている、カンディンスキー、モンドリアン、シャガールたちですが、そんなアーティストたちが無名時代に描いた作品の数々が並べられています。まだ練習中な感じを受ける作品だったり、他のアーティストの影響が強い作品だったり、自分らしいスタイルを模索中な感じが見て取れる、今まであまり見たことがない作品の数々が展示されています。それぞれの作品の横には、アーティスト名が書かれていません。絵を見て誰の作品か是非当ててみてください。答えは、スタッフが貸してくれる別紙でまとめて紹介されています。
Paul Chan: Sex, Water, Salvation, or What Is a Bather?
螺旋状のギャラリーを上って行くと、夏らしく青を基調とした涼し気なエリアが登場します。ここでは、香港出身、アメリカ育ちのアーティスト、Paul Chan さんの海をテーマとした、美しい色合いの作品が多く飾られています。
こちらは、カラフルな幾何学模様の作品で有名なオランダ人アーティスト、Piet Mondrian の初期の頃、まだパリに移る前のオランダ時代の作品です。海辺の街、Zeeland の夏の砂丘の様子を描いた “Summer, Dune in Zeeland” です。ワシントンDCの クリーガー美術館 でもモンドリアンの後のスタイルからは、想像できない作品がありました。
こちらは、丸みを帯びたキュビスム作品で知られる Fernand Léger のヒトデを描いた1942年の作品、Starfish。
デ・クーニング (Willem de Kooning) の作品もあります。抽象表現主義のアーティストで、女性を描いた作品が多いですが、こちらの1975年の作品、”…Whose Name Was Writ in Water” というタイトルの作品は、自然の景色をモチーフとしています。先日まで、デ・クーニングの特別展 がアッパーイーストサイドのギャラリーで開催されていました。
珍しい言葉とタイポグラフィーのアーティスト、Lawrence Weiner さんの作品もあり、人気写真スポットになっていました。
Richard Prince: Four Paintings Looking Right
グッゲンハイム美術館は、ジャクソン・ポロックら1950年代前後にニューヨークで隆盛だった抽象表現主義のコレクションで知られていますが、Richard Prince さんのコーナー、Four Paintings Looking Right では、ニューヨークから伝播した国際的な同時代性が感じられる作品が展示されています。
スペイン人アーティスト、José Guerrero さんの黄色が印象的な作品、Signs and Portents をはじめ、似た雰囲気の作品が並んでいます。
生命体のような面白い形状の抽象表現作品。ニューヨークのアーティストの彫刻とドイツ人アーティストの絵画が相性よく並べられています。
こちらは、日本出身で、ニューヨークで活動したアーティスト、Kenzo Okada さんの1954年の作品、Solstice。和紙のような雰囲気の抽象表現の作品となっています。
ビートルズのオリジナルメンバーで、バスを演奏していたという Stuart Sutcliffe さんの作品もあります。Stuart Sutcliffe さんは、音楽の世界を離れ、アートの世界を選び、こんな抽象表現作品を残していたようです。こちらは、キュレーションした Richard Prince さんの所有作品だそうです。
Julie Mehretu: Cry Gold and See Black
続いてのコーナーは、エチオピア人女性アーティスト、Julie Mehretu さんの Cry Gold and See Black というタイトルで、世界中で多くの犠牲者を出した第二次世界大戦という悲惨な時代の影響を強く受けた作品が展示されています。
こちらは、テートブリテン でもお馴染みのモチーフ、フランシス・ベーコンさんの作品です。
Robert Rauschenberg の破壊されたかのような黄金の作品。
こちらは、前のコーナーの続きのような雰囲気ですが、ポロック風の絵画は、デンマーク人アーティスト、Asger Jorn さんの A Soul for Sale です。このような抽象表現のアートの流行は、戦争のトラウマの影響の側面もあるのかもしれません。
繊細な色使いの美しい工芸品のような作品もありました。
Carrie Mae Weems: What Could Have Been
さらに上に進んで行くと、白黒の世界が現れます。アメリカ人アーティスト、Carrie Mae Weems さんのコーナー、What Could Have Been では、コレクションにおける白人男性アーティストへの偏りを問題意識に、白黒の作品で構成されています。
ロスコ、Franz Kline の白黒グレイの抽象表現作品に、ジャコメッティの彫刻が、独特の世界を作り出しています。
白黒の世界の中、黒の使い方が印象的な Max Beckmann さんの作品が一点飾られています。
こちらの白黒写真の作品群をよく見てみると、非白人の人々のみが登場しています。
以前、チェルシーのギャラリーの特別展 で見かけた草間彌生さんの白の Infinity Nets の作品もありました。今秋の11月から12月にかけて、再び草間彌生さんの特別展の開催が予定されています。また、ボストンの現代アート美術館、ICA Boston では、“LOVE IS CALLING” と題された草間彌生さんの人気の Infinity Mirror Rooms シリーズの一つを体験できる展示が、9月24日からスタートします。
Jenny Holzer: Good Artists
そして、最上部を飾るのが、Jenny Holzer さんのコーナーです。Good Artists と名付けられた展示では、コレクションの中で少数となっている女性アーティストの作品が飾られています。
アメリカ出身、パリで活動した抽象表現主義アーティスト、Joan Mitchell さんの作品。複数枚のパネルを使用した巨大な美しい色合いの作品で知られています。現在、チェルシーのギャラリーで、Joan Mitchell さんの特別展 が開催されています。
こちらも数少ない抽象表現主義の女性アーティスト、Helen Frankenthaler さんの1963年の作品、Canal。
様々な美術館で見かける一目見たら忘れられない作風の彫刻。男性的な印象を受けますが、ロシア出身で、アメリカで活躍した女性アーティスト、Louise Nevelson さんの作品です。
この他、印象派とポスト印象派ギャラリー、ブランクーシの彫刻ギャラリー、昨年、The Hugo Boss Prize を獲得した Simone Leigh さんの特別展など色々見どころがあります。
グッゲンハイム美術館での展示を含め、今年ニューヨークで最もフィーチャーされているアーティスト、Simone Leigh さんは、こちらで紹介しています。
グッゲンハイム美術館のコレクションの代表作の数々は、こちらでも紹介しています。
グッゲンハイム美術館と言えば、アート作品と共に見どころとなのが、フランク・ロイド・ライトがデザインした個性的な建物です。現在、ユネスコでは、今年の世界遺産を選出する会合が開催されていますが、グッゲンハイム美術館を含め、アメリカを代表する建築家、フランクロイドライト建築として8つの建築サイトが世界遺産にノミネートされています。近々、グッゲンハイム美術館が世界遺産に!という発表が聞けるかもしれません。
グッゲンハイム美術館
Guggenheim Museum New York
1071 5th Ave, New York, NY 10128 地図